「佐藤、やっと出たか。1時間も出てこないから心配したぞ」


「アハハ……ちょっと考え事していたので。でも、そんなに長い時間いましたか?」


だからクラクラするのね。

冷たい水でも飲めば大丈夫かなぁ……。

台所行かなく……ちゃ。


「嘘は言っていないぞ。……っておい、佐藤!」


鈴木さん、突然大声出してどうしたの?

そう思った瞬間、目の前が真っ暗になって……全身の力がガクンと抜けていってしまった。



「佐藤、大丈夫か?」


あれ?鈴木さんの顔が近い……。

何故か、さっき鈴木さんの為に敷いた布団に私が寝ていて、額の上に冷たいタオルがある。

この冷たさが、すごく気持ちいい……。


「あ、すみませ……ん。ちょっとのぼせたみたいで」

「驚かせるな、急に倒れてきたんだぞ」


「あ……」


そっか、倒れちゃったから寝かせてくれたのね。


「……また迷惑かけちゃいました。ごめんなさい」


「そんなの気にするな。ほら、冷たい水も持ってきたから少しでも飲め」


「ありがとうございます」


私は体を起こし、冷たい水を少しいただいた。

その間も、鈴木さんは私の体を支えてくれている。

また鈴木さんの世話になっちゃった。

優しい言葉をかけてくれているけれど、呆れているだろうな……。



「佐藤……俺は、最初お前と関わりたくないと思っていた。関わってみると、次から次へと色んなことが起きて、毎回大変な思いをさせられているよな」


「……ごめんなさい」


そうだよね、何故か鈴木さんには迷惑しかかけていない気がするもの。

合コンで酔った私を介抱したり、忙しい中でも幹事をこなしつつも私に気遣ってくれたり、今日は……泣いている私を送ってくれて、倒れた私を介抱してくれている。

あぁ、自覚があるものだけでもこんなにある……。


「でも、お前といて飽きない。大変なのに、これがまた楽しく感じるんだ。俺はMっ気が無い筈なのにな」


「えっ、それはどういう意味ですか……?」


「意味がわからないなら考えなくて良い。これから少しずつ解らせてやるよ」


これから少しずつ?

それって……まだ私と関わってくれるって言うこと?



「鈴木さん、でも、私……また迷惑をかけちゃう」


「佐藤、お前は何も考えずに寝ていろ。俺が側についていてやるから」


「はい」


「早く寝ろよ。さっさと寝ないと、俺の気が変わってお前を襲うかもしれないぞ?」


そ……そんな事言われると、ドキドキして余計に寝られなくなっちゃう。

でも、ちゃんと寝なくちゃ。

鈴木さんの視線を感じて顔が火照っている気がするけれど、気にしない、気にしない……。

だって、彼なりの優しい気遣い……冗談だと思うし。



「お、おやすみなさい!」


「ははっ、おやすみ」


寝る直前、鈴木さんは温くなったタオルを取り、冷たいタオルを額に置いてくれた。

それが心地よくて、いつの間にか眠ってしまっていた。


そして、朝になると……鈴木さんが隣で寝ていた。

私はビックリしたけれど、鈴木さんはそんな私を見て微笑んでいた。


「おはよう。具合は大丈夫そうだな?そろそろ起きないと、飯食べる時間がなくなるぞ」


「あ……はい」


鈴木さんは、未だ呆然としている私を放置し、さっさと洗面所へ行ってしまった。



こ……これは、なんということでしょう。

目覚めたら、イケメンが爽やかな笑顔で私を見ていたのです!

何も無かったとはいえ、同じ布団で寝ていたなんて……これは一大事ですよ。

もうドキドキが止まりません。


朝から心臓に悪いし、鈴木さんと何を話して良いのかもわかりません。

あぁ……私にこんな事件が起こるなんて。

まるで、物語の主人公……ヒロインみたい!



「おい、いつまで布団の中で百面相をしてるんだ?そんなに布団が好きなら、俺が出られないようにしてやるが?」


「い、今すぐ出ます!」


ギャー!見られてた……。

鈴木さんは意地悪な顔をして、私が慌てている姿をずっと見ているし。

はぁ……やっぱり鈴木さんは鈴木さんだった。

朝のあの優しい彼は、幻だったのかもしれない……。



「結局……春子さんから電話は来なかったな」


目覚めるとすぐに着信履歴を確認したが、ディスプレイには何も表示されていなかった。


昨夜の事、怒っているのだろうか……。

春子さんが落ち込んでいたし、元気付けようと思って誘い出した。

だが、個室に入った途端……私は勘違いをしてしまった。

これは、春子さんが私に好意を抱いてくれているんだ……と。


だから、私は振り向いた彼女にキスをした。


一瞬の事だし、事故だと思われたかもしれないが、故意だった。

それが……余計に彼女を傷付ける事になるなんて、思わなかったんだ。



もし、春子さんが私を許してくれるなら……。

私は、『春子さん……君に恋してしまいました』と伝えたい。


君を大切にするから、私を受け入れて欲しい。

その願いが叶うなら、今の地位なんて捨ててしまっても良いから……と。



「おはようございます」


「天瀬さん、おはようございます」


春子さんは、いつもの変わらない様子で挨拶をしてくれた。

昨日の事は、気にしていないのだろうか……。


「佐藤さん、昨日は……大丈夫でしたか?」


「あ、はい。突然帰ってしまい申し訳ありませんでした」


「いえ、無事に帰られたか心配だったので。あの、佐藤さん……時間をいただけますか?今日でも明日でも、5分だけで良いです」


もしこれで断られてしまったら、望みは薄い。

どうか、嫌がらないで下さい……。



「えっと……はい。では、今日の昼休みではどうですか?」


「ありがとうございます。では、後程」


「はい。屋上で待っていますので」


「わかりました」


良かった。

昨日の事があるから、拒否されるのを覚悟していたけれど、まずは第一段階突破だ。

さてと、仕事を頑張ろうか。

営業部との打ち合わせ、早く終わらせないとな。

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