第七章 焔の魔女エクレア・続
第34話 バイバイ
「ご苦労。――では次」
「マルヤン・シンデルマイサー君、入りなさい」
一人の若い魔術師が退室し、代わりに猫背で小太りな中年魔術師が入室する。
見るからに駄目そうな男だ。さっさと終わらせよう。
ゲラシウスとグスターボは、錬金術師の募集に来た者たちの面接をおこなっていた。
マジックポーションを再び生産できるようになれば、もうレイのゴミカス野郎の言いなりになる必要はないのだ。
その為、ゲラシウスはそれなりに奮発した給料を呈示した。おかげで募集に来た魔術師は十人を超える。
しかし、どいつもこいつもMP80すらないカスばかり。それでは大した量を作れない。
この条件なら、最低200はある人材が来ると思っていたのだが……。
「マルヤン・シンデルマイサーです。よろしくでぶぅ……」
マルヤンは、どすんと椅子に座った。
ああ、これは駄目だ……。語尾に「でぶ」が付く奴がまともな訳がない。
「……率直に聞こう。マルヤン君のMPはいくつかね?」
「778でぶぅ……」
「――何だと? グスターボ!」
「は、はい!」
グスターボは席を立ち、マルヤンの手を握る。
それだけのMPがあれば、相当な数のマジックポーションを生産できる。これは逸材が来たと、ゲラシウスの心は踊る。
「……間違いありません。ただし、彼は初級錬金魔法しか使えません」
「初級……具体的にどこまでできるのだね?」
錬金術は完全に専門外なので、ゲラシウスにはよく分からない。
「成分の合成はできるけど、抽出ができないでぶぅ……」
「抽出……? つまりどういう事だ?」
錬金術は完全に専門外なので、ゲラシウスは魔法学院一年目で習う知識すらない。
「おでの作った薬は、副作用があるという事でぶぅ……」
錬金素材を合成すると、大抵四つほどの効果を持った薬ができる。
その中には悪い効果が含まれる事がほとんどなので、錬金術師たちは、必要とする成分だけを抽出するのだ。
この作業が、もっとも時間とMPを消費する。
「副作用とはどんなものだ? 死ぬのかね?」
「いや、そこまでではないでぶぅ……。頭痛とか吐き気とか下痢でぶねえ……」
――ならいいか。
だが、そんな薬を使えば、捕まってしまうのではないだろうか?
ゲラシウスのそんな疑問を上手く嗅ぎ取ったようで、グスターボが口を開く。
「ギルド長、抽出をおこなっていない薬を販売する事は違法ですが、使用するだけであれば、法律上問題はありません」
決まりだ。
「マルヤン君、ようこそ。【高潔なる導き手】へ」
* * *
「ねえねえレイ、アタシが隠密で敵を倒すには、どうすればいいかしら?」
「<
「弓を持たずに矢だけ持つって事? 何か変だわ」
エクレアは俺の隣に座り、座学を受けている。
それを見ても、ノエミが怒る事は無い。何故ならエクレアに「あと二週間だけ、そうさせて欲しい」と頭を下げられてしまったからだ。
【高潔なる導き手】からマジックポーションの注文がなくなってから一週間、エクレアとボグダンは一般メンバーに降格となった。
しかもゲラシウスはご丁寧に、エクレアの両親にエース降格となった事を、手紙で伝えやがった。よほど気に食わなかったのだろう。
彼女は二週間後家に戻る事が決まり、【高潔なる導き手】を抜けた。
「エクレアちゃん、元気でね。――お手紙送ってね」
「ちょっと泣かないでよ、ノエミ」
ノエミがエクレアと抱擁する。
「アリス、あんまりワガママ言うんじゃないわよ? アンタ、自分が可愛いって分かってるでしょ?」
アリスはじっとエクレアを見つめている。
「レイ、アタシを何度も助けてくれてありがとう。でも、それも今日で最後よ。ご苦労様」
「……エクレア、お前が望むなら手助けをしてやれる」
「きゃははは! 大丈夫よ、アタシの婚約者は素敵な人よ。もうちょっと遊んでいたかったってだけなの」
「そうか……なら、いいんだが……」
「アタシの事忘れないでね。――バイバイ」
エクレアは笑顔で、【クッキー・マジシャンズ】を後にした。
その数日後、俺の元に一つの依頼が舞い込む。
それはエクレア・シュトルーデルの捜索依頼だった。
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