81話 ナウいヤングにバカ受けの宿

 採取や討伐依頼は受けなかったけど、たぶんきっと金銭的にはプラスになったであろう事をしてきたのでそれでいいやと開き直って宿にもどってきたのだが、宿は宿で騒々しい。

 

 普段は宿に泊っているお客さんとその仲間に食事を出す程度だったんだけど、料理本を手に入れてから父さんが色々な料理を作り始めだしたら、泊まり以外の人も増えてたんだよねぇ。

 

 今日の混雑は、きっと料理の噂が街にまわりきったんだろう。

 

 昼を少し過ぎた位の時間にも関わらず、宿の前に列が出来てしまっている。

 

 元々、宿屋なのでフリースペースにあるテーブルも少ないし、調理場もそんなに広くないからさばけないよねぇ。

 

 まあ、父さんと母さんの事だし何らかの対策は考えるでしょう。

 

 普段は手伝いを断られるけど、今日は人手が居るだろうからお手伝いすることにしますか。

 

 宿に入り、忙しそうに配膳をしてる母さんに声をかけた。

 

 「母さん、ただいま。すごいお客さんだね、食事待ちだよね?手伝うよ」

 

 「あら、ウェル君おかえりー。そうね、今日はお手伝いしてもらってもいい?」

 

 「はーい、どうしよ?料理作る方に回る?配膳に回る?」

 

 「んー、ウェル君は作ってる料理知ってるのよね?」

 

 「うん、わかるよ」

 

 そりゃねぇ。この匂いは、確実にカレーだもん。

 

 わかるわかる、客が寄って来ちゃうのも分かる。

 

 「じゃあ、バックス君のお手伝いお願いしていい?」

 

 「りょーかーい、着替えて綺麗にして戻ってくるね」

 

 一度、宿から出て家に戻って着替えと清浄を済ませて戻って来た。こんな事もあろうかと父さんとお揃いのコック服をつくっていたんですねぇ。

 

 「父さーん、臨時のお手伝いに来ました」

 

 「ん、ウェルかすまんな。服も用意してあるのか」

 

 「へへへ、こんな事もあろうかと!家族全員分、作ってあります。さすがに今の背丈のサイズだけだけどね」

 

 「すまんな、今日は昼にカレーとハンバーグを出したんだが、予想以上に人が来てしまってな。追加で作り続けている所だ」

 

 大きな火にかかっている鍋をみると、確かにカレーを作成してる。

 

 外の列を考えると、全然足りないだろうな。

 

 「父さん、宿の外にも列が出来てたから、カレーがもっと居ると思うよ」

 

 カレーはおかわりするものだしね。

 

 「そうか、じゃあウェルはカレーの具材を頼んでいいか?」

 

 「はーい、野菜とお肉を切って炒めた後に下茹でしておくね。味付けはお願いします」

 

 「ん、頼んだ」

 

 それから、父さんと一緒に延々とカレーを作り続けた。

 

 途中で食材が無くなって終了にしようとしたのだが、待っているお客さんが可哀そうなので買い出しに走って提供を続けたりしたけど、なんとか乗り切った。

 

 「ウェル、すまんな助かった」

 

 「ううん、僕のせいでもあるしね」

 

 「ウェル君ありがとー、お茶出すから休憩にしよ」

 

 「はーい」

 

 フリースペースへ移動して、しばし寛いで居ると母さんがお茶を持ってやってきた。

 

 「おつかれさまー、熱いから気を付けてね」

 

 「はーい、ありがとう」

 

 にしても、すごい列だった。異世界人も行列つくるのなぁ、あれは日本のお家芸かと思ってたわ。

 

 「すごい人だったね、最近はこういうこと多いの?」

 

 僕が王都へ行ってる間や工人ギルドとワチャワチャしてる間に変わったんだろうか。

 

 「うーん、ウェル君が王都に行く前にカレーを作ったでしょ?あれからジワジワと増えてるのよね」


 「そうなんだ、うちは宿屋だからテーブルもたくさん用意してないし厳しいよね」

 

 「そうなのよねー、いっその事お料理屋さんにしちゃおうかしら」

 

 あはは、コヤツめ。とか思ったけど、母さんならやりかねない。

 

 「定宿にしてる人が困るから、やめようね?笑」

 

 料理の本も父さんに渡しちゃったしね、料理屋ってのも無い選択じゃないだろうけどね。

 

 ちなみに父さんは、夜な夜な新作に手を出してて朝から揚げ物とかが出てくるんだよねぇ。

 

 「ふふふ、そうよねー。でもテーブルは増やさないと駄目かしらね」

 

 まあ現実的にできる事ってそうなるよね、そうすると天使さんズの像を移動も考えておいた方がいいなぁ。

 

 「そうすると、ちょっと手狭だね。天使さんズの像を動かす?」

 

 「そうねー、出入りする人が増えて来ると何があるか分からないってのもあるわよね」


 どっかに移動しちゃうってのも手かなぁって思うんだけど、移動先が無いよねぇ、専用の社でも作る?教会に持ってく?領主邸に持ってく?

 

 ・・・うーんしっくり来ないね、どれも問題がありそうだ。

 

 慌てて考えてもいい案が出てこないだろうし、とりあえずは移動の必要あるかもって覚えておこう。


 「ちょっと考えておくよ、そもそも僕の為にあるものだしね」

 

 まあ、邪魔だって訳じゃないし。ゆるゆると対策を考えておきましょう。

 

 そんなこんなとゆるい雰囲気で雑多に話し込んだので、ついでにギルドでの話もしておこう。

 

 明日には、きっと訪問に来るだろうしね。

 

 とりあえず、母さんにギルドで遭った顛末を話して、ここに支払いか支払い相談に来る事を了承してもらった。

 

 「あんまり無茶の無いようにしてあげてね」とは、母さんの談だ。

 

 勿論、そのつもりで居るんだけどね。話の経緯もギルド職員のベルナウアーさんが知ってるし、面倒にはならないでしょう(フラグ)。

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