第10話

 俺はこの国の王太子エセルバード。

 そして俺には俺を女性にすれば瓜二つだろう一卵性双生児の妹がいる。


 そう、ただの妹……がな。


 当然の事ながらこの俺の容姿が整っているだけに妹は普通に美しい。

 でもそれだけ。


 確かに妹として、肉親としての情はあるにはあるのだが、でもそれは妹のキャシーが求めるものとは全く違う。

 

 あれは物心のつく頃……いや、それ以前なのかもしれない。

 この国の頂点に立つ両親達に必要とされる愛情は殆ど与えられる事なくだからこそ愛情と言うものへ飢えていたのかもしれない。

 妹のキャシーは何時の頃からなのか、俺へ兄以上の感情をずっと胸に抱きそんな俺に対し凄まじく執着をしている。


 勿論今に至るまでそれなりに兄離れをさせようと何度となく促しまた実践してきたのだ。

 しかしその全てがことごとく失敗した。

 そうして時が流れ俺が12歳になった頃だった。

 俺に婚約者が出来たのは……。



 婚約者の名はエリザベス。

 我が国の公爵家の令嬢。

 年齢は5歳違いの当時はまだ7歳だったな。

 

 柔らかな栗色の髪に煌めくエメラルドグリーンの瞳を持つ可愛らしい容姿の女の子。

 日頃美しいモノばかり見てきた故なのかふわふわと可愛らしくも明るい、柔らかく微笑まれれば一瞬で心が癒されれば、つい今し方までささくれ立っていた筈の心がぽかぽかと春の陽気の様に温かくなってしまう。


 取り立てて絶世の美少女――――と言う訳ではない。

 エリザベスは可愛らしい容姿も然る事ながらその一つ一つの所作の全てが愛らしくまた可愛いのだ。

 勿論公爵家の令嬢として、また淑女としての教育も行き届いてはいる。

 しかし今まで俺が見てきた世界に存在するどの人間にもないモノをエリザベス――――リズは持っていたのだ。

 

 本当に瞬殺だった。

 

 これが俗に言うと言う奴なのかと。

 

 だから俺は素直にこの婚約を喜んだ。

 そして恐らく生まれて初めて俺は両親へ感謝をすれば……だっっ。


「おお、それは重畳。これでお前とエリザベスとの婚姻の暁には、いやいや将来お前達二人の間に子が生された時には公爵家へ借りていた莫大なる借金は帳消しとなる。エセルよ、くれぐれもエリザベス嬢を粗略に扱うでないぞ。あの令嬢が将来孕むだろう子には我が王家が代々借り続けてきた借財を帳消しにさせる希望が宿っておるのだからな」

「そうよエセル。リズは彼女が生まれる前より公爵家が真綿に包む様に、そして貴方以外誰もリズを愛さない様にまたリズ自身貴方以外に興味を持たない様にこれまで、そうしてリズが15歳となり王太子宮へ登城するまでの間それはなされるのです」


 何……を?

 借金、それも代々?

 

「母上、その内容ですと公爵家はエリザベス嬢を徹底して管理している様に聞こえますが……」


 そうとしか思えない。

 まるで箱庭に飼われた愛玩動物の様な扱われ方では――――。


「そうですよ。何を今更……リズは将来貴方の妻としてまた王妃となる娘なのです。その娘に万一の事があればどうするのです」

「ああそうだ。それにこちらには借金が、また公爵家には、特に公爵は将来外祖父となり四公爵家より頭一つ抜きんでて権力を手中に収めたいという野心を持っておる」

「あら公爵夫人もですわ。王妃である私を差し置き社交界を牛耳ろうとする腹積もりでしてよ」


 夫婦揃って狸だな……と両親達は己が自身も狐だと言う自覚もないまま仲良さげに笑っていた。


「まあ取り敢えずだ。何としてもエリザベス嬢が無事に子を孕み産むまでは公爵夫妻の思う様に動いてやろう。何、借金さえ帳消しとならば堂々と王族をたばかったと色々罪状を並べたてればとの際には公爵家を取り潰す若しくは降格に処す心算つもりだ。だからエセルよ、令嬢と子を生し無事に生まれるその時までの我慢ぞ。全てが無事に事をなし、またそなたが娘を気に入らねば令嬢諸共公爵家を跡形もなく始末しようではないか」

 

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