138話 球撞に我を失う

 次世代王族様御一行の馬車軍団が到着して30分程したところで、マイヤさんとマゼッパさんがデトレフ殿下とリア殿下、そして複数の近衛兵と側付きのメイドさんを連れてやってきた。


「ウェル君。ちょっとお願いがあってきちゃった。ごめんね?今大丈夫かしら?」


「あっ大丈夫ですよ。いまそちらに行きますね」


 談話室のちょっと奥まった位置にあるビリヤード台で遊んでいたので、入り口に向かいながら返事をする。キューはちゃんとホルダーにかけてっと、たまーに台に立てかけたり置いたりするやついるけど、ギルティなんだなぁ。メイプルは頑丈なようで曲がりやすのだよワトソン君。


 応接用というかリラックス用というか、大きめのソファーへ来客組も僕もたどり着いた所で挨拶をかわす。


「ウェルギリウス君、こんにちは」

「ウェル様、こんにちは」


「デトレフ殿下、並びにリア殿下、ようこそお越しくださいました」


 二人とも綺麗な所作なのだけども、平民に「こんにちは」って頭を下げるものなのかな?なんか中世!貴族!偉い!横暴!みたいなイメージがある僕は違和感があるけど、まあ世界違うし?いいのかな?とか思いつつ挨拶を交わす。

 

 ちなみにリア殿下は、最初デトレフ殿下と同じようにフルネームで君付けだったけど、前回遊びに来た時に距離が縮まったせいもあってウェル呼びだ。様をつけるのは淑女の嗜みって感じ?かな?

 

 全員がソファーに着いたところで、タイミングよく家のメイドさんがお茶を出してくれた、こっちに移動がてら指示出してたのかな?段取り良いね。

 

 デトレフ殿下、リア殿下、マイヤさん、マゼッパさん、僕の順にお茶が置かれて全員が一息入れた所でマイヤさんから、今の訪問についての説明が始まった。

 


「それじゃ、お話しというかお願いになるのですけど始めるわね。お披露目を開催するにあたって、たくさんの事を一気に解決しなきゃいけなくてね。まずは国内の貴族に対しての正式な発表。これは各国の王侯貴族がここに集まるという事で当然ながら中心に居るウェル君の説明は避けられないわ」


 そりゃそうだと思いつつも、ちょっと渋い顔をすると補足するように続けてくれた。貴族にあんまいいイメージないからねえ。顔も渋る。


「うん、教会の事もあったから不安よね?でもわが国の貴族は教会と違って不埒な真似をするような輩は貴族で居られないのよ。領地や領民のことで不正や横暴があったら即貴族籍をはく奪されるわ。それはかなり厳しい刑罰もある上に、はく奪が発生した場合も国民が困らないように常に貴族になれる人材が王宮に控えているわ」


それは初耳。ん?どういうこと?どこ情報?


 んんん?学園に通うかもって時に「リア殿下に近づく下民め」なんて冗談みたい物語のを例えたらデトレフ殿下が聞いたことあるとか言ってたような。んんん?


「そうなんですね。僕のイメージと貴族像が違いました。細かくは不敬になるかもなので、ちょっと言いづらいんですが、圧迫的な押圧的なと表現されるような状況も、貴族と平民の間ではあるのかと思ってました」


「そうねぇ、あくまでも人族に関してはソレは無いわね。神様が居て、人が生きる場として望ましい事をしていると、神様の恩恵があるわ。そして当然その逆もあるの」


 ああ、神がいるってそういう事だよね。良い貴族には祝福と繁栄をアカン貴族には呪詛と衰退をって感じか。呪詛?神罰か......神様ごめんなさい。

 

 じゃあ教会はなんだったんだ?

 ん?王都でマイヤさんの知り合いをエステした時も変な人いなかったし?

 んーーー混乱してきたな。これ信じてよし?そういえば速攻で砂になった? 民に迷惑をかけない範囲で孤児院とかを残して砂になったと聞いたような。

 

「ちょっと混乱してきました。んー貴族ってなんだろうとか大きなテーマになりそうなので一旦、直近の事を考えたいです」


「そっそそうね。......ごめんなさいね。じゃあ話を戻すわね、国内の貴族やその子弟にもウェル君を知って貰うことになるわ、それにあたってデトレフ殿下とリア殿下の立ち合いの元に、この家で顔合わせをして欲しいのよ」


「はい、なるほど。必要な事なんですよね?ちょっと急展開で頭がついて来てませんが、信頼しているマイヤさんとマゼッパさんが必要として要請しているので間違いがないでしょうとして受け止めますね。日程的にも調整効かないでしょうし」


としか答えられないなぁ。うーん、あとでマゼッパさんに教わるか。


まあ、旅に出るって決めたから、アルカディアを世界を知らなきゃいけないよね。さすがに宿屋に引きこもって社会と関わらなかった8歳児には情報がなさすぎる。


「そうしてもらえると助かるわ、詳しいことはマゼッパと、こちらの屋敷側に居るメイド達が取り仕切ってくれるはずよ?」


「はい、お任せください」


 マゼッパさんが立ち上がり頭を下げてから、再度着席した。


「とりあえず、わかりました。よろしくお願いします。それとマゼッパさん、後で手の空いた人が各国の社会制度を教えてくれる時間を作ってくれると助かります。本とかでもいいですけど」


「承りました。そちらは私のほうで手配しておきます」


「とりあえず、これが国内貴族との面通しね。これが前提で、後は国内貴族で数家を来客として屋敷で受け入れて欲しいんだけど、どうかしら?」


「それは、考えるまでも無く良いですよ。各国家と主要貴族ですものね、受け入れ切れないのは理解できます。必要であれば格に応じた建物を建てるまで想定していますので遠慮なく言ってください」


「ふぅー、本当に理解が早くて助かるわ。うん、建物とかは各国の王家分はお願いしちゃうかもしれない、もう少し陛下とも相談してみるわね」


 そこからは、僕の大筋な合意も取れたという事で進捗や懸念を話し合う場となった。各々の懸念や問題に日本語的なジャストアイデアを出したりと雑談をして過ごした。ちなみにだJustIdeaって結構使う人いるけど、英語圏の人が居る時はI just come up with an idea的な言い回しをしねぇと誤解されるぞー。


 場が平たくなり、マイヤさん達も今日の大仕事(ウェル吉の説得も)終わったので、全員がリラックスして談話室で過ごす。

 

 リア殿下とお付きの面々は、数か月前に来たばっかりなので勝手知ったるっという感じで馴染んでくれたが、デトレフ殿下御一行は見たことも無いもので溢れている部屋に興味津々でアチコチを見回している。

 

 リア殿下と以前ここで作った機織りマッスィーンの話をしているとデトレフ殿下から質問があった。どうやら僕が遊んでいた物に興味を持ったらしい。

 

 

 ふふふ、おいでよ球撞きの沼!!

 

 

「この遊技台でいいのか?これは見たことが無いな」


「はい、これはビリヤードという遊技をする設備になります。あちらに見えるキューと言われる木の棒を使って、この丸い玉をポケットといわれる穴に落としていく遊技です」


「ほう、なにやら楽しそうだな」


 そうでしょそうでしょ、ビリヤードは楽しいのだ。仕組みとして覚えることは多いけど型が出来だすと面白いのですよ。そういう意味だと武芸に似てるかもね。

 

 「ちょっと試しにやってみますね」

 

 的球をあつめてカカッとラックを組む、これも隙間なく組まないとね。

 

「このように既定のカタチに配置された球を白い球で落としていくゲームになります」


「ふむ」


 ふと周りを見ると、みんなが興味深い感じでこちらを見ている。見られると興奮しちゃう!ってな訳でハードなブレイクは好きでは無いけど、興奮したので少し強めにブレイクしますか笑。

 

 ヘッドポイント位置にあるレール上のポイントからちょっとだけ強めにブレイクをする、レールブリッジを緩めにして腕の振りと肩の移動と足の踏み込みを同調させて撞点をセンターで撞く。

 

 白い手玉が少しだけラシャから浮きながら真っすぐに走っていく、当然のように厚み(手玉と的球が当たる角度、重なり具合と良いかな)100%でブレなく1番の的球に当たった。ほほほレベェルがちげーよ。

 

 白い手玉は力の行き場を失って真上へ5㎝位飛び上がったと同時にカァアアアアンと高い音がして的球が慣性の奴隷となって走り出す。

 

 うーーん、ハードブレイクは久しぶりだけど、まあまあ良い感じのブレイクじゃなかろうか。ちょっと動きすぎで散った球が戻って来て固まってらぁ。んでブレイクで落ちたのは3と7ね。

 

「今のはゲーム開始のはじめの打ち込みですね。ブレイクショットと言います。これ以降は的球に書かれた若い番号順に穴に落としていく感じですね」


 ウロウロと台周りを歩いてネクストを決める、1にあてて2を落としやすくってね。

 

「次はあの玉を落としますね、そして次の球を落としやすいように少しだけ転がします」


 白い手球のちょっとだけ上をついてフォローボールにする。厚みは右に7割位あるので右斜めにちょっとだけ併走気味に手球が走ってくれるだろう。手玉が近かったのでスタンダードブリッジを組んで、肘を直角にしてゆっくりと振り子のように手球を撞く。

 

 想定通りに球は走って1番がコーナーに落ちて、手玉は押されて併走した後にサイドポケット前にある2番の前に止まった。


「こんな感じで遊ぶゲームです。使う球が丸く軌道が読みづらい上に棒の先端が細くなっているので、少し難しい所もありますが頭の体操には良いゲームです」


「おおー、言った通りに動いたな。すごいな。これは中々奥が深い遊びだな」


 デトレフ殿下が近くに来てキューや球を観察しながら、興味深そうに言う。


「しかし、こんなに丸い玉なんて見たことありませんわ」


 リア殿下は丸いに興味深々だ。


「結構、拘って作っちゃいましたからねぇ」


 などと軽く言っているのだが、実際はむっちゃ無理な製作をしている。これについて振り返ると長いのでデトレフ殿下とお付きの方に遊び方を教えておこう。


「こうか?からだがギシギシ言うな」

「これは結構窮屈ですね」


「毎回撞くたびに手元がブレたり、この棒。キューと言うんですが、その先が同じ所を撞けるように型は大事ですねぇ」


 とりあえず、小難しい事は抜きにして怪我なく遊べるように、基本的なフォームから軽く撞けるようになるまでレクチャーをしておいた。後は好きに遊んでおくんなまし。

 

 レクチャーが終わったところでマイヤさん達が居るソファーに移動して、殿下達がビリヤードに興じているのを見ながら作るまでの経緯を思い出したりマイヤさん達へ語ったりした。

 

 これ一点物だから作るの大変よってけん制もあるけど笑。

 

 昔は日常生活が単調だったので頭を使う事が少なく、ビリヤードみたいに状況が複雑に変化するゲームを好んでいたんだよなぁ。

 

 ゲームがスマホ主流になってからの決まったキャラ、道、アイテム、スキルを使って遊ぶゲームは苦手だった。これが最強ですってのを作ると商売はしやすいだろうけどさぁ、キャラやアイテム入手に時間とお金かかりますにすれば即儲かるしさ。もう遊べないから、旧タイトルを焼き直すことも満足に出来ない会社への愚痴はその辺にしておいて笑。

 

 そんな熱い思いと経緯もあったので、ビリヤード台とキューについては正確な寸法が無いと遊びにならない!って話で、ホウさんに無為筋かな?って感じではあったけど、サイズ一式とこの世界での代替え部品を教えてもらうお願いをした。

 

 ホウさんに対価として、お手製料理とエステのフルコースを望まれたので快く提供したんだけど、そんなんで良ければ感じ。

 

 ってかこっちが、ご褒美もらってる気が......。

 

 そして綺麗な天使にエステって必要あるのかな?謎だ。だが天使だろうが人だろうが乙女心ってのは、神聖で不思議なのが全宇宙と全並行世界と全異世界の常識なので触れないでおこう。

 

 料理については遊び心を入れてパンシチューを作って食べてもらった。これがお礼の食事ですと言いながらもパン一斤だけ?どーんする。

 

 寂し気な絵面からナイフを入れるとアツアツのチキンと野菜のシチューが出て来るっていうアレです。

 

 よーするに、料理は味だけじゃないってコンセプトで作ってみた。

 

「これは楽しくて美味しくて楽しぃわねぇ~」と楽しいを2度言ってもらえたので、ヨシ!それからしばらくの間、リリさんとアミさんがチラチラと「お手伝いしますっ!!」「なんかなーい?」と無言の言で視界にフレームインしてきたのは、また別の機会に笑。

 

 そんなん何もしなくても言ってくれれば、ご飯も作るし肩もみ位はしますぜ天使の姉御ってもんなんだけねぇ。

 

 ポケットビリヤードに関しては、昔かなり好きでやってたので、ちょっとでもサイズが違うと違和感を感じてしまう(馬鹿な日本語愛好家)ので、レールだけを取ってみても、バンクの目算をする為に正確な位置にポイントマークはあって欲しいし、レール上の丸みもレールブリッジを組んだ時に小指球(小指下部から手首まで部位)の安定感が変わったら嫌なのだ。

 

 そんな超細かい拘りのある一品なので、作り込みはバッチリなのである。

 

 ちなみにこれを作る時に、簡単DIYの三種の神器を作っておいた。

 

 水平器

 (木の中に筒状の液体を入れて気泡の位置で横の水平を確認できる)

 

 さげふり

 (糸の先に逆円錐の重りをつけて縦の垂直を確認できる)

 

 差し金

 (目盛りがついた直角の定規で直角を作ったり、目盛りを利用して勾配を作れる)

 

 まあいわゆるブライアンロスで逃避型没頭って感じに作ったってのは否めないけどさ。でも、いいじゃん。ビリヤードしてると気が付くと数時間立ってたりするのはザラだしさ。

 

 そんな天使さんに助力を得て、作った拘りが強い品だってのを思い出しつつ一部を語りつつもマイヤさんとの久しぶりの談話を楽しんだ。

 

 ちょいちょいビリヤード愛で暴走したから話半分だったけど。とりあえず、僕はしばらく屋敷で殿下達と戯れるって事だね。

 

 球撞き楽しいです。カコーン!我見失ってません!カコーン!

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