第47話 クビ

「賊を二回も撃退していただき、パラッシュ殿には本当に感謝しております。依頼料は満額お支払いするので、ご安心ください」


 翌日の朝、俺は護衛官長メンデル・ルガーから、プリンセスガード解雇を言い渡された。

 十五人の代役の中で、最も恥ずかしい終わり方をしたのは、間違いなく俺だろう。

 しかも王女にかなりの悪影響を与えてしまったはずだ。最悪である。


「メンデル殿、殿下にきちんと謝罪をしたいのですが、やはり難しいでしょうか?」

「申し訳ございません……パラッシュ殿の顔は、もう二度と見たくないと仰っております故……代わりに私から伝えておきましょう」


 メンデルは深く頭を下げる。


「そうですか……では【クッキー・マジシャンズ】一同、これにて失礼いたします」

「皆さまの益々のご活躍をお祈り申し上げます」


 できれば真犯人を探し出し、王女の安全を確保してから帰りたかったのだが……。

 こうまで嫌われてしまっては、もうどうしようもできないだろう。


「ごめんね、レイ君……僕のせいで……」

「いや、気にするな。お前のせいじゃない」


「何があったのよ? 何か失礼な事したの?」

「……まあ、そんなところだ」


 エクレアの質問をさらりと流し、俺達は王宮を後にした。


 街に出た俺達は、ノエミの要望もあって王都を丸一日観光する。

 だが、どうしても王女の事が引っ掛かり、楽しむ事はできなかった。




「ねえ、レイ。大成功とは言えないかもしんないけど、宮廷からの評価は得たと思うわよ?」

「そうだな……」


 俺は馬車の窓から王都プラエド・エポコールを眺めた。

 その姿は先程見たよりも、だいぶ小さくなっている。


「銅級ギルドがここまでやったんだもの。胸を張りましょ。ね?」

「ふふっ、お前が慰めてくれるなんて初めてだな。もしかしたら、魔王が誕生してしまうかもしれん」


「何よ! 人がせっかく優しくしてあげてるのに!」


 エクレアはポカポカと俺を殴りつけてくる。

 俺はチラリとノエミを見た。こういう時、彼女は大抵「僕の前でイチャイチャしないで!」といった表情で、俺達を睨みつけてくるのだ。


 しかし俺の予想に反して、ノエミはニコニコとエクレアを眺めている。

 そして、アリスにサインをさせていた書類を手に取り、エクレアに見せつけた。


「エクレアちゃん、アリスちゃんの代理として僕が伝えるね。――エクレア・シュトルーデル、貴方が当ギルド施設に居住する事を認めます。【クッキー・マジシャンズ】ギルド長、アリス・パラッシュ」


 エクレアは目を見開いて、ノエミに振り向く。


「――え? 本当にいいの?」

「随分急だな。どういう風の吹き回しだ?」


 エクレアは、これまで何度もうちに住みたいと申請していたのだが、ことごとく却下されていた。


「えへへ、正妻の余裕ってやつ……かな」

「はぁ? 寝言は寝ていいなさいよ。アンタはただの都合のいい飯炊き女でしょ」


「ふっふーん」


 突っかかるエクレアに、ノエミは余裕の笑みを見せている。

 これまではお互いバチバチだったが、これはこれでまた新しい面倒が起きそうだ。


 俺は軽くため息をつきながら、再び窓から王都を眺める。


「む……」


 一騎の騎兵が全速力で俺達を追っている。

 賊ではない。王国軍の紋章が掲げられているのだ。


「――御者さん、馬車をとめてください」


 馬車がとまり、騎兵がそばまでやって来た。


「どうしましたか?」

「レイ・パラッシュ殿、ご助力を! 殿下が新任の代理プリンセスガードと共に姿を消しました!」

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