第2話
そう後数ヶ月後には結婚を控えていると言うのにも相変わらず殿下、貴方は何時もと変わらず決められた日と、決められた季節の花束そして判で押された様な麗しい笑みと全く一音一句変わらない言葉で以って私へ一線を引いた状態で接しておられます。
愛らしい、可愛いと何時もと変わらず仰って下さるそのお言葉に一切の気持ちが籠ってはいないと気付くようになったのもここ最近ですわね。
あんなに信じ切ってまた心よりお慕いしていた筈の貴方の心が最初から私にはなかったのだと知ってしまったからなのでしょうか。
それとも……最初から私は何も知りたくはないと無意識にも心へ蓋をしたいたからなのでしょうか。
今となってはその様な些事はどうでもよいのです。
新しく住まう事になる王太子宮へはこの半年をかけて引っ越す準備が粛々をなされていきます。
とは言え一国の王太子妃となるのですから当然今まで使っていたものなんて持ってはいきませんよ。
そこは両親や両陛下がしっかりと今まで通り吟味されればそれぞれの匠達へ命じ、最高級の調度品やドレスに宝石を
特に調度品類は数年前より既にオーダーが出されていたのですもの。
私はただ完璧に
私以外の両親や両陛下に夫となる殿下――――貴方だけではありませんわよね。
きっと私以外の全ての者がそうであるべきなのだと信じていたのでしょう。
ああ、この時点では私もそこへ含まれておりましたわよ。
ですがたった一人、そうそれを善しと思わぬ御方がおられましたの。
それが私を長い夢より醒めさせたあるご令嬢の存在。
その日はとても晴れた日でしたわ。
また季節は春めいており、窓より見回せば美しく咲き誇る花々そして――――。
「少し庭園を散策してきますわ」
何時もならば決して一人で部屋の外へ出歩くなんて事は許されませんでしたし、それに一人で出歩く等私自身怖くて出来なかったのです。
そう私は常に誰かと一緒だったのですもの。
確かに心許せる様な長年仕えてくれる侍女……と言う存在はおりませんでしたわ。
何故なら両親達は皆定期的に、特に私の周りで仕える者達を総入れ替えしていたのですもの。
私が少しでも誰かと心を許し合おうものならば、その翌日には彼らの姿は何処にも屋敷内にはなかったのです。
その事に一抹の悲しさと不便さ、若干不思議にも感じはしましたがそれでもです。
十五年もそれが続けば何時しかそれは常識へと変わっていくものなのです。
だから私にとってそれが当たり前でしたの。
彼らは私の世話をする使用人であると共に監視人だと言う事を……。
ですがこの時ばかりは少々アクシデントにより新しい住まいの事で使用人達が話をしている声よりも私の声が小さかったのでしょうか。
それとも私の事へ気が回らなかったのかもしれません。
常ならば部屋の中で大人しくしていた私でしたがこの時ばかりは初めて芽生えた冒険心が勝ってしまい、私はそっと部屋を出れば階下の庭園へと少し、ええほんの少しだけ淑女らしかぬかもしれませんが小走りで向かいましたの。
そう何故なら先程窓より外を見た時に見てしまったのです。
愛しい貴方の後姿を――――。
恋しい未来の夫となる貴方の御姿を追って私はその喜びを胸に抱いて、半月前にお見受けした貴方の姿を追って一人庭園へと、貴方の向かったその奥へと心を躍らせて向かったのです。
きっとっ、ええ本当にこれは初めての事なのです!!
全て決められた事より飛び出せば、真っ新な状態で愛おしい貴方と初めて逢う――――。
「……ているよ」
はい?
「愛しているよ私の愛しいキャシー」
キャシー?
いいえ私はエリザベス。
何時も貴方はエリザベスとそう呼んでいた……筈。
なのに何故キャシーって。
失礼なのですがキャシーとは一体誰なので……。
「ふふ、擽ったいわ殿下」
「
「んンあああっ、やだぁ……そ、そんなに激しくしちゃああン⁉ ひゃあンんっ、お、奥がっ、エセルの大きくて硬いのが奥に当た――――んンっ、ああああああああんあぁ!!」
「ふぅ……しっかりと受け止め早、く孕めっ、俺……のキャシ!!」
雨何て一滴すらも降ってはいない晴れた日の筈なのに。
私を囲む木々の葉の一枚ですら全く濡れてはいないと言うのに。
何故こんなにもくちゅくちゅと濡れた音が彼らより発せられるのでしょう。
それと同時にぱんぱんと何かを叩きつける様な今までに聞いた事のない音。
ただわかる事はそれらの音と同時に草陰の向こうにいる貴方と
そして何よりも信じられない事なのですが孕むとは一体……。
その孕むとは私の知る子を孕む――――と同義なのでしょうか。
ならばです。
ならば貴方は貴方の妃となる私ではなくその、キャシーと呼ぶ女性に貴方の子を孕むように切望しているのでしょうか。
ならば私は?
もう直ぐ貴方の正式な妻となり王太子妃……未来の王妃となる私は貴方にとって一体何なのでしょう。
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