春子のモテ期!?前編

「ふぁ~!よく寝たぁ~」


既に太陽は高い位置にある。

もう……お昼か。

休みだからと寝過ぎたかもしれないけれど、たまには良いよね。

名残惜しく布団を出ると、寝起きの姿のまま洗面所へ向かう私。

一人暮らしの特権で、パジャマでうろうろしたって怒られないし、髪もボサボサでも誰にも見られない。


それにしても、慣れない格好は疲れたな……。

でも、合コンっていうものが体験できたから良いか。



バシャバシャ……。


冷たい水で思いっきり顔を洗い、サッパリした自分の顔が鏡に映った。


いつもの私の顔。


昨日は……どんな顔だったんだろう?

結局、最後まで変身した私を見ることが出来なかったんだよね。


夜帰ってきた時は、酔っ払っていたせいか……一気に顔を洗っちゃったし、髪も乱れていて原型が分からなかったし。


あれ……?

酔っ払っていたせいだっけ?


何か……忘れていない??



「おはよう。お前、そのダサいパジャマで俺を襲うなよ?」


「ぎゃ~あ~!」


わ、忘れてた!

鈴木さんに、寝起きの顔も髪も……バジャマまで見られた……。


「……ったく、煩いし色気の欠片もない。昨夜とは別人だな」


「うっ……」


痛い、痛すぎる……。

鈴木さんは面白そうに笑っていたが、私の心はズタズタ。

言いたい事だけ言って、私に反論する間も無く……そのま居間に行ってしまった。


はぁ……一生の不覚。

泊めたことを忘れるなんて、私って……馬鹿だ。


凹んだまま部屋に戻って着替えた後、居間へ行った私。

鈴木さんは、布団を端の方に片付けてくれていて、ゆったりと寛いでいた。

残念な格好を見られた手前、このまま帰って下さいとも言えずにいた。


「……あの、もうお昼ですし何か食べますか?」


「何か作ってくれるのか?」


「あ、はい。簡単なものですけど……」


食材はそんなに無いけれど、2人分ならなんとかなるし。


「……そうだな。世話してやったし、お前の手料理でも食べてから帰るか」


うっ、上から発言。

世話してやったって、私……何かしたのかな?

全く覚えていないんですけど……。



「手料理という程のものでも無いんだけど……大丈夫かな」


居間に鈴木さんを置き去りにして、台所で作った料理とにらめっこしていた。


作ったのは、卵の雑炊とキャベツと昆布の浅漬け。

飲み過ぎた気がするし、胃に優しいものが良いと思ったから。

不安になりつつも、雑炊が入った土鍋ごと茶の間のテーブルに持っていった。


「それ、何だ?」


「……胃に優しい食べ物です」


蓋を開けずにそう答えて、器とレンゲとお箸を渡した。



さっきまで文句を言いそうな顔をしていた鈴木さんは、雑炊を器によそって渡したら無言で食べてくれた。


「ごちそうさまでした」


「ごちそうさま。美味かったよ」


意外な反応が来た。

普通だな……とか不味いとか言われるかと思ったのに。


「お口に合ったようで良かったです」


褒められたのが嬉しくて、うっかり笑顔で答えてしまった。


そうしたら……

「お前でも、そんな顔が出来るんだな」だって。


仕事場じゃないから、つい……油断しただけなんだよね。

何処に居てもやっぱり鈴木さんは失礼で、ドSだなって思った。



それから暫くすると、鈴木さんは立ち上がって食器を片付けてくれた。


驚いて見ていたら、

「食べたんだから、当たり前だろ?」だって。


まぁ……そうなんだけど。

でも、一応お客様だし……。

なんて思っている間にも、サッと片付けが終わっていた。

うーん、仕事が早いな。


「俺、帰るから」


「あの、ありがとうございました……色々とお世話になってしまって」


全く覚えていないんですけど、とりあえず何かしらお世話になったと思うし……感謝の気持ちは言っておかないとね。



「昨夜の、覚えているのか?」


「私……何か……しました?」


鈴木さんは私を見て、溜め息を吐いていた。

その感じからすると、かなりご迷惑をかけてしまったのかも……。


「佐藤春子、よく聞け。お前は、男がいる場で酒は飲むな。昨夜は俺がいたから良かったが、次は無事で済まないからな」


……え?どういうこと?


「あの、言っている意味が……よく分からないんですけど」


何故、鈴木さんがいたから良かったの?

次は無事で済まないって……?



「はぁ……これだから、全く……。意味が分からなくても良いよ。だけどな、俺が言ったこと覚えておけ」


「……はい、分かりました」


鈴木さんは疲れた顔をして帰っていってしまった。結局……何があったかは謎で終わった。


今回は色々と大変だったけど、合コンという経験値は得たのかもしれない。

だけど……休み明け、朝一の松山さんの反応がどう来るか、それが一番恐い私でした。



そして、恐れていた月曜日。

何が起きても良いように、心構えをしつつ朝の掃除をしていた。


すると、カツカツカツ……といつものあのヒールの音が近付いてきた。


「佐藤春子さん、おはよう」


「松山さん、おはようございます。先日はお疲れ様でした」


「あぁ、そうだったわね。お疲れ様」


今のところはいつも通り。

相変わらずの、上から目線の松山さん。

そして、それ以上は何も言わず……自分の席へ行ってしまった。


……様子がおかしい。

合コンの事には触れないし、3日前の金曜日の出来事なのに、忘れていたような言い方……。

松山さんらしくない。

体調でも悪いのかな……?



松山さんの様子が気にはなったが、何事も起きなかった事を内心喜んでいた。

あとは歓迎会さえ済んでしまえば、いつもの日常に戻るはず。


「そうだ、最終的な打ち合わせをしておかないと……」


もう日数も僅かだし、出来る時にしておかないとまずいよね。

でも……鈴木さんは忙しい人だし、もう出掛けちゃったかな……。


とりあえず、確認してみよう。

行き違いにならないように、先に内線をかけてみれば良いよね。

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