新しい人生の始まりはAIと共に

只今3人で朝食中。

シナナに話を聞くため、僕は目玉焼きを飲み込む。

「…君も選別者?」

しかしこんな小さい子が人を殺すだろうか。

「んー…元?って言えばいいかな」

なんと。引退されていました。

「私、まだ小さくて人殺せなくって…だから知り合いに頼んで引き継いでもらったんだー」

ってことは人殺すことに抵抗は無いんだ。この時代怖い。

「シナナは僕にエルが渡された後に玄関で仮面の男とバッタリ会ったんです。そこでまた帰ってきてシナナにも腕時計が渡されたんです」

それから、シナナは使命が果たせるように特訓を始めたらしい。4日で終わったんだと。

僕は目玉焼き(3つ目)を口に頬張る。

「今頃バジカさんどうしてるかなー」

「どうだろうね…エスとはあんま気が合わなそうだったし…」

誰やねん。話の流れ的に受け継いだ人だと思うけど。

目玉焼きを飲み込んだ僕はもう一つ聞いてみた。

「仮面の男っていうのは誰なの?」

まぁ分かるわけないんだけど。分からないようにするための仮面だろうけど。

「あーあの人、デボイラの人だと思いますけど…」

…何それ。

「えーっと、デボイラって何?」

「「え?」」

だからその何で知らないの!?みたいなのやめて。俺昨日起きたばっかやから。

「デボイラは、ここからだいぶ遠くにある都市です。結構発展してるらしくて、あそこに行った人は二度と帰って来ないとか言われてます」

「多分あそこの生活が快適だからだと思うけどね。あの仮面の人色々機械持ってたし多分デボイラの人でしょーって感じで」

なんか軽っ。

どうやらデボイラのお偉いさんは外で悪事を働く事が多いらしい。選別者を決めてるのはデボイラで、外にいる人間を減らすため、とかいう噂まであるとか。

あの手紙の主はデボイラの人なのだろうか。

なんて考えごとをしてたら。

「お兄さん!じゃんけんしましょう!」

急。よく見たら机の真ん中にあった唐揚げが最後の1個。

僕は朝から揚げ物はあまり食べないから食べてなかったけど。どうぞあげます。

「別に僕は」

「っしゃぁー食うぜー!」

「待ちやがれクソ兄貴が!私のでしょうが!」

アンタも怖いわ。そして相変わらず思いやりに欠けているアリサ。妹なんだから譲ってやれそこは。

「おいシナナぁ!お前唐揚げ何個食ったぁー!」

「5個だよ!それが何!?」

「今日何個あったんだ?」

「7!」

それは食い過ぎです。

「そうだなぁ?俺1個しか食ってねぇんだよぉぉ!」

「知らねー!アンタが食べなかったのが悪いんでしょ!」

「はぁ?お前ずっと唐揚げの皿抱えてたぞ!」

「その方が食べやすいでしょ!」

客の前で壮大な兄妹喧嘩を披露する二人。しょーもねぇ。

終わりそうにないから、唐揚げは僕が食べてやった。

しかし二人は気づかない。馬鹿ばっか。

「あーもういい!お前のガトーショコラ食ってやる!」

「はぁ!?食べたらどうなるか分かってんの?だったら私もアンタの部屋のガラクタ全部捨ててやんよ!」

「あ?ガラクタって何だよ!あれは立派なコレクションだろうが!」

「何言ってんの?あれどう見ても空き缶じゃん!」

「あぁそうだよ空き缶だよ!でもあれは素晴らしい芸術だ!あれを眺めてるだけで歴史を…」

「あーあーうるさいうるさいうるさい」

「ん…うるさ…あぁ…いつものか…」

いつの間にかエルが喋りだした。寝てたっぽい。AIも寝るんだ。知らなかった。てかいつものって。いつもこんな感じなんだ。騒がしい兄妹ですこと。

「あの、二人とも気づいてませんけど」

隣の椅子に置いてあったアールの一言。その通りです。

「おーい、もう唐揚げ無いぞー」

気づかず。

「唐揚げ無いぞー!」

気づかず。

「もし僕が居なかったらどうなってたと思う?生きていけないだろ!」

嫌なタイプの言い方してやがる。

「一人なら一人で今より成長できますぅ〜!」

てかいつの間にそんな話に。

「てゆうかなにその上から目線!兄だから偉いって?家事ほとんど私がしてるのに!」

「それは僕が出かけてるからだろ!」

「へーそうですか!じゃぁ今日一日私なんにもしないから!」

やったれ。

「残念!今日も外出てくからね!」

本当に残念。

「アリサ、うるさい」

「あっごめん」

「はぁ…お兄ちゃん嫌い」

「…」

…落ち着いた様子。

「…食えよ。」

あ。

「最初からそう言えば…ん?」

「…」

「無い」

「無いじゃん」

「お前食うの速いな」

「いや…まだ食べてない…」

「ごめん…僕が食べた」

「「あ、そう」」

「…」

何だったんださっきまで。最初から食えばよかった。

「この二人他人には優しいから☆」

そんなことないと思います。


「それじゃぁ」

僕はアールを肩にかける。

「お兄さーん、また来てねー!」

シナナが手を降っている。

「お兄ちゃんも頑張ってね!死なないでよ!」

…そう。僕の隣にはアリサがいる。

僕が出ると言った途端泣き出し、「僕もついていきまぁぁぁす!」なんて言うから一緒に行くことにした。

「お兄さんどこ行きましょう!」

…てゆうか。

「なんかお兄さんって呼ばれるの慣れないな」

あ。声に出ちゃった。

「そすか。じゃぁ…イツさんで!」

???

「なにゆえイツ」

「アールに5って書いてあったんで!適当っすか?」

適当。でも別に悪い気はしない。

「じゃぁ…いいよイツで」

「よーし!行きましょうイツさん!」

そして僕たちは気が遠くなるような長い旅を始める。

終わりの見えない使命を抱えて。

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