緊急手術と幸運のプレート

 ぴいこちゃんは、まだ生後3週間。動物病院の先生は、幼すぎて手術中に死亡してしまうかもしれないし、たとえ手術が成功したとしても後遺症が残る可能性があると言いました。

 しかし、ふくれ上がった頭部でキーキー悲鳴を上げながら、もがき苦しみ続けるぴいこちゃんに、手術以外の選択肢は残されていませんでした。


 あるいは、このまま安楽死という処置もあったのかもしれません。

 でも、家に連れて帰ってからの3日間、Oさんご一家はぴいこちゃんが懸命けんめいに生きようとする姿を見ていたのです。だから、名前も付けたのです。見す見す死なせるなんて、できるはずがありません。


 Oさんはリスクを承知で手術にかけることにしました。ぴいこちゃんの「生きたい」という気持ちに、一縷いちるの望みを託したのです。



 8月1日の夕方、緊急手術が始まりました。

 強い衝撃と重い瓦礫がれきに押しつぶされていたために、ぴいこちゃんの頭蓋骨は耳の少し下あたりで一直線に大きく骨折し、皮下組織には壊死えしの部分もありました。


 ぴいこちゃんは重い瓦礫の下で、ひとりぼっちで長時間耐えていたのです。


 骨折部分はプレートで2箇所固定され、壊死の部分は取り除かれました。

 なによりも幸運だったのは、ぴいこちゃんの小さな頭蓋骨に合う極小プレートの在庫が動物病院にあったことです。このプレートがなければ、手術ができなかったのですから。

 猫の神様が、生きようとするぴいこちゃんのために用意しておいてくださったのでしょう。


 一時間半の手術が終わり、ぴいこちゃんも無事に麻酔から覚めると、Oさんご一家は先生と神様に心から感謝しました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る