80話 こういう茶番は意外と大事

 王都から帰宅して、早一週間になるけど、まだまだ僕の周りは騒がしい。

 

 お土産よりも冊子類のインパクトがすごかった。

 

 ロトルさんにアクセ類のサンプルとデザイン集を渡したら、「ウェル君好き愛してる。結婚する、いや養子にする」とか言い出して母さんと義姉妹バトルをホワチャーし始めた。

 

 呆れつつも父さんに仲裁してもらったり・・・。

 

 ヴァルカンさんに生活道具本を見せて一部試作をお願いしたら、試作中に偶然訪れた工人ギルドのギルド長のおじいさんに見つかってしまった。

 

 是非ギルドに写本させてくれとお願いされたり・・・。

 

 と対外的にすごく忙しかった。


 ロトルさんは、まあいいとしても。

 

 工人ギルドに対しては、便利さによって人の仕事が奪われることや、環境を破壊する事が発生しうる道具もあるので、国王や領主への相談が必要になる事を理解してもらって、徐々に開発として行きたいとだけ伝えておいた。

 

 まあ、個人的に使う分にはいいと思うんだけどねぇ・・・・。

 

 手押しの一輪車や、高機能な滑車があったら荷運びの仕事が無くなるとかさ、困る人が出るのは本意じゃないもんね。

 

 そんなこんなで、約一週間程バタバタとしていたので、一人になりたくて、息抜きがてら採取や討伐の依頼探しとお土産?を渡しに冒険者ギルドへと足を向ける事にした。

 

 冒険者ギルドの前に着くと、少し血の匂いがする。

 

 だれかの怪我か?血の跡を見ると、門の方から続いているようだ。

 

 怒声と悲痛の声も聴こえて来たので、警戒しながらギルドの中に入ると、見知った顔の冒険者が血まみれでタンカのようなものに載せられている最中だった。

 

 ああ、名前忘れたけど試験の時の人だ。右肩から先が無くなってる。

 

 鎧もベッコリと肩から体に食い込んでる、どんだけ無防備な姿勢で叩かれたんだ。

 

 っていうかゴメン、鉄製の鎧を魔物戦で使う意味がわからん。

 

 こうなる決まってんじゃん、可動部分は革系一択ですよ。

 

 布で止血はされているが、結構な出血だったのだろう顔色は白い。

 

 これから教会にでも行くのだろう、まだ命に関わるレベルでは無いだろうが痛ましいな。

 

 ギルド内は騒然としている、弓エルフが「私をかばって」とか言ってる。なるほどなぁ、そりゃエグい当たり方もするか。

 

 まあ性根が腐ってるっぽいから、こんな風にもなるよね。心技体のどれも雑魚だから淘汰されて当然ってことだ。

 

 さて、ベルナウアーさんにお土産でもと思ったんだけど、こりゃそんな雰囲気じゃないね。

 

 ってそのベルナウアーさんがこちらに走って来た。あれよね。なんとかして!だよね。

 

 「ウェルギリウスさん!!戻ってらしたんですね!」

 

 「はい、先週くらいに戻って来てましたよ。ご当地品ではありませんけどお土産ありますよ」

 

 「あっありがとうございます・・・それで、その」

 

 言いづらそうだ、そりゃね。形式上和解したとは言え、雑魚の癖に舐めプして来た人相手だもんね。

 

 「あっ回復ですか?いいですよ」

 

 「あれ?ありがとうございます」

 

 後々、面倒にならないように小声で相談をしておく。後、露骨にあれ?とか言わない笑。

 

 「完全回復も出来ますが、それなら相応の代金と口止めをお願いします。そうじゃない回復なら今すぐしちゃいます」

 

 「PTの人に聞いてきます!」

 

 ベルナウアーさんはエルフの人に駆け寄ってゴニョゴニョしている。まあ完全回復したいよねぇ、でもこれだけの人が見ちゃったからねぇ。

 

 ああ、秘薬ってことにでもしておきますかね。THE適当。尊敬する人は高田J。J高田にすると、あっという間に通販の感じが出るけど、早朝バズーカの方。

 

 ベルナウアーさんが戻って来て希望する処置を伝えて来た。

 

 「完全回復でお願いしますとのことです。会議室に移動しますのでお願いできますか?」

 

 「はい、いいですよ」

 

 まっそうだよね。聞くまでも無いんだろうけど、一応ね手順踏んでギルドの仲介いれないとゴネたりしそうだもんね。

 

 その後、ギルドからの立ち合いとしてベルナウアーさんに見てもらいつつ回復処理を行った。

 

 いつみても回復のLv5の小さな天使はかわいい、一生懸命に祈ってる姿が神々しいよね。

 

 無くなった筈の腕も戻って元気になった冒険者には、失血した分は取り戻せないので血肉になる食事をしばらく心がけてくださいと医者っぽい風味の事を伝えておいた。

 

 実際どうなんだろうね、回復とか超常だし無くなった血肉が再生するから血も謎パワーで戻ってる気がするけどね。

 

 「ありがとうございまず・・・」

 

 エルフの人からお礼を言われた。まあ僕は結構陰湿なので、塩対応で確定である。

 

 「いえいえ、ちなみにベルナウアーさんと同意した通りにお願いしますね。回復魔法では無く、薬を使って同じ事は出来無いという事で周りに話してもらっていいですか?」

 

 「はい、それはもちろん。それで代金ですがどうしたらいいででしょうか?」

 

 適正価格がわからないねぇ。ベルナウアーさんどうなんでしょう?って意味で目線を投げる。

 

 「緊急事態でしたので、価格の取り決めはしておりませんでしたが、回復Lv4以降の魔法による欠損回復は王都でも行えるものがおりませんので、回復薬の価格が適切かと思います」

 

 「ちなみにその欠損回復の薬っておいくらくらいですか?」

 

 なんかヤバい気がするなぁ。

 

 「オークションにて120黒貨~150黒貨にて取引されています」

 

 えーっと、黒貨が100万だっけ?それが120?百万、一千万、一億ってことかぁ。まあ今回止血だけなら回復Lv3で足りたけどねぇ。ぜったい払えないよねこれ、お貴族様とかじゃない限り。

 

 「えっ・・・」

 

 「んっんうぅ」

 

 あっ怪我した人がタンカから起きたね、まあ状況説明を任せますか。

 

 「あっ起きましたね、聞こえてたと思いますが、状況の再説明とご相談をお願いしますね」

 

 エルフの人が怪我した人に説明してる間にベルナウアーさんと雑談をして待つことにした。

 

 「ちなみに先ほどの魔法はもしかしてLv5ですか?」

 

 「はい、そうですよ。ベルナウアーさんも内緒にしてくださいね。教会の真似事や病人が毎日訪れてて来て何も出来なくなるのは嫌なので」

 

 「・・・そうですよね、そうなりますよね」

 

 「難しい問題だと僕も思います。でも、すべての人を救うなんて出来ませんからね。救われたい人に殺されてしまうという話になってしまいそうです」

 

 「ウェルギリウスさんは、深く考えていたのですね。そうですね、きっと多くの人が来てしまいますね」

 

 ここらで理解しておいてもらわないと、ギルドで怪我人が出る度に呼び出されちゃう。うちの宿が24h365日の駆け込み病院扱いになっちゃうからね。

 

 「ギルドで怪我人が出る度に、ギルド職員が宿に走るなんて笑えないですよね」

 

 チクチク。この人はいい人だから、無自覚にやりそうなので、ごっすん釘だけさしておこ。

 

 ん?状況説明と相談が終わったかな?

 

 「おうっ、あん時の・・・か。今回は本当にありがとう」

 「ありがとうございます」

 

 「いえいえ、偶然ギルドに用事があっただけですので気になさらずに」

 

 「それで代金なんだが、・・・正直すぐに払えそうにない」

 

 でーすーよねー。これどうしたもんでしょか。

 

 「ベルナウアーさん、ちなみにこういう場合って一般的にはどうなるんです?出来るだけ事を荒立たせない方法が良いんですけど」

 

 秘技、あんた仲介したやろ。責任の一端あるんやでー作戦。

 

 「そうですね。個人間で調整がつかない場合は、商業ギルドを介して貸付契約をしたり、冒険ギルドが建て替えた後に回収する方法とかがありますね。ただし今回は金額が大きいので商業ギルドでも冒険者ギルドでも仲介の手数料が大きくなってしまいます」

 

 まあ、そうだよね。冒険者ギルドは建て替えて回収出来なければただの負債だし、商業ギルドは仲介手数料だけで3割とかなんでしょうね。数字だけのお金に数字がくっついて来て地獄みるやつですね。

 

 「うーん、僕としては事前に確認があったと思いますが、完全回復と欠損残した回復を選んでもらっているので、ある程度は払ってもらいたいですけどね、まあ冒険者ギルドに居た目撃者が納得できる結末を用意してもらえれば、お金は身を滅ぼさない範囲で払ってくれればと思いますよ」

 

 「ってことは150黒貨を必ず払えって事では無いって事でいいか?」

 

 「はいっ、もちろん払えるなら払ってくれた方が自然な話だとは思いますが、後これは言いたくないんですが案として聞いてください。腕の無い状態に戻す事も出来ます」

 

 「それは、時魔法ですか?」

 

 ででででんせつの!!時魔法だ早い男もこれで解決だね!

 

 「たぶん、そんな名前の魔法だと思います。早急に答えが出ない様でしたら十分検討してくださって結構ですよ。街から逃げちゃうってのも手です。あははは」

 

 「そっそうか、とりあえず明日まで時間をくれ。いやくださいお願いします」

 

 「はい、わかりました。とりあえずギルド内で心配してた人に顔でも出して来たらどうです?あっエルフの方だけ少しお話しあります」

 

 「あっはい」

 

 エルフさんには厳しいけど、混乱してる中とは言え選んでもらったので、上位で良いと言った理由を聞きたかったのです。

 

 「わざわざ、すみません。一応ベルナウアーさんとお話しをして上位の回復を選んだって事で良かったんですよね?」

 

 「そっそうです」

 

 「では、その費用についてある程度算段はついていたと理解してしまいますが、実際どうです?」

 

 ・・・あー、このやりとりメンドクサイ。

 

 ぶっちゃけ自分の所為で怪我したから元通りになってほしいの!と非現実的な希望を出しただけなんでしょうに。

 

 「それは、算段がついてませんでした」

 

 でーすよーねー。そうやって冷静さを欠くから怪我も事故もおきるんだよって話し。

 

 まあ説教する間柄じゃないし、表向きは秘薬で治した。費用は別途支払い続けるで良いかな?で後は誠意だね。別に破滅を願ってるわけじゃない、ただで治したという風評がこわいのが一番だ。

 

 「じゃあ、今回は商業も冒険もギルド入れないで話しをすすめますか。余計な場所に借金増やしたくないですよね?」

 

 「・・・はい」

 

 「まず、対外的には僕が実家の秘薬を使ったという事にしてください。幸い僕の両親は元冒険者なので秘蔵のアイテムは1個くらいあっても・・・まあ大丈夫でしょう。母さん幸運ですし」

 

 「・・はい」

 

 「次に、費用に関しては本当に払ってください。ただし先ほども言ったように破滅しない。身持ちを崩さない範囲でお願いします。借金返済で粗末な武器を使って死地に赴くのはおかしな話です」

 

 「最後に具体的な金額ですが、お二方決めて来た金額を明日僕に教えてください。ぼくの家はベルナウアーさんが教えてくれると思います」

 

 こんな感じでどうかな?かなり現実的な話だと思うんだけど・・・。

 

 「第三者のベルナウアーさんから見てどうですか?この話は公平ですか?相手が財布を見せない以上はこれくらいが現実的かな?って思ったんですけど」

 

 「はい、公平というかヴェルギリウス君が損をする提案をしているように見えますね」

 

 「まあ、そうですね。怪我のお見舞い?みたいな気持ちもありますしね」

 

 「とりあえず、先ほどヴェルギリウス君が提案してくれたことを紙にまとめておきましたので、マークさんとレジーナさんで早朝までに話合ってもらえますか?」

 

 「はい、今回はありがとうございまじだ・・・グ・・ズッ」

 

 あらら、泣いちゃった。まあ安心したのもあるんでしょうね。ごめんそれなりの美形エルフさんなんだろうけど、ちょっと性別もわかんないし。親しい人じゃないし泣いてるとウザイw

 

 「とりあえず、ここはいったん終わりなのでメンバーさんの方へ行ってもいいですよ」

 

 ふぅ、とりあえず。なんだか開幕から、巻き込まれた。

 

 「そうそう、今日ギルドに来たのはベルナウアーさんに用事があったんですよ」

 

 「わたしですか?」

 

 「はい、王都に行く旅程で色々な小物を作ったので宣伝がてらに何個か付けてもらいたいなって」

 

 アイテムボックスから[太陽、月、星、木、ハート、犬、猫、鳥、羽、蝶、鍵、マヤの飛行機、遮光式土器、目の付いたピラミッド、モアイ、魂の宝石的な奴、入れ子になってる宝箱] をサンプルとして一つづつ出してみた。

 

 「これは銀?かわいいですね。そしてたくさんありますね・・・作られたのですか?」

 

 「はい、錬金スキルを取りましたのでお試しで作ったアクセサリーです。今後ロトルさんのお店で売り出すかもしれないです」

 

 「こちらを頂いても?」

 

 「はい、お好きな物があれば3つくらいを選んでください」

 

 ・・・それから30分程、悩んでベルナウアーさんは鳥、月、ソウルじゃなくて魂の宝石を選んだ。穢れが溜まらないように管理してくださいね。

 

 よし、とりあえずわけわからん騒動に巻き込まれたけど、ギルドでの任務完了!

 

 一旦お家にかえろう。

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