第8話
ひと月後――――。
私は再び王妃陛下の私的なサロンへ参りましたの。
勿論お部屋には両陛下は元より私の両親そして……王太子殿下、ええ貴方の存在までは理解出来ました。
ですがこの席にもう一人――――。
そう誰であろう諸悪の根源……まあそれは私からにすればです。
生憎ながらまだ両殿下の関係について私は一切公言してはおりませんもの。
だから、ええきっと誰も彼らの関係そしてそれが原因で私が婚約をなかったものにしたいだなんて誰も思いはしない筈。
なのにです。
上座に当たる席には両陛下。
左側の席には私の両親。
そして右側の席は何故か同じ顔の兄妹が触れ合う程にって、いいえしっかりこれでもかと言わんばかりにこの場でいちゃいちゃとくっついておいでなのです!!
その様子に私は呆れを通り越して最早憤りしか、ああそれすらももうどうでもいい。
確か現時点で私はまだ王太子殿下、貴方の婚約者であり未来の妻となるのは私でしたよね。
そして貴方と仲良くなさっておいでの御方……キャサリン殿下は間違いなく貴方の血を分けた妹君の筈。
宜しいのですか。
両陛下のみならず臣下である我が両親のいる真ん前で、その様にいちゃついて問題はないのでしょうかっっ。
べ、別に羨ましい訳ではないのです。
そう、これは誤解の無きようにして下さいませね。
ただ私は一般的な常識として物を申したいだけなのです。
――――と言いますか、両陛下も我が両親も彼らの行動へ何ら注意をする訳もなく普通ににこやかになさっておられるのです。
まるでこの中で私一人が間違った考えをしているかの様な。
異質な存在だと言わんばかりのこの居た堪れない雰囲気こそが可笑しい筈なのに、何故誰も彼らを咎めようとなさらないのでしょうか。
それとも私の方が何処か可笑しいのでしょうか。
また同時に気分がとても優れないのです。
そしてキラキラが、そう薄らと胸に込み上げるものを感じてしまいそうなので、ここは気をしっかりと持たなければとゆっくりも深く深呼吸をし――――。
「お待たせして申し訳御座いません。本日皆様がお揃いであるのならば改めて、伏してお願い申し上げます。どうか王太子殿下と私の婚約はなかった事にして下さいませ」
言いました。
ええはっきりと言い切りましたわ。
しっかりと両陛下そして貴方の瞳を見て申し上げさせて頂きましたわ。
理由はこの際……ええ貴方方の様子を見れば割愛させて頂いても宜しいでしょう。
ひと月前は両陛下へ理由を語りませんでしたが、今この様子ではきっと両陛下だけでなく我が両親も知っていた上での婚約だったのですよね。
大方仲睦まじいお二人の間で儲けられた御子を私と貴方の子として、私が禁忌の子の母となって育てさせるお
私はそこまで出来た娘ではありません。
幾ら箱庭育ちとは言えです。
箱庭育ちでも私には意思と言うモノが存在するのですもの!!
箱庭の中で大人しくされるがまま、生涯何も考える事無くただ生かされる人生を歩む者もいれば私の様に時間を掛けて己の意思をしっかりと持つ者も確かに存在はするのです。
なので私はこれにて失礼致します。
この様子では我が両親も共犯でしょう。
このまま
箱庭を、王宮からも飛び出せばその足で我が国一番の戒律の厳しい修道院へと駆け込むしかありません。
欲を言えば物語の様な王子様と恋をし幸せな結婚をしてみたかったのですが、あくまでもそれは余力があったればこそなのです。
今の私には人生の余力どころか危機的状況故にその様な夢物語は捨ておきましょう。
本来ならば陛下の御前を下がる際には陛下の許可が必要となりますが今は危機的状況故にそれも割愛させて頂きます。
修道院へ駆け込み尼となって余生を静かに過ごし、人生の余力が生じました暁には心の中で此度の非礼を静かに詫びさせて頂きます。
そうしてくるりと踵を返し呆気に取られている両陛下並びに両親、そして貴方方のいる部屋より立ち去ろうとしたのに……。
「逃がさないよ俺のエリザベス。最初から逃がす筈がないだろう可愛い可愛い俺のリズ」
突如耳元で吐息交じりに熱く囁く貴方の声。
貴方の男らしい大きな手には手巾。
一瞬の間に私の鼻と口元はそれで覆われれば私は……。
力強くも熱い何かで私は身体の自由を、そうして直ぐに意識は失われ――――。
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