83話 ただの根回し、だけど大事

 朝早くから騒々しいのに巻き込まれてしまったので、日課の鍛錬の時間が遅れてしまった。

 

 少し荒れていた気持ちは、毎日のルーティンで溶かしてしまおう。

 

 なんだっけ代替行為だっけか?

 

 もやもやした気分は手を洗ったり、掃除したりするとスッキリするやつ。それが癖になった人が潔癖症になるとかならないとか・・・まあ関係無いけど。

 

 昼までの時間をみっちり鍛錬に充てていると、宿へ昼食に来た人だろうか見知らぬ人が数人、宿の側道から庭先に入って来て見ている。

 

 知らない人に見られながら鍛錬するのも落ち着かないので、途中で切り上げる事にした。

 

 うーん宿が流行るのはいいのだけど、無遠慮に家の敷地に入ってくる人が出てくるのはちょっと困るな。

 

 こういうのは早めに、父さんと母さんに相談した方がいいだろう。

 

 ちょっと考えれば、入っちゃダメってわかるだろうに・・・。

 

 直接声をかけると問題が起きそうなので、声をかけずに宿に向かい父さんと母さんに現状を伝える事にした。声をかけるにしても僕からより父さん母さんからの方がいいだろうしね。

 

 宿に入ると、受付で少し手持無沙汰にしている母さんを見つけたので声をかけることにした。

 

 最近はほとんどの業務をセレネ姉さんが出来るようになったらしく、母さんは食事時以外は結構自由にしているって、王都から帰って来たあたりで教えてもらってたな。

 

 「かあさーん、ちょっといーい?」

 

 さっき揉め事を聞かせてしまったので、すこし気の抜けた声を出して緊張感を和らげつつ、声をかけた。

 

 「あら?ウェル君、なになにどしたの?」

 

 「ん、さっきまで庭で午前中の鍛錬してたんだけどね。庭先に知らない人が入って来ててさ、どうもお昼を食べに来た人だと思うんだけど、ちょっと気になってね」

 

 「えっ?庭に入って来ちゃったの?」

 

 「そうだね、庭に入って来て井戸の側まで来て鍛錬してる僕を眺めてた」

 

 「今はどうしてるの?」

 

 「僕が切り上げてきたから、移動しはじめると思うけど。まだ居ると思うよ?」

 

 「ちょっと行ってくるわね」

 

 「はーい、色々と見せたくないものあるからお願いしますー」

 

 わかってると思うけど、念押ししておこ。

 

 「そうよね、ってお客さん増えるのも考え物ねぇ・・・」

 

 母さんは、そのまま井戸がある側の側道に歩いていった。まあこれで今回来た人は来なくなるでしょう。

 

 後はお任せするのだ、僕の経験だと訳わかんない行動する人は常識や理屈で話をしても通じない。

 

 そういう人は何を言われたか?じゃなくて誰に言われたかが大事なのだ。


 よって宿の女将さんに入らないでと言われたってのが大事なのでーす。馬鹿臭いけど、これ大事なのだ。

 

 さて手前の問題も解決したし、今朝方の問題も解決というか安全策だけ取っておきますかね。ギルドに向かってベルナウアーさんに事の次第を伝えておくだけでも大きく変わると思うのでね。

 

 朝なので虫取りで燻される事も無く、ギルドの中に入っていくと丁度目の前をベルナウアーさんが歩いていたので、スススッと近寄って話しかけた。

 

 「ベルナウアーさんおはようございます」

 

 「あっウェルギリウス君、おはようございます。今日はどうされましたか?」

 

 まるで病院の受付のような事な、丁寧な挨拶と切り返しありがとうございます。とか例によってどうでもいい事を考えながら話し出す。

 

 「昨日の怪我の方なんですけど・・・ちょっと事情が変わったので一応報告に来ました」

 

 「ええ、マークさんですね。どうかされたんですか?」

 

 「今朝がたに、マークさんの婚約者と名乗る女性とエルフの方が宿に来まして」

 

 「ええ」

 

 「怪我につけこんで詐欺をしやがってとのことで激高されてまして」

 

 「ええ、ってえぇえーー」

 

 流れで頷いてからの、海鮮一族の婿養子張りのえぇえーー↑、いただきました。ありがとうございます。

 

 「なかなか華麗に暴言を吐き続けるので、回復したのを元に戻しちゃいましたので報告に来ました」


 「そっそうですか・・・戻しましたか」

 

 「議事もしっかりとってもらったし大丈夫かな?って簡単に考えてました。

・・・ギルド通さないでって話をしたのに、すみません。もしかしたら何かあるかもしれません」

 

 まあ、なにも無い事を祈るけど。だまって治療する場所?病院?教会にでも行けばいいと思うけど、そんな事はないわなぁ。

 

 「それで、その後は何もありませんか?」

 

 「ええ、今の所ありません。婚約者の方が言うには怪我した人は家で療養してるらしいですから、そのまま怪我が復元されて痛いだろうなって感じですね」

 

 「まっまあ、そうですよね・・・痛いですよね」

 

 ギルド側も何も出来ないし、何もする必要はない。これは報告だけだよって感じで終わりにしますかね。別段ベルナウアーさん悪い訳じゃないしね。

 

 「一応、今回の顛末を関係者に報告って感じなので何かをしてくださいってわけじゃないので」

 

 「ええ、ええ、わかりました」

 

 「それじゃ、報告おわったので帰りますね」

 

 「はい、連絡ありがとうございました」

 

 おーかしこい、報告から連絡に差し替えた。そうそうギルドは無関係だもんね。

 

 「そでした、連絡でしたね。言葉を間違えました」

 

 ベルナウアーさんとのやりとりを終えてギルドから出ようとしたら、ギルドに居た冒険者の人達が数人声をかけてくれた。

 

 「話の経緯は聞いてたぞ、おめーが正しいから気にすんなよ」

 「ウェルさんを詐欺扱いですか・・・」

 「俺らも仲間内で話し通しておくからなマークがウェルに不義理をして回復戻されたって」

 

 緊急の事態で注目を浴びていた件だったこともあって、事の経緯をみんな知っていたみたいで、今回のギルドへのレンラクは聞き耳を立てて聞く話だったらしい。

 

 「みなさん、ありがとございます。魔物も対人も下手打った怪我は自己責任ってことで!」

 

 なんて、馬鹿を言ってみんなに笑われながらギルドを後にした。

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