4 王様ゲームは心臓が保たない

「「「王様だーれだ?」」」


 宅配ピザを食べ終え、ついに恐怖の王様ゲームが始まってしまった。


 何故恐怖かって? 葛西が絶対ロクでもないお題を書いてるからだよ……!


 なんて思いながら、自分の割り箸を見ると二番と書いてあった。


「お、私が王様ですね」


 初っ端からアホが王様のようだ。いきなり嫌な予感がする。


「さてと、お題はっと……何ですか? このつまんないお題は……はぁ、腕立て十回……じゃあ二番の人で」

「二番は俺だ」


 俺って天才だな。自分で用意した楽勝なお題を自らこなす事になるなんて!

 アホのターンだったけど助かったぁ。


 と、上機嫌で腕立てをこなす。


「流石隼人くん、腕立ても様になってますよ!」

「いや、言ってる意味全然分かんないから」


 何で普通に腕立てしただけで褒められてんだろ、俺……。

 体力有り余ってる中での十回だというのに、子供扱いされてるみたいで恥ずかしいんだが。


「じゃあ次、どんどんいきましょう」


 そんな葛西の一声で、次の王様を決める。


 また二番かよ……。


「椿が王様よ! えっと、お題はっと――」


 南条さんは箱からくじを引くとニヤッと笑った。


「一番の人、王様である私に抱きつきなさい!」


 何ともノリノリで命令する南条さんだけど、二番でマジよかったぁー!

 誰だよ、そんなヤバイお題用意しやがった奴……絶対葛西だな。

 今、一番と二番がとか言われてたら葛西と抱きあわなきゃだったよ、南条さんありがとう。


 今葛西が王様だったら、絶対一番と二番がって言ってたよね。

 それだけしか選択肢がない王様ゲームって……お題ヒット率高すぎん? やっぱ人数少ねえよ……。


「残念でした、一番は私ですね」

「チッ……」


 ……ん? 何か今舌打ちが聞こえた気が……まぁ、気のせいか。


 そんなわけでハグする南条さんと葛西。一体どこの百合世界だ、ここは。


「はぁ……」


 え、なんでため息なんて吐いて落ち込んでんの?

 南条さんまさか俺と抱き合いたかったの……?


 いやいや、そんなまさかね……ないない。


「どうしました風見さん。ボーッとしてないで次いきますよ」

「お、おう……」


 言われるままに割り箸を引くと、また二番。

 俺が王様のターンっていつになったら来るのだろうか。


「私ですね。ほほう、これはこれは……! 一番と二番、ツーショットを撮ってください」


 つ、つまり俺と南条さんがツーショット……。

 リアル天使とのツーショットとか是が非でも欲しいけど、南条さんは大丈夫なのか……?


 なんて思いつつ南条さんを見ると、ニコニコしながら既にスマホを用意していた。


「早く早く隼人くんっ!」

「――ふげっ?!」


 腕に抱きつかれた。

 とんでもなく柔らかな感触が腕に伝わってくる。

 ……にしても、今まで経験した事のない不思議な柔らかさなんだけど……これって……、


「あれま、椿お嬢様ったら大胆。自ら胸を押し付けるなんてただのエロ、楓お嬢様の事を何も言えたもんじゃないですね」

「――やっぱ胸?!」


 腕にしては柔らかすぎると思ってはいたんだ。

 けど、当たってるって自分から言い出すなんてできなかったんだ。ごめんなさい……。


「あっ……本当だ……けど、隼人くんなら……いいですよっ。他の男性だったら死んでも触らせませんけどね」

「触ってないから……! 当たってるだけだから……じゃなくて、よくないでしょこれは?!」

「椿がいいって言ってるからオッケーです」


 と、さらに身体を引き寄せられてしまった。


 か、顔が近い可愛い柔らかい……!


 ええい仕方ない……こうなったらさっさと撮って離れてもらわねば心臓が保たん。


「じゃあ撮りますよ、ハイ、チーズッ!」


 葛西の掛け声とともにシャッターが切られ、同時に腕も解放される。


「ぐふっ、ぐひひっ」

「はぁ……はぁ……マジで心臓が逝くとこだった……」

「おーい、そこのキモい笑い方して写真見てるお方、及び死の淵にいる変態男、次いきますよ」


 ちょっと休憩させてくれよと思ったが、そんなの知るかといった具合に葛西が次の王を決めるべく進行してしまう。


 ……って、なんでまた二番なんだよ。細工してんじゃねーだろうな?


「ん? なんですその疑い深い目は」

「別に……」

「次は椿が王様ね。お題は――うふっ」


 箱からくじを引いた南条さんは、前回王様だった時と同様に今回もニヤッと笑った。


「二番の人、王様である私に膝枕されなさい!」

「え、普通そこは膝枕しなさいじゃなくて……?」


 なんだこの展開は……このままだと南条さんに膝枕されてしまう。

 というか、王様ゲームだというのにさっきから俺にとって本来ならご褒美とも呼べる時間が続いているが、いい加減気のせいじゃなくね? と、つい疑ってしまいそうだ。


「紙には膝枕としか書いてありません。だったらするかされるかも、一番と二番にさせるかも王様が選べます。それよりその反応、隼人くんが二番みたいですね。ささっ、どうぞ!」


 そう言って南条さんは、ここに頭を置けと言いたげに膝をポンポンと叩いている。


「うぐっ……」

「風見さーん、王様の命令は絶対ですよ~」

「わ、分かってるよ……し、失礼します……」


 断りを入れてから南条さんの膝に頭を下ろす。


 先程の胸ほどではないが、どちらにせよ柔らかい感触が右頬に伝わってくる。

 本来ならドキドキしすぎて死んでもおかしくない状況だというのに、何故か妙に落ち着けて少し眠くなってきた。


 はぁ、いっそこのまま寝てしまおうか……?

 目が覚めたら実は夢でしたってパターンが今回に限っては最善なのになぁ。


「隼人くん隼人くん、椿の膝はいかがですか?」

「あぁ、凄くいいよ。このまま眠れそうなくらいには」

「隼人くん、こっち向いてください」

「ん?」


 南条さんの指示に従って仰向けになると、至近距離から俺を見下ろしていた。


「――はっ?!」


 相変わらずの可愛いさに一瞬で眠気が吹き飛ぶと同時に、心拍数が跳ね上がる。


「このままお休みになられてもいいですよ?」

「いや、もう寝れない……」


 いかんいかんいかん……このままじゃ今度こそ心臓が保たん……!


「あっ、ダメですよ風見さん。まだ全方位堪能してないじゃないですか」


 もうそろそろ終わりでいいだろうと頭を上げようとしたその時、葛西がまたわけの分からない発言をしてきた。


「全方位とは? もうタイムアップでいいから」

「椿お嬢様的には?」

「もうちょっとだけ、そうねぇ……後三日くらいはこのままでいいかしら?」

「南条さんまで何をおっしゃいますか?! 三日後とか全然もうちょっとじゃないし、とっくに学校始まってるから……!」

「三日は大袈裟すぎましたけど、あと数分だけ。王様の命令は絶対ですよ?」


 クッソ……これはある意味ドSなんじゃないか?

 後何分、心臓が保つかの戦いをしなきゃならねーんだよ。


「椿お嬢様、今のままだと膝の感触が直に伝わりませんよ」

「それもそうね。ちょっと失礼――」


 南条さんは右手で俺の頭を少し浮かすと、逆の手でモゾモゾし始めた。


「え、ちょっ……何やってんの?」

「これでよしっと――」


 俺の頭が再び南条さんの膝に置かれる。


「どうですか?」

「どうって、特に何も変わんないけど……?」

「仰向けになってるから髪が邪魔してるのかもですね。そのまま今度は内側に向いてもらったらどうです?」

「だからさっきから葛西は何を言ってんの?」


 膝の感触が直にとか髪が邪魔だとか言ってるけど、今のままでも充分すぎるくらいには伝わってるんですけど?


「隼人くん、次は内側を向いてください」

「は、はぁ……?」


 言われるままに顔を動かすと、理由が分かった。


「――なっ?!」


 左頬に直接伝わる膝の感触。布越しでは分からなかった、さっきまでとは別次元の肌触り。


「今度こそどうですか?」

「――どうじゃないよ!」


 俺氏、いよいよ心臓の危険を感じて緊急脱出。

 そのまま二階の自室へ逃走。


 ねぇ、南条さんってアホなのマヌケなの?!

 ガード固すぎてパンチラ目撃者ゼロって聞いてたんだけど?!

 なのにどうして今日はガード甘いの?!


 スカートまくってたから、見え……見え……見えちゃったんだけど……?!


 やばいやばいやばい……水色のあれが目に焼き付いて脳裏から離れねぇ。


 と、ベッドにダイブして只々頭を悩ます。


 本当に今日は……、


「おかしいおかしい……いかんいかん……やばいやばい……意味分かんねーよ!」


 俺が友達の距離感を知らないだけなのか?


 そんな事あるまい。


 手料理振る舞おうとしたのはともかく、ただの男友達に胸が当たるのを良しとしたり、膝枕したり、挙げ句パンチラする女がどこの世界にいるんだよ……。


 まぁ、膝枕はお題だし、胸が当たったのもパンチラも狙っていたわけじゃないと思うけど……それでもこの距離感はおかしい、絶対。


 役得とかそんな言葉で片付けられるほど簡単なレベルじゃない。


 今年のゴールデンウィークで今が一番悩んでます。

 助けてください、ライラちゃん……。


 すがるように机の上に置いてあるライラちゃんのフィギュアの前に立ち、祈りを込めて両手を合わせた。

 

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