第7話 エクレアの日記

 二日目。

 アタシ達は水筒に水を詰めて、沢に沿って進んだ。

 本当はデポルカの街がある北を目指して進みたかったけど、グレタが講義で習った事をまったく実践できなかったの。まじムカつく。

 沢は途中で滝になったので、それ以上進めなくなった。

 どうするか話し合ったけど、折り合い付かず。結局ここで野営する事になる。



 三日目。

 ロビンソンのいびきがうるさくて眠れなかった。あのブタ、マジで屠殺とさつしてやるわ!

 朝は四人でまた会議。

 このまま沢に沿って進むか、それとも北を目指すか。

 ギシュールが試しに崖を降りてみたけど、すぐにギブアップ。


 アタシ達は、木の年輪をたよりに北を目指す事にした。

 グレタが「年輪はあてにならないって言ってた」って言うけど、他に参考にできるものが無いんだから仕方ないじゃない!

 出口にはたどり着けなかった。結局、木の少ないところで野営をする事に。



 四日目。

 また朝から会議。

 一旦沢に戻ってお水を補給するか、このまま北に向かうか。

 話し合った結果、沢に戻る事に。

 何時間も歩いたけど、沢にはたどりつけなかった。

 おかしい、ちゃんと真逆の方向に進んだのに……。

 食料が尽きた。



 五日目。

 お風呂に入ってないからアタシ臭い。

 ロビンソンなんか最悪。ウ〇コの方がマシなくらい。

 今日も沢に向かって進む。

 途中、一体のトレントに襲われたけど、MPは全回復してたからあっさり倒せた。よかった。

 今日も沢には着けなかった。

 お腹が空いた。



 六日目。

 また会議。やっぱり北を目指した方がいいんじゃないかって。

 でもお水なしで進むのは危険。アタシがリーダーシップを発揮し、沢を目指す事になった。

 日没まで歩いたけど、沢に着かない。どうして!? ねえ、どうしてなの!?

 お水がなくなった。



 七日目。

 喉が渇いて、会議する元気もない。

 アタシは何も言わず、沢に向かって歩き出す。

 三人は黙ってついて来る。

 二体のトレントに襲われた。でもMPだけは満タンだ。楽勝よ。

 その夜、ギシュールとロビンソンがケンカした。

 ロビンソンがこっそり水を隠していたらしい。

 アタシは止めようとしたけど、怖くてできなかった。



 八日目。

 やった! 沢にたどり着いた!

 アタシ達はひさしぶりに笑顔になり、ゴクゴクと沢の水を飲んだ。

 でも依頼の期限が過ぎてしまった。



 九日目。

 お腹が空いて空いてしょうがない。よく分からない草やコケは食べてるけど、お腹はまったく膨れない。

 また会議。四人で歩いても無駄だから、グレタに全員の水筒を預けて脱出させる案が出る。

 全員賛成。

 グレタは犬をアタシ達に預け、「必ず助けを呼んで来るから」と言って出発した。

 三日後くらいには助けが来るはず。



 十日目。

 肉が焼ける匂いで目が覚めた。

 ギシュールとロビンソンが、笑いながら<火線メギナ>で犬を焼いてた。

 朝起きたら死んでたらしい。

 二人は「こいつも役に立てて嬉しいはずだ」と言う。

 犬を食べるなんてヤダ。……でも空腹には耐えられない。

 久しぶりの肉はとてもおいしかった。



 十一日目。

 水を飲んで寝るだけ。

 犬を食べたせいで、よけい空腹感を感じるようになってしまった。

 もっとお肉を食べたい!



 十二日目。

 二人が「肉食いてえな……」と言ってるのが聞こえた。アタシと一緒だ。

 鹿やウサギを探してみたけど、まったく姿が見えない。

 多分足音で気付かれてしまうんだろう。

 アタシ達は狩りの素人だから、どうやったら捕まえられるのか、さっぱり分からない。

 まだ救助は来ない。



 十三日目。

 食べ物が出せる魔法が使えたらいいのに。コケしか食べてない。

 夜中、ロビンソンがアタシの顔をのぞいてた。

「何?」って言ったら、慌てて去って行った。いやだ、怖い。

 グレタ、早く戻ってきて。



 十四日目。

 毎日沢で水浴びしてたけど、昨日の事があるから、もう怖くてできない。

 ロビンソンが黄色いキノコを食べたらおかしくなってしまった。

 すっぽんぽんになり、あちこち走り回ってる。

 茂みのカゲでゴソゴソしてると思ったら、「食いもんだぁあああ!」と言って、どう見てもウ〇コにしか見えないものを、バクバクと食べてしまった。

 アタシは泣きながら止めたけど、あいつは「こりゃクソだあああ! ぶひゃひゃひゃひゃ!」と大笑いしながら、ウン〇を体に塗りたくってた。もういやだよ……。



 十五日目。

 ギシュールがイモムシをいっぱい見つけてきた。

 焼いて食べる。……すっごくまずい。でも食べなきゃ死んじゃう。

 ディリオン様に会いたいから、頑張って食べよう。

 助けはいつ来るのかな? 明日くらいには来ると思うんだけど……。



 十六日目。

 ロビンソンが普通の木をトレントと間違えて、<火線メギナ>で燃やそうとした。

 ギシュールが慌てて止めたけど、突き飛ばされて、殴り合いのケンカになった。

 アタシは遠くから見てる事しかできなかった。リーダー失格だ……。

 助けはまだ来ない。



 十七日目。

 グレタが帰って来た。

「やったー! 沢に戻ってこれたぞー!」ってヤバい目で叫んでて怖かった。

 二人は、グレタを散々になじったけど、あの子はヘラヘラと笑ってた。

 頭がおかしくなってしまったみたいだ。犬がいない事も全く気が付いてない。

 アタシ達もうダメかも……。

 ダメダメ、弱気になっちゃ! ディリオン様に絶対会うんだ!


 ギシュールが「明日鹿を狩りに行くから、上手く肉を調達できたら、ここを出発しよう」と言ってきた。

 グレタが失敗した以上、ここに留まっててもしょうがない。

 ギシュールの案を採用したけど、そんな都合よく鹿なんて捕まえられるのかな?

 ずっと探してるけど、一度も姿を見た事が無いんだよ?

 あー、これ書いてたら、お肉が食べたくなってきた。



 十八日目。

 みんなが寝てる隙にちょっと遠くまで行き、ひさびさに水浴びをした。

 カタツムリがいたから、一人でコッソリ焼いて食べちゃった。アタシって悪い女だ。

 野営地に戻ると、グレタがいなくなったと言われた。

 ギシュールとロビンソンが、グレタの捜索と鹿狩りに森の奥へと行った。

 そしてしばらくして、煙が立つのが見えた。

 二人が笑顔で帰って来た。

「グレタは見つけられなかったが、鹿を捕らえる事ができた」と言って、バックパックに詰めた、焼いた肉を見せてくれた。

 とっても美味しそうな匂いがする。

「やっぱ肉はうめえな!」と言いながら、二人は大喜びで鹿肉にかぶりつく。

 アタシは肉に手を付けられなかった。

 今まで鹿なんて捕まえられた事なんてなかったのに、何で急に獲れたの?

 考えたくない! 怖いよディリオン様!



 十九日目。

 アタシ達は北に向かって出発した。

 二人は肉を食べたせいか、少し元気になっていた。

 鹿肉のどの部位が美味しかったかを、仲良さげに語ってる。

「締めた時は最高だった」と笑う二人が怖い。

 夜寝ていると、ギシュールとロビンソンがアタシを見ながら、コソコソと話しているのが分かった。

 この二人といるのは危ないかもしれない。

 でも一人だと、トレントに襲われたら終わりだ。

 どっちがマシなんだろう? 誰か助けて下さい。



 二十日目。

 二人はペースを考えずに、ガツガツと肉を貪り食っている。

「そろそろ肉が無くなるな……明日、また鹿を狩りに行こう」とギシュールがロビンソンに話し掛けてる。

「ぶひひい! 待ってました」と笑うロビンソンの口からは、よだれがダラダラと垂れてた。

 二人の目つきは異常だ。

 逃げなきゃ……! トレントに食い殺された方がまだマシよ!



 二十一日目。

 今、二人が殴り合いをしています。

 アタシを犯してから殺すか、殺してから犯すかでケンカになったんです。

 この隙にアタシは逃げます。

 この日記を拾った方、アタシを助けてください。お願いします。



――日記はそこで終わった。


「エクレア……!」


 二人の男女は、小さな足跡のトラッキング追跡を開始した。

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