とある少年のランチタイムは突然に

あ。あるんだ。木。そう思った。

割と木々が生い茂った場所に出た。

「そこまで荒れてないようですね…」

本当にその通りだ。道があるが、歩いていると寝る前とさほど変わらない。

「はぁ…お腹すいた…」

そう。僕は起きてから何も食べていない。

スラムみたいなのでもいいから集落でもあればいいんだけど。

そんな事を考えながらぼーっと歩いていた僕。

静かに風が吹いていく。葉の音が心地良い。

そんな環境に似つかわない声が一つ。

「アァァァ来るなァァァァ!!!」

誰やねん。

前から発狂と共にやって来たのは、まだ10歳ほどに見える少年。少し長めの髪が鬱陶しそうに頭を振りながら走ってるせいで首にかけてあるヘッドホンが落ちそう。その後ろには、熊…などいない。猫。

猫かーい。

「あっ!お兄さんイケメンですね!助けて下さい!」

嘘つけ。

思いっきり腹にパンチしてやった。

「ごふっ」

「しゃぁーっ」

「…!いやぁぁぁぁ!バケモノォォォ!!」

何だこいつ。僕は猫を拾い上げてやった。なんでこんなに怒ってんだか。

「はっ…!?お兄さんソイツを素手で…勇者!?」

「いや、こいつただの猫だぞ」

「…ね、こ…?」

あ、そうか。もしかしてまだ小さいから知らない?

この時代だと猫は珍しいとかそういうことか?

「ま、怖がる事はないぞ。引っ掻いてくるだけだから」

「引っ掻いて…!?怖…」

「…」

「…?」

「…」

「あ、そっか。ありがとーございまーす」

親出せ。


どうやら彼は猫が咥えていた魚を盗んでいったらしい。

あんなに怯える割には凄い事するやん。

しかも自業自得じゃねぇか。助けなければよかった。

そして只今彼のリュックを物色中。「どうぞ!好きに持っていって下さい!」なんて言われたので。

流石にリュックごと持っていく外道じゃないから、

「じゃぁこれを貰っていこうかな」と僕が取り出したのは綺麗な弁当。それはそれは綺麗な手作り弁当。いい匂いがする。食欲が溢れ出てくる。

「あっ!それだけは勘弁してください!」

え、好きに持ってけって言ったやん。

「それはお母さんに作ってもらった今までで一番豪華なスペシャル弁当なんです!お願いします!それだけは僕に返してください!」

はぁ…

明らかに何言ってんだコイツって顔してたら、

「…じゃぁ、ここで一緒に食べましょう!!」

なんでそうなった。


当たり前だけど、彼は殺す必要無し。こんなのが犯罪出来るかっての。ちなみに名前はアリサと言うらしい。

「お兄さんってどこに住んでるんすか?」

卵焼きを頬張りながら聞いてきた。

「あぁ…僕家は無いな…」

「え!?嘘!?夜生きていけます!?」

一体なんの事だろうか。

「僕今日起きたばっかだから」

何も知らない人にとってはよく分からない言葉だったと思う。

「夜って…化け物が彷徨いてるんじゃないですか?」

化け物?化け物とは如何に。

「いや…知らない」

「夜…僕この前窓から見たんですけど、手足いっぱいある鹿みたいなのがいっぱいいるんです」

なにその地獄みたいな状況。

それなら。

「そーなんだー。じゃぁ君の家に」

「どうぞおいでください!」

ラッキー。

「あ、ヤバい」

「え?」

「僕の家まで一日かかる所まで逃げてました」

嘘だろ。


どうやら猫から逃げてる間に山二つくらい超えてたそう。お前の方が化け物じゃねぇか。それをずっと追い続ける猫の執着心も怖い。

というわけで只今爆走中。

「うわぁぁぁぁぁぁ夜怖そうだなぁぁ!!」

なんて叫びながら。

「うわぁぁぁぁぁぁさっきみたいに化け物が追ってきてると思えばぁぁ!!」

走っていると川を発見。

「川です!飲みましょう水!!」

そのままアリサは飛び込んだ。やっぱり化け物だ。

「ゴブォブォッッッブォァァ!!うめぇ!水うめェァァァァぁぁぁ!!」

狂ったのかな。


「今どの辺?」

「家まで2時間くらいですかね」

「今何時?」

「9時です」

終わった。僕たちは既に諦めていた。

その時、神様でも舞い降りたんじゃないかと思った程に神々しい(ように見えた)光があった。

家だ!

「い…家です!家がありますよ!」

「よ、よし…!入れてもらおう何なら泊めてもらおう!」

ドアを嫌いなひとだと思ってノックノック。一方でアリサはピンポン係。

「あぁぁうっせぇなお前らぁ!」

怒声が聞こえた。知ってた。出てきたのは普通の服の普通の顔の大変失礼ですが無個性ですねって言いたくなるくらい普通のシンプル男。

「すいませんこんなことしておいて恐縮ですが泊めてもらえないでしょうか僕まだ13ですしたぶんこのお兄さんもまだ20超えてないですしもうすぐ奴ら出てくるんで入れてくれるだけでもお願いしますお願いしまぁぁす!」

もはや狂気。ちなみに、僕も。

「こちらからもお願いします僕はコイツの言うとおりまだ未成年ですまぁ厳密に言えば200超えてますけどどうでもいいですね忘れてくださいあとコイツが13ってのも今知りましたけどコイツもまだこんなに若いんでコイツだけでも入れてやって下さいお願いしまぁぁす!」

ぶん殴られた。


というわけで只今屋根裏で静かな夜を送っています。

殴られた後、「まぁ死なずにここまで来れたし、ここで入れなかったら俺も人殺しになるしな」と少々納得のいかない理由で入れてもらった。しかも屋根裏なら好きに使っていいと言われマジで喜んだ。

「見てください、あれが化け物です」

そう言われ、僕は屋根裏にあった小さな窓から外を覗こうとする。が、アリサがずっと見てるせいで見えない。

「…」

アリサ、お前は少々思いやりに欠ける。

「…お兄さん、ほらあれが化け物ですよ」

思いっきり殴ってやった。

アリサのもだえ苦しむ声は無視して、窓から外を眺めてみた。そこには地獄としか言いようがない光景が広がっていた。本当に地獄。秒で死にそう。

アリサの言った鹿ベースの化け物の他に、牛、鰐、狼、などなど。どうやら大体動物が変異しているらしい。

「そういえば、お兄さん不思議ですよね…化け物の事知らなかったり、200超えてるとか変な事言うし…」

「あ、その件はスルーで」

「それは流石に無理です」

…無理らしい。というわけで、全部説明してやった。

全部説明し終わった後。アリサと顔を合わせると、アリサはビックリするほど目を輝かせていた。

「おぉぉぉー!お兄さんも僕と同じだったんですね!」



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