光と風のけはい

 ぴいこちゃんには、まだ抜糸ばっしと頭蓋骨を固定しているプレートの除去手術が残っていましたが、Oさんのおうちで暮らすようになって徐々じょじょにまっすぐ歩けるようになってきました。


 だけど、Oさんの心配はつのるばかりでした。

 どうやら、ぴいこちゃんは目が見えず耳もあまり聞こえず、匂いもわからないようなのです。


 癲癇てんかん発作ほっさやパニック症状を起こすこともありました。

 脳に受けたダメージに加え、もしかしたら瓦礫がれきの下敷きになった時のフラッシュバックや光のない世界への恐怖があるのかもしれません。


 光や音や匂いで満ちあふれていた世界が、突然、暗がりでしかなくなったのです。それまではそばにいたであろうかあさん猫の温もりはどこにもなく、きょうだい猫とピョンピョン飛び跳ねていた体は以前のようには動いてくれなくなったのです。



 でも、ぴいこちゃんは後遺症や恐怖に押しつぶされたりはしませんでした。

 今いる場所で、今ある感覚を使って、ひたすら生きようとしていました。

 瓦礫がれきはぴいこちゃんの頭を押しつぶしても、ぴいこちゃんの生きようとする力まで押しつぶすことはできなかったのです。



 8月13日に抜糸が終わると、ぴいこちゃんはできることもだんだん増えて、おうちの中の段差をひとりで登ることさえできるようになりました。

 に戦いをいどんだり、狩りの練習をしたり、子猫らしいこともするようになりました。


 網戸越しに、お外に顔を向けていることもありました。吹く風や光の揺らぎをぴいこちゃんは全身で感じているようでした。


 世界は確かに、ぴいこちゃんとつながっているのです。

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