第9話

 何も考えられない。

 何もわからない。


 今日が何日で、一体今は何時なの?

 朝?

 それとも昼若しくは夜なのかしら。

 

 頭の中に霞が掛かっていておまけに頭だけではなく身体も重怠いのです。

 それでいてこのゆらゆらと静かな波間に漂う感じは何とも心地よく、何かを考えようとすればする程に私の思うものは霧散してしまいます。


 でもそれではいけないと、私の中の何処かで警鐘を鳴らそうとすればです。


『可愛いリズ。君は何も考えなくていいのだよ。ずっとこのまま、そう俺の腕の中で君は永遠に生きるといいのだからね』


 永遠にこのまま?


『そう、俺とリズの二人でこのままだよ』


 本当……に?

 でも貴方には……。


『ああ、リズは寂しかったのだね。ずっと長い間こうしてあげる事はなかったからね。後もう少しすれば永遠にリズは俺のものになるからね。だからこのまま夢の中で大人しく待っていて』


 夢の中で?


『ああそうだよ。リズはずっと俺の夢のを見て俺の事を待っていておくれ』


 甘くも温かい夢の会話。

 いえ会話だけではないわ。

 心も身体も全てが夢の様にふわふわとするの。


 私はずっとこのままでいいの?

 何も考えずただ与えられるだけで生きていくの?


 それへ少しでも抵抗の意思を感じ始めればまた甘い香りが鼻腔を擽り、それまでに考えていたもの全てが霧散していく。


 わからない。

 本当に何もわからなくなっていく。

 

 何時からこうなったのかも、そしてこの先に何が待っているものすらも……。


 ああ私は一体何処へ、そして何をする心算つもりだったのかしら。

 今の私は決して目に見えない甘い鎖の様なもので身体だけでなく私の意思をも捕らえて離さ……ない。

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