第三章 クッキー・マジシャンズ
第11話 夢を追う君へ
ドアがノックされた。
「入りたまえ!」
「――失礼します」
グスターボがまた決算書を持って来た。今回は見なくても結果は分かる。
「月次決算書です……」
ゲラシウスはふんだくるように書類を取り、純利益を見る。
予想通り、また利益が下がっている。
依頼成功率が激減したのだから当然だ。
「なぜ依頼達成率が下がったのか分析できたのかね?」
「できた事はできたのですが……」
「何だね? さっさと言いたまえ」
「いえ、その……非常に申し上げにくい事ですので……」
「いいから言え! どんな事でも私は怒らん!」
「も、申し訳ありません! では伝えさせていただきます。 我々の調査の結果、一つの依頼に割り当てられる人員が減ったのと、パーティー構成に問題があると――」
「貴様!! この私の責任であるというのか!!」
ゲラシウスはドンッ! と机を叩いた。
「い、いえ! とんでもございません!」
「私のせいではない! お前達の努力不足なのだ! 違うか!」
「は、はい! ギルド長のおっしゃるとりです!」
「分かればよろしい! ではメンバーにもっと努力しろと伝えるのだ! ――他に何かあるか?」
「はい。エクレア・シュトルーデルの復帰は、まだ難しいようです」
「駄目だ! これ以上の休暇は認めん! 何とかして出勤させろ!」
「か、かしこまりました! 説得できそうな者に頼んでみます!」
何が、「アタシ、戦える精神状態じゃないです」だ。
あの小娘のせいで、我がギルドの評価は大幅下落なのだ。こっちの方がよっぽど精神的にきてる。
今すぐお仕置きしてやらねばならん。
「げへへ……」
ゲラシウスは股間を膨らませ、舌なめずりをする。
「それとレイの妹が、新規に魔術師ギルドを設立しました。もちろんレイの奴めも、そのギルドに所属しています」
「な、何だと!?」
* * *
俺とアリスは街の酒場に挨拶回りに行く。
【高潔なる導き手】にいた頃は、営業にも力を入れていた。
その為、どこの誰に顔を憶えてもらえばいいのかは、完全に把握できている。
「――よし、これで終わりだ。よく頑張ったなアリス。何か甘い物でも食べに行くか?」
反応は無い。だが、こいつは甘い物が大好きだ。きっと喜んでいるだろう。
俺達は近所のカフェに入り、紅茶二つと安いワンホールケーキを注文した。
「ちゃんとフォークを使っているな。偉いぞ」
最近は、ちゃんと食器を使えるようになってきた。
それまでは基本手づかみ、スープであれば顔を突っ込むという食べ方だったので、外食は不可能だった。
「美味いか。良かったな」
好きな物を食べている時は、俺の方をあまり見なくなる。
最近やっと、それが分かって来た。
俺はアリスの胸を見る。――いや、谷間を見ているのではない。首から下げられたプレートを見ているのだ。
銅で作られたプレートには【クッキー・マジシャンズ】と書かれている。
ダサい事この上なしだが、アリスがその名前にしたいと言っていたのだ。――もちろん人間の方である。
(ようやく、お前の夢の第一歩を叶えてやれた。遅くなってすまんな……)
俺はバッグから最新号の四季報を取り出し、ページをめくる。
銅級679/679位。これが今の俺達のランクだ。
設立したばかりなので、最下位なのは仕方ない。
俺は銀級のページを眺める。――あった。
【高潔なる導き手】銀級17/241位。
前回は金級26/58位だった。大幅なランクダウンだ。
すでに魔術師ギルド本部には、ロビンソンとギシュールの凶行が伝わっている。
エクレアを救出した後、俺は林業ギルド長ヤニック・イベールに事件の経緯を説明した。
彼は【高潔なる導き手】を強く非難し、デポルカの街の領主ジェイラン・ラペルト伯爵と、魔術師ギルド本部にこの事を報告したのだ。
俺とアリスは、ラペルト伯より、金一封と勲章を授与された。
無償でエクレアを救出し、トレント数体を退治した事を評価されたのだ。
勲章が貰えたのは非常に大きい。これが無かったらギルドは設立できなかった。
何故ならギルド長になれる条件が、上級魔法を使える事と、一定の功績がある事だからだ。
意外にも学歴は必要とされない。
良い学校を出ても、伸び悩む魔術師は非常に多いので、完全な実力主義としたのだろう。
「アリス、白金級1位を狙って頑張って行こうな」
アリスはチラリと俺を見ると、すぐにケーキを頬張った。
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