春の嵐、到来!? 前編

「はぁ……合コンか。歓迎会もあるのに、今月は予定外の出費が多くて痛いな」


松山さんと別れ、屋上の庭園で1人ランチ中の私。

空は晴れているのに、私の心はどんよりしている……。

今日は運良くベンチが空いていたので、誰にも気を使うこともなく、お昼を食べながらぼーっと空を眺めていた。


それにしても、私を誘うなんて……余程人集めに苦労していたんだね。

まぁ……ただの人数合わせで行くだけだと思うし、松山さんに気を使うけれど、それ以外は気楽に行けば良いよね?


……ちょっと待って。

着ていく服……どうしよう。

普段着は適当だし、通勤用の紺か黒のスーツしか無い。

困ったな……。



「佐藤さん……見付けた。やっぱりここにいたんですね」


「えっ、あ……天瀬さん。何かありましたか?」


わざわざここに来るなんて。

まさか……部長が呼んでいるとか?

でも、特に頼まれた仕事はないし……。


「いいえ、癒されに来ました。私もここが気に入ったので」


「……そうでしたか」


天瀬さんでも癒されたい時があるのね。

イケメンさんって恵まれていそうだけど、やっぱり同じ人間なんだ……。



「佐藤さん、お弁当……手作りですか?」


「あ、はい。でも自分のだけなので、適当です」


朝御飯のおかずとほとんど一緒だし、皆が持ってくるみたいな可愛いものでもないしね。


「そうなんですか?適当には見えませんよ。玉子焼きや他のおかずも……美味しそうです」


「……ありがとうございます」


社交辞令でも、嬉しい。

天瀬さんと話していると、心が和むなぁ……。


「良かったら……ですが、今度ここでお昼を一緒に食べませんか?」


「え……!?」


まさかの天瀬さんからのお誘い!?

いやいや、勘違いしちゃいけない……。

ただここでお昼を食べたいだけで、そこに私が同席するっていう事でしょ?



「えぇ、別に構いませんよ。ベンチも広いし、ほら……二人掛けでも余裕あるし」


無駄に広いし、大人一人が横になっても余裕あるし。


「良かった。では、近いうちにご一緒してくださいね」


「はい。あっ、そろそろお昼休みが終わります。戻りましょうか」


「はい」


天瀬さんは、私がOKした事に喜んでくれた。

でも、そんなにここでお昼を食べたいの?

まぁ、邪魔は入らないし……ゆっくりくつろげる空間だからかな。



私は席に戻り仕事を再開した。

天瀬さんのお陰で、モヤモヤしていた気分が晴れた気がした。

イケメンさんって癒し効果もあるんだね。


「佐藤さん、何か良い事でもあった?珍しく笑顔に見えるんだけど……」


「いえ、別に……」


珍しくって、何よ。

確かにいつも仏頂面かもしれないけれど、失礼じゃない?


「そう?それなら良いんだけど」


……その発言も、良くないでしょ。

じゃ、私が落ち込んでる方が良いってこと?

せっかく晴々した気持ちになったのに、ムカムカしてきた。



あっ、そうだ……品川さんを相手にしている暇は無かったんだ。

即定時で上がって、明後日着ていく服を見に行かなくちゃいけないのよね。

出費が痛いからスーツでも良いかなと思ったけれど、やっぱり紺のスーツじゃ松山さんに何か言われそうだし……。

今日は急ぎの仕事は無いし、邪魔さえ入らなければ……行ける!

そうと決まったら、邪魔な品川さんとの会話を流して、仕事に集中しよう。



~♪~♪

定時終わりの音楽が鳴った。


「お先に失礼します」


私は急いでデクスの上を片付けると、席を立ち上がり挨拶をしてフロアを出た。

目の前の席の品川さんは驚いていたけれど、無視よ無視。

相手にしていたら、いつまで経っても帰れなくなるもん。


私はエレベーターの下ボタンを押し、到着を待つ。

さすがに定時終了と共に出ると、エレベーターはなかなか来ないのね。

それだけ乗る人が多いのか……。

こんなに早く帰ることが無いから、新鮮な感じ。



「佐藤さん、上がりですか?」


「あ……はい。ちょっと用事がありまして……」


誰にも会わずに帰ろうと思ったのに、うっかり天瀬さんに見付かっちゃった……。

まさか、合コンの服を買いにいくとも言えず、用事という当たり障りの無い理由を言ってみた。


「そうでしたか、外は薄暗いですから気を付けて帰ってください」


「はい、ありがとうございます」


天瀬さんは私との会話を終わらせると、何処からか借りてきた書類を持ち、事務所へ戻っていった。


もう……誰にも会いませんように。

やっぱり慣れないことをすると、後ろめたいというか……申し訳ないというか。

とにかく、早く会社から脱出した~い!



急いで帰ったのは良いけれど、普段着が適当な私はどの店に行ったら良いか分からなかった。

オシャレな店に行ってみても、素敵な服にはそれなりのお値段がついている。

……私には買えない値段が。


「困ったなぁ……」


こんな事なら、誰かに相談してから来れば良かった……。


あっ、そうだ!

愛ちゃんか千夏に聞いてみよう。

もしかしたら良いアドバイスをくれるかもしれないし。


とにかく、善は急げ……2人にメールをしてみた。

すると、数分後……早速愛ちゃんから返信があった。



『合コンデビューするんだね!買うなら可愛い服で少しだけ胸元開いたやつね?ガッチリ防御体制の服はNGだから!じゃ、報告楽しみにしているね~。あっ、貴之さんにも教えて上げなくちゃ!』


……ガッチリ防御体制の服ってどんなやつ?

少しだけ胸元が開いたやつって……ボディに自信の無い私は無理な服だよ。

テンション高めの文章で来たし、私の話題で楽しんでるのかも。

わざわざ松川主任に言わなくても良いのに……。


はぁ……千夏は忙しいのかな、返信が無い。

どうしよう。



カタン……。


「……ただいま」


結局……何も買えなかった。

アドバイス通りの服を見ても、似合わなそうだし……と溜め息しか出なかった。

明日……もう一度見に行けたら、しっかり探してみよう。


「さてと、夕飯でも作りますか」


あまり悩みすぎると禿げちゃうし、そもそも私は人数合わせで行くだけなんだし。

もし服が見つからなかったら、紺のスーツで行ってしまおう!

松山さんには……ダメ出しされるかもしれないけれど。

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