春の嵐、到来!? 後編

「千夏、本当にあのお店?」


「うん、そうだよ。ちゃんとスタッフに待機してもらってるから、安心して」


「そ、そうなんだ……」


え……っと、千夏は当たり前みたいに言っているけれど、次元の違う行動に私の思考がついていっていない。

とにかく私は千夏の言う通りに行動するしかない。ガサガサと店の紙袋を持ち、小走りで後をついて行った。



カラン……。


「いらっしゃいませ、加藤様お待ち致してしておりました」


「予定通り、彼女をお願いね」


「かしこまりました」


訳の分からない会話を、店のドアの側で呆然と聞いていた私。

そして、次に店のスタッフさんに案内され……店の奥へと連れていかれてしまった。


それからは、あれやこれやとされるがまま。

あっという間に、髪の毛のセットや化粧を終え……着替えを終わらせた。


千夏が選んでくれた服を見ていなかったので、着替える前に開けて驚いた。

……だって、シンプルだけど女性らしいラインの綺麗な服が入っていたの。

スタッフさんは、とてもお似合いですよって言ってくれたけど、社交辞令ってあるでしょ?

それにね、高そうな新しい下着まで入っていたのには驚いた……。

下着までサイズ知ってるなんてすごいよ、千夏……。



「加藤様、お待たせ致しました」


「千夏、どうかな……?」


千夏のOKがもらえるか、私もスタッフさんもドキドキしながら答えを待った。


「時間通りね。春子、良い感じよ。任せて良かったわ」


「加藤様、ありがとうございます」


良かった。

どんな風になったか、一切鏡を見せてくれなかったから分からないけれど、千夏の合格点がもらえたなら大丈夫だね。



「加藤様、佐藤様、ありがとうございました」


「お世話になりました」


店を出た私は、千夏と松山さんがいる店へと向かっていた。


「千夏、本当にありがとう」


こんなに素敵な服を着たのは初めてだし、プロの人に髪の毛や化粧なんてしてもらったのも初めてで。

そりゃ、美容室で髪をセットしてもらった事はあるけれど、手際や手つきが次元が違っていたもの。

一瞬だけど、女優気分を味わえた感じだった。



「良いのよ。ここからは春子一人で行ってね。私が一緒に行けたら良いんだけど、呼ばれてないから遠慮しておくから。それじゃ、頑張って」


「うん、ありがとう。いってきます」


着てきたモノや荷物は家に送ってくれるっていうし、千夏を迎えに来た車で店の近くまで乗せていってくれるし、至れり尽くせりだった。

本物のお嬢様って、何もかも凄いんだなぁと改めて実感してしまった。


それから私は千夏を見送った後、待ち合わせのワインバーのお店の前に立った。

ここで既に、待ち合わせの時間から10分の遅れ……。

松山さんが激怒しないようにと祈りつつ、お店の中に入っていったのでした。



カラン……。


店の中は、カジュアルだけどオシャレ。

イタリア風なのかな?

カウンターの他に、テーブル席もあって……照明は淡いオレンジ色で良い雰囲気のお店。

今日が合コンじゃなければ、千夏とゆっくり飲みながら居たいなぁと思えるような場所だった。


「いらっしゃいませ、お客様……お待ち合わせでしょうか?」


「はい、先に来ている筈なのですが……松山は何処に居ますか?」


私がキョロキョロと探してしていると、店員さんが来てくれた。


今更だけど、松山さんの連絡先を一切知らないという事に、ここで気付く私……。

お互いに必要が無いと思っていたし、突然松山さんから誘われるなんていう事があったものだから、動揺してそれどころじゃなかったものね。



「松山様ですね。はい、いらっしゃいます。ご案内致します」


「ありがとうございます」


やっと合流できる。

緊張するな……合コンってどんな感じなんだろ。

人数合わせとはいえ、参加するのに『合コン』という行事に関するものは、全く知識がない。

こんな事なら、事前に愛ちゃんや千夏に聞いておくんだった!


「こちらの特別室です。どうぞ、お入りください」


「はい」


……特別室?

ここだけ個室ってこと?

てっきり、カウンターが見えるテーブル席に座って歓談するのかと思っていたから、階段を上って2階にきたから驚いた。


……個室って、怪しくない?

大丈夫かなぁ……。

こんな事なら、無理にでも千夏に来てもらうんだった。



「……こんばんは。松山さん、遅くなってスミマセン」


恐縮しつつ特別室に入ってみると、そこは眺めの良いテラスがあり、窓際に10人くらい座れるのテーブル席があった。


男女が5人ずつか……。

そして、それぞれ1席ずつ空いている。

相手方もまだ揃っていないみたい。


「……あなた、誰?」


「えっ?佐藤春子です……けど」


「嘘!?あの……佐藤春子さんなの!?」


ちょっと綺麗にしてもらっただけなのに、そんなに驚くことなの?



「佐藤さん、どうぞ……この席が空いていますから座ってください」


「あっ、はい……。ありがとうございます」


あれ?今、声を掛けてくれた人って……営業部の新人の1人だよね?


確か……小園洋二(こぞの ようじ)くんだったかな?

高卒で入社の19歳。

千夏が『豆柴みたいに子犬系の可愛い男の子が、営業部に入ったの!』と教えてくれた。


それで本人をコッソリ見に行って、『どこが子犬?普通の若い男の人でしょ?』なんて、アホな返事をしたから顔まで覚えちゃったのよね。

でも、私は面識が無い筈なのに……名前を知られていたなんて驚き。


ま、そんな事はどうでも良いとして、未だに驚いている松山さんを放置して、空いている席に座った。


「ありがとうございます。では、失礼します」


「女性が揃ったことだし、そろそろ始めようか。こっちは1人……仕事で遅れるみたいだし」


「そうですねっ、始めましょ」


……いよいよ始まるのね。

中央に座っているちょっとチャラい感じの男性が、仕切り始めた。

松山さんは、その目の前の男性に同意しつつ、普段とは違う声色で答えていた。

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