「千夏、お待たせ」


「お疲れ様~」


定時時間きっかりに仕事を終え、千夏と合流した私。

それから着替えを済ませた私達は、足早に会社を出た。


「春子、こっち」


「ん?何処に行くの?」


いつの間にか現れた1台の車。

もうすっかり見慣れた、千夏の家の迎えの車が私達を迎え入れた。


「愛ん家」


愛ちゃんの家!?

何故、このタイミングで愛ちゃん??

理由が良く分からないまま、黙って後部座席で大人しくしていた。



「いってらっしゃいませ」


「また連絡するわ」


「かしこまりました」


イケメンの運転手の方に見送られ、千夏は当たり前のように愛ちゃんの家のインターフォンを押した。


ピンポーン……。


『はい』


「来たわよ~」


カチャッ……。


「2人ともいらっしゃい」


「用意は出来てる?」


「勿論!」


……えっと、この流れるような対応はなんだろう。

千夏が前もって連絡していたからかもしれないけれど、さっき聞こえた『用意』という単語がとても気になる。


一体……ここで何が起こるのだろうか。



「ほら、ボーッとしてないで。家に上がるわよ」


「うん」


「ほらほら、早く~」


千夏と愛ちゃんは、楽しそうに私を家に招き入れた。

2人のテンションに驚き一瞬だけ躊躇したが、今更拒否するわけにもいかず、少しだけ溜め息を吐くと家の中に入っていった。


「おかえりなさい」


「え……。あ、はい。ただいま?」


リビングにいくと、愛ちゃんと千夏以外にも私を待ち構えている人達がいた。


何故、ここにあの人達がいるのだろうか?

ここは……愛ちゃんの家なのに。



「ふふっ。春子、驚いた?」


「……千夏、この人達って」


驚くもなにも、この状況が良く分かっていない。

目の前にいる人達は、合コンの日に行った美容室のスタッフだ。

まず、何故……いる筈の無い人達がここにいるのか説明して欲しかった。


「春子を指導する為に呼んだの。今からしっかり覚えてもらうから覚悟してね?それを覚えたら、明日からずっと続けるのよ?」


「明日から、ずっと?一体……何を?」


「春子、この機会にイメチェンするんだよ!せっかくのモテ期なのに勿体無いしさ」


「モテ期!?私に!?あり得ないでしょ!」


生まれてから1度もそんな経験無いし。

今後だって、絶対に無いと断言できる期間だって。



「嘘はいけないなぁ~。千夏にも、貴之さんからも聞いたよ。春子がイケメン達からモテてるって」


「はぁ~!?」


イケメン達が私を!?地味女なのに?

て言うか、イケメン達って……誰よ!?

そんな状況、どう考えてもあり得ないから!


「愛、春子はまだ理解できてないみたい。だけど、これからわかるよ。その為にも……ね?」


ね?って、ウインクされても……。

もしかして、その為だけに美容室のスタッフがここにいるの!?


「せっかくだけど……私には必要無いよ。合コンの日の事は感謝してるけど、イケメン達にモテているなんて勘違いだし、そんな人なんていないもん。これからも、そんな事は起こらないからね」


私の周りにいる男と言えば、部長やダメダメな品川さんくらいだよ。

イケメンでも何でもないし……さ。



「春子、モテないから必要無いって?ここまで来て何もしない?そんな事、私が許さないからね。私達の勘違いでも何でもいいから、綺麗になる方法くらい覚えていきなさい」


「……はい」


千夏には逆らえなかった。

モテないからって、断る理由にはならないのが自分でもわかったから。


それから2人が見守る中、美容室のスタッフの人達に色々とテクニックを教わり、時間はかかったけど何とか見れる形にまで出来るようになった。



「良いじゃない。全く……春子だって、ちゃんとやれば良い女になれるのに。今までサボりすぎよ。まぁ、私程では無いけれどさ~」


「アハハ、千夏ってば。でも、お陰で私も勉強になったかも。もっともっと綺麗になって、貴之さんを驚かせようかなぁ~」


「愛ちゃん……」


そんな事したら、松川主任は愛ちゃんが可愛すぎて離れがたくなるし、そうしたら仕事に行きたくなくなると思う……。

だから、程々にね?



こうして、私は(見た目だけ)地味女を卒業する事になってしまいました。

勿論、皆の反応が凄かったのは言うまでもなく。

でも、松山さんからのイヤミは変わらずだった。

『どうせ、モテたいから変えたんでしょ?』だって。

違うんだけど……と言いたかったが、面倒なので反論はしないでおいたけれど。


ただ、品川さんは私を珍獣でも見るかのように眺めていて、一言『佐藤、お前にも春が来たのか?』と言われた。


年齢が1つしか違わないのに、何処かのオヤジ発言しか出来ないのかと、呆れてしまう。

やっぱり品川さんは、品川さんなんだと納得しちゃったけどね……。


そして時は過ぎ、ようやく歓迎会の日を迎えたのでした。

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