春が来た、何処にきた? 後編

「……着いた」


最初の目的地、ケーキショップ『HONEY LOVE』。

元気な女性店長さんと、男性パティシエがいるお店。


カラン……。


「いらっしゃいませ~」


「こんばんは」


店内に入ると、店長さんが笑顔で迎えてくれた。

ショーケースの中には、沢山のスイーツ達が並んでいる。

あぁ、今日も目移りしちゃうな……どれにしようかな。


「春子ちゃん、久しぶりね。元気にしてた?」


「はい。店長さんも、元気そうですね」


「もう、店長さんって呼び方しないでって言ったのに。南美(なみ)で良いわよ~」


店長さん……南美さんは、ここで学生の頃からアルバイトをしていたみたいで、以前の店長さんの引退を期に引き継ぎ、店長さんになったみたい。

そして、その南美さんの旦那さんがすごくイケメンで、今でもラブラブみたい。

羨ましい限りです……。



「それにしても、すごく綺麗になったわね。元々美人だなとは思っていたけれど、好きな人でも出来たんでしょ?」


「……でも、告白する前にフラれちゃいましたから」


「そうなの?」


「はい」


悲しい光景をまた思い出して、泣きそうになってしまった。

それを察したのか、南美さんはカウンターから出て、そっと私を抱き締めてくれた。



「嫌なこと思い出させてごめんね。でもさ、そんなに好きなら『告白』してみたら?1度フラれても、2度フラれても同じだもの。まぁ、すごく重い精神的ダメージは受けるけど、言わないで後悔するより当たって砕けろ~!だから」


「でも……その勇気が出なくて」


「まぁ、気持ちはわかる。私なんて、何十回告白したことか。相手は勿論、愛する旦那さんにだけど。付き合ってもらうまで、猛烈アタックしたんだよ?でも、立場あるから無理とか、私が社長の奥様の親友だからあり得ない……とかね、変な理由で断られ続けたの。でも、最後は私が勝ったけどね」


南美さんは、その光景を思い出して笑っていた。

最初から順風満帆じゃなかったんだ、ラブラブだから何も困難なんて無いと思っていた。



「あ、押してもダメなら引いてみるっていうのもあるけどね。何度やっても本当にダメだなって思ったら、諦める。まだ若いんだから、諦めて次に行かないと!男は1人じゃ無いんだから」


「はい」


そうだよね、まだ当たっても無いのに諦めるのは早いよね。

まだ好きなら、1度くらい『告白』しても良いよね?


「あ、いけない。つい、お節介しちゃった。ごめんなさいね」


「いえ、南美さんの助言ありがたかったです。勇気、もらえました。頑張ってみます。で、砕けたら……ここで美味しいもの食べて忘れますから」


「うん、その時はご馳走するから。いつでも来て良いわよ」


「はい」


南美さんは、私なら大丈夫と言ってくれた。

でも、相手はあの人だから……。

私が苦手だと思っていた人を好きになってしまったから……。



カラン……。


「いらっしゃいませ~。あら、こんばんは」


「南美さん、こんばんは。春子、お待たせ~。間に合ったみたいね」


「うん、これから選ぶところだよ」


千夏は何事もなかったようた店内に入ってきた。

髪が乱れていない所を見ると、車で送ってきてもらったみたい。


「ゆっくり選んでも良いわよ。家の車で行くから」


「わかった。それじゃ……」


私は新作のゼリー2種類と、シュークリーム、モンブラン、ショートケーキ、ベリーソースが入ったレアチーズケーキを選んだ。



「お待たせしました。これオマケのクッキー、良かったら食べてね」


「ありがとうございます」


南美さんはケーキを入れたの箱の他に、小さな紙袋に入ったクッキーを渡してくれた。

焼き立ての香りがして、とても幸せな気分になった。


「春子ちゃん、ファイトだよ」


「はい!」


私は南美さんにお礼を言い、店を後にした。

千夏は何があったの?と私を見ていたけど、『勇気をもらった』と一言だけ伝えた。


勿論、私の性格からしてすぐに実行できるとは思えないけれど、でも……『告白』は実行したい。

私が変わるその1歩まで、あと少し。



ピンポーン……。


「はい」


「こんばんは。春子です」


『どうぞ入って~』


千夏の家の車で松川家まで送ってもらったお陰で、あっという間に着くことが出来た。

そして、インターフォン越しに会話を終え、当たり前のように千夏が先に中へ入っていく。

私も続いて中に入ると、玄関には私達の他に男物の革靴が2つ置いてあった。


1つは松川主任のものだろうけれど、誰かお客様がいるのかな?

不思議に思いつつも、千夏の後をついていった。



「こんばんは」


「えっ……」


「愛、この人誰?」


リビングに入ると、高そうなスーツを着た男性が私達に挨拶してきた。

親戚か誰かがいるのかと思っていたのに、私達より少し歳上の男性がいた。

もしかして、さっきの靴の持ち主?


「私も初対面なんだけど、春子は知っている人みたいだよ?」


「私が知っている人?」


……私に男性の知り合いなんていないんだけど。

でも、何処かで見たような気もするし。

あぁ、全く思い出せない……。



「俺が招待したんだ。彼は篠原晃生(あきお)さん。取引先の社長で、太郎と幼馴染みらしいんだ」


「『はる』さん、お久しぶり」


「えっ……?」


はる……さん?

この呼び方……何処で言われたっけ??


「俺、『あき』だよ」


「あき……さん」


あっ、思い出した。

合コンのメンバーにいた人!

あ……なるほど、初対面じゃなかった。

ほとんど鈴木さんと話していたから、あまり記憶に残っていなかったんだ。

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