品川さんが早く戻って来ればいいのに、来客が長すぎるのよ。
もしかして、そのまま接待に行ったとか!?
いやいや、それならば一旦戻ってくる筈。
周りの人は金曜日で週末だからか、続々と帰っている。
このフロアに残っているのは、私と承認が欲しくて部長の帰りを待ってる男性数人だけだった。
はぁ……。
これ……終わるのかな。
気が遠くなってきた……。
合コン……参加出来るか微妙になってきた。
せっかく千夏が一式用意してくれたのに……。
「やっぱり、まだいたか……。なかなか来ないから、こんな事だろうと思っていたのよね」
「千夏!?」
そうだ、千夏にまだ仕事が終わらないって連絡するの忘れてた!
「ごめん。すごく待たせちゃったよね……」
「いいよ、どうせ頼まれた仕事でしょ?そんなの適当に早く終わらせちゃいなさい」
さすが……千夏、その通りです。
でも、資料見てデータ纏めているのに、適当には出来ないんだけど……。
「そうだ、ちょっと待ってて……」
ん?
千夏は、内線をかけ始めた。
どこにかけているんだろうか……?
「もしもし、受付の加藤です。総務部の品川さんはいらっしゃいますか?……えっ、あ……はい。分かりました。はい、失礼致します」
千夏は何故か不機嫌になった。
どこかに内線をかけたみたいだけど、もしかして怒られたとか!?
「千夏……大丈夫?私のせいで怒られた?」
「……ううん、違うよ。来客は2時間前に終わったみたい。その後に、料亭に接待に行ったみたいだけど、品川さんは運転手で一緒に出掛けたみたい……。だから、多分……直帰じゃないかなって」
えっ、それじゃこの仕事はどうするの?
せっかくここまでやったけど、私が全部終わらせなくちゃダメなのかな……。
「春子、品川さんに連絡してみたら?車で待機しているだけだし、暇してるでしょ。用事があるから帰るって言えば大丈夫でしょ」
「……うん、そうだね」
品川さんがそういう理由で私を帰してくれる……なんて思えないけれど、千夏の言う通りに電話で伝えてみよう。
『何?定時終業から1時間経ってるよ?もう帰ったのかと思ってたよ。俺の頼んだ仕事終わったんだよな?それなら帰って良いよ』
……ほら来た。
自分の仕事を頼んだのに、上から発言……。
終わってないからいるんじゃない、空気読めなさすぎでしょ!
「春子、ちょっと貸して!私が話すから」
「……千夏!?」
私の横で話を聞いていた千夏が、ムッとしながら私が持っていた受話器を奪い取った。
「もしもし、品川さん……受付の加藤ですけど。佐藤春子さんに頼んだ仕事、1日じゃ絶対に終わりませんよね?自分は直帰するのに、春子には徹夜させる気ですか?もし、このまま春子に仕事を続けさせるなら、私にも考えがありますよ?」
『何だよ、どんな仕事でも終わらせるのが普通だろ?俺が頼んだんだから、文句を言わずにやれって。て言うかさ……考えって何?俺は女に何をされても全く怖くないけど?』
あらら、千夏が電話を私にも聞こえるようにスピーカーにしちゃってるから、品川さんの声がフロアに響いてるよ……。
それを知らない品川さんは、千夏相手に毒舌中。
まだ残業している人がいるのに、これはさすがにマズイんじゃないかな……。
「あら、そうなの?品川さんの気持ちは分かりました。それでは、私はこれで失礼します」
『フッ……。佐藤に宜しくな』
品川さん、その勝ち誇った笑いは何?
私に宜しくって、意味不明ですけど……。
「あぁ、言い忘れていました!佐藤春子さんは、松山さんに誘われて19時の約束で食事会なんですよ。でも、品川さんに頼まれた仕事が終わらないから行けないって、私から伝えておきます」
『何!?』
あら、品川さんって松山さんに弱いの?
好きなタイプではないと思っていたのに、意外だ……。
『ちょっと待て!あの人に言わないでくれ、松山さんに目の敵にされると、すごく面倒なんだよ……。いつまでもネチネチと煩いし、無視されるし。分かった、佐藤にはすぐに帰っていいって言って。残りの仕事は俺が明日出てやるから……』
「ありがとうございます。佐藤春子さんに、伝えておきます。では、失礼致します」
……千夏、凄い!
あの品川さんの弱点をいつ知ったんだろう?
千夏の情報網侮れない……。
「千夏、ありがとう。お陰で助かった……」
「あぁ~スッキリした!春子をいつも雑用係みたいに扱っているから、1度言ってやりたいと思っていたのよね~」
アハハ……。
千夏も品川さんの対応に腹が立っていたのね……。
「ぎゃ、もうこんな時間!」
安心したのもつかの間、時計の針は18時半に向かって刻々と近付いていた。
「春子、少しくらい遅れても大丈夫だよ。むしろ、遅れたくらいがちょうど良いかも。それじゃ、私は1階のロビーで待ってるからね~」
……そういうものなの?
とにかく、これ以上千夏を待たせるなんて申し訳無いから、手早く片付けを終えて自分の席を後にした。
3階のフロアからエレベーターで一気に降りて、更衣室に駆け込んだ。
そして着てきた私服に着替えて荷物を持つと、千夏の元へと急いだ。
「千夏、お待たせ~」
「春子、お疲れ様。それじゃ、行こうか」
千夏は既に私服姿。
私はまだ地味なままなんだけど……。
「これに着替えなくて良いの?」
「うん、ここじゃなくて場所変えるから。ほら、あそこ」
……え。
あそこって、オシャレな美容室だよね?
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