囚われのアレな人

助けてください。

すぐにでもそう叫びたくなる状況に僕たちは深く心を抉られた。しかもオマケ付き。

「ちっ…近づくな!私の右目がっ…!」

少し離れた場所に、アレな人はいる。

どうしてこんなことになったのか。

それは昨日のこと。


「…てか、今思い出したんですけど」

アリサは突然話し出す。

「お金持ってます?」

「え」

確かに、言われてみればそうだった。買い物をする機会も無ければ、食料は自給自足。これこそエコ。知らんけど。

「獣の都市、入るのにお金いるんですよ」

いやなんで。

「…獣の都市は、外には漏らしちゃいけないような研究をしてたりするし…でも、口止め料がもらえるよ」

意味無くね。入場料で近づけないようにしてるのかも。

「というわけで、人を見つけ次第金巻き上げましょう!」

言い方。




すぐに獲物は見つかりました。イツさんはあまり慣れてなさそうだったので僕がやります。

見つけたのはパッと見20代くらいであろう女の人。

こんな荒れ地だし、女の人1人は危なさそうだなーって思いましたが。その人はしっかりチェーンソーを備えてました。怖。

「すいませーんそこのお姉さーん」

「あぁ?ころすぞ」

うわぁ。急に暴言吐いた割には可愛らしい声ですこと。

「僕今さっき狩りしてたんですよ。そしたらこれ!」

僕は肉を取り出しました。

「…その肉がなに?」

「これ、めっちゃ肉付き良くないですか?」

「んー…言われてみれば…」

「めっちゃ赤くて美味しそうじゃないですか?」

「そうだね…」

「食べたいですか?」

「たべたい」

「1000円です」

値段を言った途端にお姉さんは目の色を変えました。

「あぁ?お前まさか今までそうやって金稼いでたのか?」

う。

「はは、あぶねーあぶねー。そーゆー手口か。」

多分分かってない。

「100円でくれ」

「2000円にしますよ」

「あ?」

チェーンソー動かしちゃいました。こわいよー。

「…私を怒らせたな…付いてこい」

「いやで」

そこでチェーンソーが止まり僕の首へ。

「…」

「あ、お前らも付いてこい」

2人も巻き込んじゃいました。


そして車で連れてこられたのは地下の寒い寒い牢獄。

「ここは元々刑務所だったらしい…今は私の拠点」

そう言って僕たちは別々に3つの牢に入れられました。

「よし、お前らにどんな刑罰を与えるか考える。それまでそこで寝てろ」

ちなみにアールとエルは奪われちゃいました。ピンチ。

それだけでも苦痛ですが、現在僕たちが閉じ込められている3つの並んでいる牢。そこに廊下を挟んで存在する牢。

そこにいたのは少女でした。彼女は僕たちを見るなり、

「お前らまさか…私を狙う悪の組織か…!?わざと捕まって私の持つ悪魔の心臓を狙いに来たんだ…!」

アレな人でした。




というわけで只今会議中。「私は今から外に出てくる。逃げるなんて考えんなよ」なんてペラペラ話すからどんなことも話せる。

「で、どうする?脱獄」

「無理だと思います」

「刑罰が下されるなら、牢が開けられた瞬間を狙って…」

「私の悪魔の力があれば…」

真面目にやろうぜ。特に最後の奴。ちなみに彼女の名前はカヅラと言うそう。カヅラ曰く「悪魔から授かった悪夢と不幸を呼び寄せる禁断の名」らしい。ありえん。

「とりあえず今はフェニカの案を」

「待て」

なんだなんだ。

「私にも案を出させてもらおうか」

いやふざけてたでしょうに。

「実はだな…あの女、私には甘いんだ」

「…」

「私はここに来て半年経つが未だに刑罰など無い」

半年。初めて聞いたんだけど。

「しかもお前らには冷たかったがお前らが来る前は普通に雑談もしていた仲だ。良い話し相手だ」

会話成立してるか心配だけど、そんな関係があるならいけそう。なんで牢獄に入れてるのか。

「だからさ…私の願いなら聞き入れてくれると思うんだ」

まぁ悪い考えじゃないし、採用することにした。




数日後。作戦開始。

3人には影を薄くしてもらって、出来るだけ彼女がいつもどおりに私と話せる環境を作った。

「はーい今日のご飯だよー」

数日経ったからか口調もいつのまにか戻っている。正直、3人を連れてきた時の彼女の雰囲気はヤバかった。本当に怖かった。マジで。

「…」

彼女は最後に私の昼食を置いた。そうして「話したい」みたいな目を向けてくる。

「何」

彼女は椅子と机を私の目の前に置いて、一度部屋を出てから食事を持って来て机に置いた。

「…」

「…ごめんね、怖かった?この前…すごい…怒ってて…」

「あ、あぁ…大丈夫」

奥の人たちのヤバそうな目線は無視した。

「ねぇ…カヅラちゃんってどこで生まれたの?」

半年間ずっとこんな感じの質問ばかり。

「…覚えてない」

実際覚えてない。私はいつの間にか幼少期の記憶を忘れてしまっていた。

「…つまんないなぁ。育ちは?」

「あぁー…花の都市かな?」

曖昧。

「へぇー…花の都市かぁ…どんな所なの?」

「花がいっぱいある」

正直それぐらいしか特徴はない。

「ふーん…他には?」

「…言葉では言いにくい…かな…」

後はなんか犯罪多かったり麻薬出回ってたり。

「…花の都市…一緒に行かないか?」

「え」

これは作戦。

「だからさ…私とアイツらも一緒にここから出し」

「すみません無理です」

無理だったかー。


「駄目だった」

「知ってる」

「聞いてたから分かります」

「あっけなかったですね」

「めっちゃ言うじゃん」

「てか悪魔がどうとか言ってたけどなんか無くなったね」

「あ」

「…」

「…」

しまった。忘れてた。

「…あ、なんかみぎうでがー」

「もう無理だと思います」

「…はい」

私は無個性だと思ってこんなことしてたけど。

バレたらめっちゃ恥ずかしいです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る