109話 3人で遊ぼう、その弐
「リア殿下~リア殿下~」
王族にあるまじき顔で呆けてしまっているリア殿下に声をかけて、再起動を促してみる。王女様ってあれだよね、貴族同士の付き合いとかで顔に表情ださないようにみたいな淑女教育をうけたりするんだよね。お口半開きは、ちょーっとまずいと思います。
「はっ、大丈夫です。少し驚いてしまいました」
「ウェル君はすごいことを突然するからびっくりするよねー」
む、僕がちょっと考え無しみたいに言うのはやめてもらいたい。必要な事しかやってないぞ。その手段がちょっとだけ合理的なだけだー。まあとりあえず出来上がったものを渡そう。
「じゃあ、これがリア殿下の分だよ」
僕は自分の分も、ちゃちゃっと作ってソファーに腰掛ける。腰をかけたタイミングでメイドさんがお茶の差し替えを用意してくれた。ジェスチャーで小さくお礼をしておく。
「じゃあ折る込む前に糸はって準備しちゃおー」
「おー」
「ぉおーです」
2人に見えるように機織り機に作ってある高さの違う溝に糸を通す。
「こことここの高さが違う窪みに合せて、交互に糸を張るまでが準備だよ」
「うーんと、こう?」
「こうですね」
「そうそう、1本づつ高さ違うのが並ぶんだよ」
3人で黙々と糸をセットしつづける。ちょっと面白いのがメイドさんも興味あるらしく、扉側に立ちながら結構なガン見でこちらをみている。あとでメイドさん達にも数セット作っておこ。
ウェル君にっこり。メイドさんもにっこり。のオールオッケシステムなのだ。
「できたよー」「出来たましたっ」
「うんうん、それじゃ準備はおわりっ。こっちのシャトルに糸を巻き付けて穴から出してね」
シャトル内に糸巻きを作ってそこから蜘蛛の尻尾のように一本だけニョロニョロと出るか形で作ってあるので内部の糸巻きだ。いーとまきまきの歌を思い出したが歌うと次元を超えて徴収されるから止めておこうと思う。
「でっきたー」「出来ましたわ」
「よし!準備おわりだよ。そしたら、縦の糸の間にさっき作ったシャトルをこうやって通して、真ん中にある棒を手前ひけば、ほら編みこみができたでしょ?これを何回も何回も繰り返すと布が出来るよ」
「わー」「こうですか」
ギーパッタン、ギーパッタン、ギーパタ・・・
2人は黙って機織りに夢中になった。いいよね単純作業って無心になれるよね。君素質あるよ!とか言いたくなる感じだよ。
しばらく3人で無心に布を作っていき、徐々に形になってきた所で近衛兵さんが一人増えて、なにやら話をしていたかと思うと、マイヤさんと王妃様が談話室にやってきた。なるなる警備上の先触れ的な感じかな。
「みんなこっちで遊んでたの・・・ねぇ。ってウェル君?それなーに?」
ちょいピキッとガールのマイヤさんである。こわいこわい。王妃様は興味深そうに見ているね。いいよね謎機械。
「うんとね、これはおもちゃの織機だよ」
「ウェルギリウス君、そのおもちゃは、ちょっと豪華すぎやしないかしら?」
あっやっぱり?カラーリング的に、僕とセレネ姉さんが銀色でリア殿下が金色だ。うん豪華よね。
「うーん、王族専用カラー?」
「カラー?じゃないのよ・・・まったく。それにしても良く出来てるわね、小さいながらもキチンと織機だわね」
そりゃ、考えたからっていうか頭の中に子供の頃の教育雑誌の付録が頭にあった気もするけど、まあいいじゃん。
そこからマイヤさん達も含めて4人で、のんびりお茶をしながら布を作成した。織り込んでる間に糸巻きの色を変えたり、交互に高さのある縦の糸の通し方を変えると模様になることに気付いて、せっせと模様を作ったりして楽しんだ。地味にというかどの局面でもDEX99は強いのです。
そして、大分日も暮れてきたあたりに3人とも織り込みが終わって完成した。
「できたー。これ楽しいね」
「出来ました」
「これで布は出来たから、後は好きな形に切って端っこを刺繍みたいに縫い込んでほつれない様にしたら完成だよ」
メイドさんに持って来てもらった糸に裁縫セットも着いていたので、それを使ってお手本がてらに縫っていく。布の端を縫いに巻き込んで縫うやつ、なんだっけかがり?かがち?縫いとかいうやつだ。四方を縫うので手間がかかるが、これをやらないとどんどんほつれちゃうからね。
「こんな感じだよ」
「ウェル君ってホントに何でもできるのね」
「器用だわねぇ、お嫁に来ないかしら?」
「王妃様、一応男の子デスヨ?」
「うふふふ」
頭を撫でくりされてしまった。溢れる女子力で撫でポされて即落ちまであるね。ないけど!
「こうかなー?出来てる?」
「うん、出来てるよ。姉さんも上手だよね」
「へへへー、簡単な繕いものならお手伝いしてるからねっ」
「こうでしょうか?」
「ですです、そうです。リア殿下もお上手ですね」
「まあ!ありがとうございます。お母さま見てください、上手に出来ました」
「本当ね、良く出来ているわ」
そんな事をいいつつ、王女殿下の頭を撫でる王妃様、こんな当たり前のやり取りも王宮内では難しいのだろう、近衛やメイドの方がほっこりと嬉しそうな顔で見ている。王女殿下が、ただの娘になれる我が家はここですよ。いつでも遊びに来てくださいね。などという宣伝を心でしつつ。平和な母娘の姿を眺めていた。
「で、ウェル君?あれはお渡しするのよね?」
「そうですね、せっかくの王族専用カラーですし。えへへ」
「形が変われば献上品って位の物なのをわかってるのかしら・・・」
そういう形式ばった話は、わが家では無効です。そうそう専用カラーとか言ってたら百式とか隅っこに刻んでおきたくなったから後で刻んでおこーっと。
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