あの場所へ

突如として行われる訓練であった

「…まだですか」

「まだ」

「…」

「…」

「もう焦げそうですよ」

「まだだ。丁度いい焼き加減で…」

只今焚き火で調理中。ちなみに鹿。あの化け物はみんなが化け物になったわけじゃないそうで、まだ普通の動物は残ってた。だからこうして野生の肉を食う。森の中で。

それにしても、焚き火の音って気持ちがいい。今すぐにでも眠れそうな音だ…

「…」

「…あの、寝てません?」

「…!?あ、あぁ…寝てる」

「寝てるんですか」

「いや起きてる」

「完全に寝ぼけてますね」

「…起きてる」

「…あ、焦げました」

「…あ」

急いで肉刺した棒を取った。真っ黒。あーあ。

「呑気ですね貴方達」

「アリサは変わんないよー」

「今更なんだけど、耳元で喋られるの嫌なんだけど」

「そんなこと私に言われてもね…」

「その点私の方が便利ですね。バッグ形なので運びやすいですし」

「でもあんたは重いじゃん。それに私だって首にかけれるんだよ?」

「首にかけるとうるさい」

「焦げたやつ…まずい」

「でしょうね」

とまぁゆったりとした…?会話をずっとしてた。

「そいえば、イツさんは何人殺しました?」

「まだ一人しか…」

あの大工。

「そうですか…ちなみに僕は5人です」

「選別始まったのは?」

「3ヶ月前くらいですかねー」

割と少ない。こういうものなのだろうか。

「というわけで、人殺しの練習に付き合ってもらいたいんですけど」

どういうわけで?


「うわぁぁぁぁぁぁぁ死ぬ死ぬ死ぬぅぅ!」

アリサって足速いね。

ちなみに僕の手にはその辺にいた野良猫がいます。

「ほら!猫だぞ猫!」

「ひぃぃぃやぁぁぁぁ!!」

アリサ曰く「足腰、体幹、判断力です!あとは勢いだけでどうにかなります!」と。

そんなことないと思うけど。

というわけで走り込みらしい。


「次です!体幹トレーニングイズジャスティスです!」

なんか言ってる。

「どうぞ!丸太です!」

何故僕まで。

「…じゃぁ、もしアリサが負けたら川まで魚捕りに行くってのは」

「了解です!」

何故嬉しそうなのか。

なんやかんやでアリサが負けた。体幹どころか乗ることすら出来ていない。

「はい川ー」

「うあぁぁぁ!!」

騒がしい。




川にて。

僕は今イツさんに言われ魚を獲っています。

最初は釣りをしようと思いましたが、面倒くさいので

飛び込みました。そのまんまで。

すると目の前に美味しそうな鮭を発見!

それも3匹も!チャンス!

僕は鮭を手で掴みました。そしてそのまま水の外にぶん投げる。これが一番効率がいいのです。

「よっしゃぁー3匹!これでいいでしょ!」

「私の事忘れてる?」

「忘れてないよー」

まぁその割には精密機器を水に浸けてた訳ですが。

まぁいつもやってるので問題は無し。

「これだけあればイツさんも満足でしょー」

「まーそうだろうね。私らはいらないし」

そうでしょうね。

「帰りますかー」

そう、完全に安心しきっていました。

僕の目の前には、男が1人。しかし少し変。

「あ、あのー…どいてもらえます?」

周りは岩場で道は狭く、この人がど真ん中で仁王立ちしてるせいで通れない。しかもなんか熊のコスプレしてる。

「あの…」

…殺そうかな。すると、突然喋りました。

「俺はこの森に住む熊だ。お前、鮭を獲っただろ」

うわぁ頭おかしい人だ。

「…捕りましたけど何か?」

「俺はこの森に住んでいる!つまりこの森においての全ての権利は俺にある!その鮭はこの森の川にいた。つまりその鮭は俺の物だ!」

「ちょっと森出てみてはいかがでしょう」

「とにかく、今お前が持っている鮭を全て渡せ」

「お断りします」

イツさんに殺されそうで怖いので。

「じゃぁ脱げ」

は?

「………………………もう一度言ってください」

「脱げ。それで許す」

馬鹿しかいねぇじゃんマジで殺そうかなよし殺そう今すぐ殺そうこいつ熊とか言ってるくせになんで性欲は人間なんだよ馬鹿にも程があるよ全くさぁお前は泥に塗れて本物の熊にボコられてろよ。死なない程度に。


「ただいまでーす」

イツさんの元へ帰りました。

「…お前、服に血付いてるけど」

「いつもじゃないすか」

本当にそうです。

「いや…明らかに新しいのが」

「魚の血じゃないですか?」

「魚傷一つ無いけど」

「…」

「誰か殺ったのか?」

「…熊です」

間違いではありません。




アリサがなんか血塗れで帰って来たけど熊だったらしいので無視。鮭美味そう。

「じゃぁ行くぞー」

「えっ食べないんですか」

「さっき食ったばかりだろ」

「足りないです」

「行くぞ」

「食べたいです!」

どんだけ食う気だコイツ…

「それは非常食だっての」

「1匹食べてもまだ2匹残ります!」

「いやそういう問題じゃなくて…」

「じゃぁ半分だけでも……ん?」

アリサはずっと僕の後ろを見ているようだった。

僕も振り向くと、そこにはボロボロの服を着た少女がフラフラと歩いてきていた。

「なんだあれ」

「…なんでこんなとこに…しかもあんなボロボロで…」

知ってるんだ。アリサは女の子に駆け寄った。

「フェニカじゃん…!何が…」

「アリサさん…?」

フェニカと呼ばれた少女は静かに涙を流しながら答えた。

「変異体が…脱走して…みんな…殺された…」

「脱走…!?」

よく見ればフェニカの靴には血が付いていた。血溜まりを歩いてきたのか。とりあえず悲惨な事があった。

「バジカさんは…!?クルカさんとかも…」

「研究チームはみんな生きてる…多分、今籠城」

「そんな…」

何事。

「おい、何があったんだよ」

「獣の都市です」

「なんだそこ」

「フェニカ…この子の住んでる所です。ここからはそこまで遠くありません」

獣の都市。いかにも危なそう。

「フェニカ…だったか?お前は逃されたのか?」

「バジカさんに、逃げろって言われて…ずっと歩いてたけど、2人が見えて…よく見えなかったから、ゆっくり歩いてて…」

「イツさん…行きましょう、獣の都市」

「あぁ…フェニカ、お前は逃げてろ」

「いえ。フェニカも連れていきます。1人じゃ危ないですし、状況の把握は大切です」

「合格」

「じゃぁフェニカ、行こっか」

「うん…」

獣の都市…どこかで聞いたか、見た。

とにかく、死ぬと思う。

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