12 友達できた

 一度自問しよう。一体どうしてこうなった?

 何で今、俺の目の前で美少女ビッグ5の一角、星名琴音が美味しそうにハンバーガーを食べている?


 俺、ライラちゃんの映画観に来ただけなのに……。


 どこで間違えたんだ? 俺は。

 映画を観に来たのが間違いだったというのか? 


 そんな風に思いたくはない。観に来た映画がライラちゃんの映画だから、間違っていたなんて口が裂けても言えるわけがないし。


 だとしたら答えはあれだ。誘導されるがままに首を横に振ってしまったあの一瞬で全てが決まってしまったのだ。

 後悔先に立たず。あの時冷静でいられたらと今更悔やんでも、もう遅い。


 とりあえず、乗り切るのだ。予定ではこの後はゲーセンに行くらしい。


 多分そこまでで解放してくれるよね……?

 まさか、ゲーセンの後もまだどっか行くとか言い出さないよね?

 ……そうなったらそうなったで、何にせよ最後に全力でお願いしよう。俺がライラちゃん好きだって事を誰にも言わないでくださいって。


「あんたさぁ、お嬢様の彼氏ヅラしてたんだって?」

「――ゲホッ、ゴホッ……!」


 不意にそんな爆弾を放られて咳込んでしまい、口に含んでいたジュースが飛び散ってしまった。


「うっわ、ちょっと掛かったんですけど……」


 当然と言えば当然だけど、星名琴音は不快そうな顔で俺を見てくる。


「すいませんわざとじゃありませんごめんなさい……」


 飛び散ったジュースをペーパーで拭きつつ謝罪する。


「あ、うん……分かったからもういいわ。それで? 何で彼氏ヅラしちゃったのよ?」


 星名琴音は少し濡れた服を拭きつつ、再度尋ねてくる。許してくれたのは有難いが、それを追求されるのは俺としては違う。


「塞がりかけてる傷がまた開くので黙秘したいのですが」

「ああ……ごめんごめん……そういえばあんた、泣きながら階段下りて来たもんね。ちょっと、デリカシー無かったかも。ホントごめん」


 やはり気付かれていたのか。泣いてるのまで気付かれていたとかかなり恥ずかしいんだけど。

 とはいえ、この話はやめてくれそうな雰囲気で安堵している自分がいるのもまた事実。

 けど、どことなく気まずい微妙な雰囲気でもある。


 確実に話題を変更する為に何か言わなければ――、


「星名さんはさ、どうして俺を捕まえてきたの?」


 と、思い付いた話題を瞬時に口に出す。


 どの段階からか分からないが、劇場内から既に俺に気付いていたはずだ。

 でも、劇場内では俺に絡んでこなかった。それにも関わらず、俺が帰ろうと劇場から出たところで接触してきた。


 どうせ絡んでくるなら劇場内でも問題なかったと思うが、何故そうしてこなかったのだろうか。


「ああ、それ? あんたがライラちゃん好きだと思ったからよ。話しかけるか迷った末に、逃げられる前に捕まえた。あ、それから隼人、あたしの事は琴音でいいわよ」

「――はあ?! な、名前で呼べと? というか、俺の名前知ってたん?!」


 その部分の衝撃が強すぎて、それより前の言葉を完全に忘れてしまった。

 そんなフレンドリーな仲じゃないんだけど?!


 そして、今更気付いたけど、そもそもあの件を知ってて俺の名前を知らないはずがないではないか……。


「それなら……ぶっちゃけこの前まであんたの存在すら知らなかったけどさぁ、ここんとこ学校休んでるっしょ? そこら中からあんたの名前とネタにした話が聞こえてくれば、あぁ……あの時すれ違った泣いてた人か、って顔と名前くらい一致させるのなんて簡単だったけど?」


 色々言われてんだろうなぁ……とは思ってたけど、現場からの声を聞くと足がすくんでしまう。


「琴音さん」

「琴音」

「……琴音、それ聞いたら学校行きたくなくなったんだけど。来週から行こうと思ってたのに」


 ……おい、今しれっと呼び捨てで呼ばせただろ。もう、呼んじゃったからこれからもそれで呼ぶけど。


「あのぉ、聞いてます……?」

「ん? あぁ……ごめん。何かさっきから近くの席で机が揺れるような音がしてる気がして、ついそっちが気になっちゃって聞いてなかった。で、何?」


 確かにそんな音がした気もするけど、別に気にするようなものでもないと思う。もっと激しい音だったら流石の俺も気になってしまうとは思うがね。


「何か、その話聞いたら学校行くの嫌になっちゃったわ」


 少しだけ肩の力が抜けてしまい、先程より真剣味が薄れた言い方をしてしまった。


「ダメダメ! 行けるのに行かないのは、あたしが許さないわよ。そうねぇ、こういうのはどう? 肩身が狭いであろう隼人の為に、あたしが休み時間の度に遊びに行ってあげるわ」


 琴音は一度、机を両手で軽く叩いてからそんな提案をしてきた。


「そこまでしてもらうのは迷惑を掛けると思うんだけど」

「良いじゃん別に、友達でしょ? あたし達」


 琴音は当たり前のようにそう言ってくるが……、


「え、俺と琴音って友達だったっけ?」

「お互いライラちゃん好きなんだし、友達でしょ?」


 やはり琴音もライラちゃん好きだったんだな。これってもう同士、つまり友達じゃん。


 友達が少ない上にこれといって仲の良い友達もいないから、新しい友達ができたという事実は結構嬉しかった。


 しかも、これまでの友達? と違って気も合いそうな気がするし、今の俺の立場上この上なく有難い話だ。


「そういうわけでさ、連絡先交換するわよ」

「ああ、うん。良いけど」


 スマホを取り出し、琴音に渡す。


 おっと、近くの席で今度は何か、握り拳で机を叩いたような音と物が落ちる音がしたぞ?

 危ない人かもしれないし、そうだったら巻き込まれる前に早くこの場を退散した方が良いかもな。


「はい、できたわよ。これ返す」


 琴音からスマホを受け取りポケットに仕舞う。


「んじゃ、さっさとゲーセン行きますか。何か、どっかの席から危険な匂いがプンプンしてきたし」

「ほら、やっぱあんたも気になるんじゃない。まあ、下手に長居して間違って変な事件に巻き込まれたくないし、さっさと行こっか」

「こういう時、そっち見ちゃダメだぞ? あと、声も小さく。これ基本な? マジもんの危険人物だったら変な因縁付けられかねんから」

「あははっ! 分かってるってそれくらい。最初の一回しか見てないから。どこの席か分かんなかったけど」


 ここまで接して思ったのだけど、フレンドリーな上に結構明るい子ではないか。

 それなのに、学校ではいつも一人でいると耳にした事が結構ある。


 明らかに矛盾してる気がするけど、どうして何だろうか。


 そんな疑問を覚えながら、ハンバーガーショップを後にした。

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