第2話 追放

「レイ・パラッシュ。本日付けで、君をこのギルドから追放する」


 ギルド長室に呼び出された俺は、ギルド長のゲラシウスにいきなりクビを言い渡された。


「一体どういう事ですか!?」

「うちのエース三人をすぐに治療せず、しかも手柄を横取りしようとしたらしいじゃないか」


 ほのおの魔女エクレア、氷の貴公子ディリオン、雷神ヴァルフレードがさげすんだ目で俺を見る。


「彼等には何度も説明しましたが、それは誤解です! 先にドラゴンを倒さないと、焼き殺されていました!」

「君がドラゴンを倒したんだって? わはは、まったくもって信じられないね。そこまでして、ディリオン君の功績を奪いたいのかい?」


「俺は本当に<魔力の盾イレイン>を使ってドラゴンを投げ落としましたが、それを手柄だとは思ってません!」


「いい加減にしろおおおおおお!」


 ゲラシウスはドンッ! と机を叩いた。

 何を言っても信じてもらえそうにない。俺は押し黙るしかなかった。

 そんな俺の姿を見て、三人がニヤニヤと笑っている。


「――はっきり言おう。<魔力付与リヒテミ>と<魔力の盾イレイン>しか使えない魔術師など、うちにはいらんのだ。君の存在は、我が【高潔なる導き手】の恥さらしでしかない」

「そんな! 俺は確かにその二つしか使えませんが、それを上手く使ってギルドに貢献しています! そこをちゃんと評価してくださいよ!」


 四人は大笑いする。


「なによ貢献って!? アンタがなにやってるっていうのよ!? アタシの手を握ってるだけでしょ!? この変態!」

「盗人猛々しいとは、まさにこの事だね。本当、平民というのは下劣な生物だ」

「お前は俺等の足を引っ張ってるだけだ! 昨日だってお前がいなけりゃ、無傷で勝てたっつーの!」


「お前……! いい加減にしろよ!」


 さすがの俺も頭にきて、ヴァルフレードにつかみかかる。


「うわああああ!」


 ヴァルフレードがわざとらしく倒れ込んだ。


「レイ・パラッシュ! よくもうちのエースを傷つけてくれたな! 衛兵を呼ぶぞ!」

「クソ! どう見ても、わざとじゃないですか! それにこいつだって、昨日俺を殴ってます!」


「はぁ……また、嘘をつくのかい?」

「本当どうしようもないクズだぜ!」

「おい、お前ら! 卑怯だぞ!」


「――という訳だ、レイ。私が通報する前に、さっさと出て行きたまえ」

「すみません! 暴力を振るった事については、きちんと謝罪します! ですが、クビは勘弁してください! ギルドにとっても、俺のMP付与と運搬能力は立派な戦力になっているはずです!」


 四人は大笑いする。


「わはは! そんなもの、マジックポーションと運搬人を使えば済む事なのだよ! わざわざ高い金を払う価値はない!」


「高い金って……! 俺はたいした魔法が使えないからって、わずかな報酬しかもらってないですよ!? それも休みなしで!」


 かれこれ丸二年は休んでいない。おかげで俺の顔は死人のようになっている。


「働かせてもらっただけでもありがたく思え! このゴミめ! 今すぐ出ていけ!」


「待ってくだ――」

「<突風ウィド>」


「うあっ!」


 俺は風圧で部屋の外まで吹き飛ばされた。

 ギルド長室のドアがバタンと閉まる。


 ドアの向こうから大きな笑い声が聞こえてきた。


 俺の努力はすべて無駄だった。何一つ評価してもらえていなかったのだ。


「お世話になりました……」


 俺はのそりと起き上がると、周囲の者にクスクスと笑われながら、この街の最高ランク魔術師ギルド【高潔なる導き手】を後にした。



     *     *     *



 俺は新しい職場を探すため、他の魔術師ギルドに面接を申し込むも、すべて断られた。


「面接すらしてもらえないなんて……まさか、ゲラシウスが裏で手を回したのか……?」


 だとすれば、この街で魔術師としてやっていくのは無理だ。他の仕事を探すしかないだろう。

 だが、俺は底辺ではあるが、四年間魔術師としてやってきた。それを手放すなど、簡単にできる事ではない。


「変なプライドを持ってしまったな……」


 俺は皮肉めいた笑みを浮かべる。

 たいした能力もないくせに、他の仕事には就きたくないなどと考えてしまっているのだ。

 こんなつまらないプライド、さっさと捨ててしまった方が楽になるはず。

 頭では分かっているのだが、俺にはどうしてもできなかった。



 結局俺は仕事を探すこともせず、わずかな貯金を切り崩しながら、家で酒を浴びるように飲む毎日。


 疲労と睡眠不足でクマだらけだった顔色はさらにひどくなり、最近は鏡も見ていない。なんとなく見るのが怖いのだ。



 そんな時、ドアのポスト口から一冊の雑誌が放り込まれた。


「――ん? 何だ?」


 俺はふらふらとした足取りでドアに向かい、雑誌を手に取った。


「魔術師ギルド四季報か……もう俺には関係ないな……」


 魔術師ギルド四季報は、スカンラーラ王国内の、全魔術師ギルドのランクと業績が書いてある冊子だ。これは三か月に一度、全魔術師に無料で配布される。


「この街の魔術師ギルドは全部回ったつもりだけど、漏れがないか一応見てみるか……」


 俺はデポルカの街のギルドを一つ一つ丁寧ていねいに確認していく。


「――ん? 【深淵しんえんをのぞく者】? こんなギルドあったか?」


 経歴を見ると、別の街から引っ越してきたばかりのようだ。

 どうりで知らないわけである。


「よし、試しに明日行ってみるか……」


 どうせ断られるだろうから、酒を買いに行くついでといった感じだ。


 俺は四季報を放り投げるとベッドに横になった。

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