気合いを入れたからか、特に問題も無く仕事ができた。
歓迎会の幹事業務も合間を見て行って、会場や日時などの案内を作った。
あとは人数分印刷するだけ。
「今日は気合い入ってるね~」
仕事に集中していると、時々……品川さんのこういう邪魔は入ったけど。
これは想定内だから、気にせず対応した。
「準備はこれでOKね」
あとは参加者に配るだけ。
ついでに営業部の分もコピーしたけど、使うかな……。
プルッ、プルッ、プルッ……。
私の目の前の電話が鳴った。
この番号は、電話交換手からよね。
私に外線なんてないのに、珍しいな……。
「はい、総務部……佐藤春子です」
『佐藤さん、2番に営業部の鈴木太郎さんからお電話です』
「はい、分かりました」
鈴木さんが、私に?
歓迎会の事で何か問題があったのかな……。
とにかく出てみないと。
「もしもし、お疲れ様です。佐藤春子です」
私は外線の2番のボタンを押し、受話器に話し掛けた。
『営業部の鈴木太郎です。明日さ……あっ、ごめん、キャッチ入った』
プーッ、プーッ、プー……。
すぐに電話を切られちゃって、全く用件は分からなかった。
明日……って何が言いたかったんだろう?
私に連絡をくれる人ではないから、気になるけれど……聞けないからどうしようもない。
ま、いいか。
何か用事があれば、連絡をくれるでしょ。
しかし、鈴木さんから連絡が来ることはなく……。
楽しみにしていないもの程、時間が流れるのは早くて……。
あっという間に金曜日の朝、そう……合コンの開催日になってしまった。
「はぁ……気が重いな」
昨夜、千夏から電話が来た。
『明日……仕事が終わったら、荷物一式を持ってすぐに私の所に来るんだよ?スタンバイしてるから』
「うん、わかった……」
千夏は、私の為に色々と用意をしてくれているらしい。
詳しくは……恐ろしくて聞けないけれど、私の合コンデビューに参加する本人より気合いが入っていた。
『じゃ、今日は早く寝なさいね?寝不足で顔がむくんだり、クマが出来たら大変だから』
「う、うん……」
千夏こそ、気合い入れすぎて寝不足にならないでね……と心の中で話しつつ、電話を終わらせた。
「あら!佐藤春子さん、元気がないわね~?もしかして、具合が悪いのかしら?」
「いいえ、健康体ですよ……」
朝からハイテンションの松山さん、私がぐったりしていたら、面白いものを見たわ!というようなリアクションをしながら話し掛けてきた。
「そう?それなら良いんだけど。それじゃ、今夜のは時間通りで宜しくね~」
何が良いんだか分からないけれど、合コンより……まずは仕事じゃ?と思う私。
それは、私が合コンというものを楽しみにしていないから……なのかもしれないけれど。
早く帰らなくちゃいけないのに、こういう時に限って突然急ぎの仕事が入ってきてしまった。
「佐藤さん、ごめん……これ、頼める?急な来客が入ってさ……締め切りに間に合わなくなりそうなんだ」
「分かりました。品川さん、あと15分で約束の時間ですよ。早く受付へお出迎え行かないと」
「げっ、まずい!じゃ、頼むね~」
15時にVIPのお客様が来ると、1時間前に連絡が入った。
担当補佐みたいな形で品川さんもメンバーに入っているから、同席しなくてはいけないみたい。
品川さんは時計を見ると、大慌てでエレベーターに駆け込んでいった。
こういう緊急事態は仕方がない。
仲間だし、黙って仕事を引き受けてあげた。
そもそも間に合わないのは、品川さんの仕事のスピードが遅いから……なんだけど。
そんなことは今に始まった事では無いし、慣れっこだしね。
でも、定時前に終わるかな……。
「佐藤さん、それ……私も手伝いましょうか?資料纏めですよね、かなり量があるし……大変でしょ」
「天瀬さん、ありがとうございます」
ピンチの時に登場したイケメンの王子様は、優しく手を差し伸べてくれました。
そして、困難もすんなり解決し、王女は舞踏会へと向かったのでした。
……なんてね。
そんなことある訳がないし、出来っこない。
天瀬さんに手伝ってもらっただなんて知れたら、品川さんに怒られる。
『社長の息子に仕事を手伝わせたのか!?俺が怒られるだろ!?』という感じにね……。
そんな事になったら私が面倒だし、手伝ってくれる天瀬さんにも悪い。
「でも、大丈夫ですよ。これくらい平気です。お気持ちだけ受け取っておきます」
せっかくのありがたい申し出だけど、ここは平気なフリをして断るしかない……でしょ。
「そっか。佐藤さんと仕事がしたかったのに、残念だ。それじゃ、手が足りない時はいつでも言ってください」
「はい、ありがとうございます」
天瀬さん、優しいな……。
品川さんに天瀬さんの様な優しさが少しでもあれば、先輩として扱ってあげるのにね……。
それからは、驚異的な集中力で品川さんの仕事に取り組んだ。
それでも終わらなくて、定時終業の時刻になってしまった。
そして……終業のチャイムと共に、コツコツコツ……とヒールの音を鳴らし松山さんが近付いてくるのが分かった。
「あら、まだ仕事が終わらないの?全く……困った人ね。取りあえず、私は色々とやることがあるから先に帰るわね。佐藤春子さん、終わったらすぐに来るのよ?」
「えぇ、分かりました」
そう返事するしかなかった。
私は、この時……合コンの時間より、仕事が締め切りの時間に間に合うかという事の方が気になっていた。
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