「今日の夕飯は……」


しまった……。

服の事ばかり考えていたから、夕飯の買い出しするの忘れてた。

あるもので作るか。

肉はないけど、卵や野菜類も一通りあるし……色々作れるね。


「オムレツと簡単なサラダとコンソメ味の野菜スープにしよ」


あとは、昨日買っておいたフランスパンが半分残っていたから、それをトーストすれば完成。

今日は色々とあって疲れたし、さっさと作って食べながらゆっくりしよう。



最近は、本当に色々とありすぎる。

以前だったら、松山さんや品川さんの対応くらいで済んでいたのに……な。


天瀬さんが来てからだよね。

これが良かったのか悪かったのか分からないけれど、実習期間が終われば関わることも無くなるし。

そうすれば、以前のように戻るかな……。


あぁ、嫌だ。

こんなネガティブな私、吹き飛ばさなくちゃ!

夕飯が出来たことだし、しっかり食べて元気出そう。


「いただきます」


……うん、美味しい。

これで明日も、頑張れる。

今日も1日お疲れ様でした。

そう自分に労いの言葉をかけ、この日は早めに就寝したのでした。




「春子~、おはよう!」


「千夏……こんなに早くどうしたの?」


いつも通り会社の入口から入ると、受付に千夏がいた。

普段なら受付には誰も居ない時間なのに……早めの来客でもあるのかな?


「どうしたのじゃないよ、私のメール見た?夜に送ったんだけど」


「えっ、メール?昨日は早く寝ちゃって……」


あっ、千夏からメールが来てた。


「だと思った。早く来て良かったよ……。これ、春子の持ってきたよ」


……私の?

千夏の家に何か忘れ物してたっけ?

最近は、遊びに行っていないから記憶に無いな……。

良く分からないけれど、どこかの店名が書かれた手提げの紙袋を渡された。



「それ、明日……絶対に着てね?髪型とかメイクとかは、私がやってあげるから」


……ん?髪型とかメイクとか?


「千夏……これってもしかして、私の明日の洋服!?」


「うん、そうだけど。春子の事だから、昨日は服が買えなかったんでしょ?だから私が選んできたの。服のサイズは知ってるし、もうすぐ春子の誕生日でしょ?早めのプレゼントだと思って受け取ってね」


確かに……私の誕生日は近いけれど、服に靴……他にも何か入ってるし、これじゃ貰いすぎだよ!


「……千夏、これ」


「返すとか無しだよ?もし返したら……春子とは絶交だからね~」


……絶交って。

でも、本当にそうされそう。



「千夏、ありがとう」


「いえいえ、大事な親友の晴れ舞台だもんね。これくらい安いもんだよ!それじゃ、仕事の打ち合わせがあるから、またね」


千夏はそう言って、受付の事務所へ行ってしまった。


晴れ舞台って……かなり大袈裟だけど、千夏の気持ちがとても嬉しかった。

千夏は有名企業のお嬢様なのに、庶民の私にこんな事までしてくれるなんて……なんて面倒見のいい人なんだろう。



「おはよう。すごい荷物だな……」


「ん……?げっ、お、おはようございます……」


朝から鈴木太郎さんに会っちゃったよ……。

しかも、大量の荷物まで見られるなんて。


「なんだよ、その嫌そうな顔は。それ、早くロッカーに置いてきたら?煩そうなのがいるんだろ?」


あ……確かに。

松山さんに見付かったら大変!


「うん、そうする。ありがとう!それじゃ、また」


鈴木さんへの挨拶も早々にし、バタバタと自分のロッカーへと駆け込んだ。



それにしても、何故……煩そうなのがいるって知っていたのかな?

もしかして、営業部でも松山さんは有名人?

美人だから、何処でも目立つのかもしれないけど……。


あっ、しまった。

慌てていたから……つい、タメ語話しちゃった。

大丈夫かな?

一応……鈴木さんは歳上だし、先輩なのに大丈夫かな……。


ま、いいか。

きっと気にしていないでしょ!

パタン……。

どうにか荷物を入れて、松山さんが来る前に制服に着替え終わった。


「さてと、事務所に行こう」


明日は早く帰らなくちゃいけないしね、気合い入れていきますか!



「あら、佐藤春子さん……おはよう。昨日は早く帰ったのね」


「松山さん、おはよう。うん、ちょっと用事があったの」


今日も相変わらずの松山さんが出勤してきた。

やっぱり言ってきたか。

見ていないようで、しっかりチェックしてるんだよね……。


「そうだったの。佐藤春子さんでも用事があるのね~」


「えぇ、まぁね……」


朝から嫌みたっぷりの発言だな。

もし、あの荷物を見られていたら……やっぱり大変だったかも。

あぁ、危なかった……。



「あっ、そうだ。もし、明日着ていく服が無かったら、私ので良ければ貸してあげても良いわよ?」


「ううん、大丈夫。ちゃんとあるから」


千夏のお陰でね。


「あら、そうなの?それは良かったわ。服が無くて地味な紺のスーツで来るのかと思っていたから。あっ、でも……私の服は佐藤春子さんには合わないわね。そもそもサイズが……あはっ」


ちょっと、最後のそれ……わざとでしょ?

えぇ、スレンダーの松山さんと私じゃ体型が違うから、服のサイズは合いませんよ。

それ以前に、松山さんから服を借りようだなんて1ミリも思っていないから安心して。



「それじゃ、明日はよろしくね。そろそろ、仕事の準備しなくちゃ~」


言いたいことだけ言って、松山さんは自分の席につきました。

……とても楽しそうに。


明日……想像したくないけど、すごく疲れそうな予感。

とにかく、明日さえ乗り切れば休みが待っている。

頑張れ私、負けるな私!

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