79話 岡恵理さん事務職パート主婦

 ただいまって言ったらお帰りって言ってくれる。

 

 そんな当たり前と思っていた環境がありがたいなっと。

 

 帰るって思ってから家に着くまでが長い!前世なら海外に行けちゃうくらいの旅程になってるわけで家が恋しいどす。

 

 というわけで、王都から帰って来ました。

 

 今回の旅は、海の幸を仕入れたり、殺されかけたり、王族と揉めたりと。まあ想像していた通りの展開と言えば展開でしたが、無事に帰って来ましたよ。

 

 ん?帰りの旅?行きと同じで大きなイベントも無く平和なものでしたよっと。

 

 多少の魔物は出たけど、マイヤさんが王都でドン引きしたチリソースたっぷりのダーツの威力を見たいと言ったので投げてみたりしました。

 

 投擲で魔物を倒してみると、チリが塗ってあったせいで、死の間際も魔物が暴れるという面倒な事になった。まあ良いテスト結果だと思おう。

 

 死に間際に暴れるのは力加減とか無いだろうから、ちょっとだけ後処理が面倒になるのなウェル覚えた。

 

 今後はチリバーサクと名付けて使い所を選ぼう、たぶんこれは知性が高い魔物と戦う時に序盤とかで使うべき武器だね。

 

 牽制と部位停止用だ。それ以外に使ったら予期せぬクリティカルくらいそうだ。

 

 なんて、大した事も起きなかった道程を軽く振り返ってる間に、馬車は街の門を超えて宿屋まで到着していた。

 

 余談だけど馬車内に居るメイドさんは、ブライアン担当として王都の屋敷から馬車に乗って来ちゃった。

 

 魅惑の毛並みの効果なのか・・・いつでも会えるわけじゃないと思うんだけどなぁ。

 

 メイドさん配置換えをマイヤさんに嘆願したとか言ってたしな。

 

 おのれ猫充め、まあ可愛がってくれるなら全然問題ないんだけどね。

 

 さて、着いた。ひっさびさの我が宿屋だ「宿屋よ!私は帰って来た!!」とか心で呟きながら、馬車を降りて宿に向かうと、宿の前で姉さんがレレレの人な感じで掃き掃除をしていた。

 

 ちなみにどうでもいいけど、姉さんが使ってる箒もウェル作でありんす。

 

 棒に細かい枝をうまい具合に巻き付けただけだけどね。

 

 「姉さん!ただいまー」

 

 「あっウェル君だー、おかえり!!」

 

 宿屋の前で掃き掃除をしていたセレネ姉さんは、箒を宿の壁に立てかけて、僕に駆け寄って体を隈なくチェックする。

 

 「問題なーし!お母さん達に伝えて来るね!!」

 

 ついでに僕に抱っこされているブライアンをひと撫でして、宿屋に入っていった。

 

 心配しててくれれたのかな?元気に帰って来ましたよっと。

 

 マイヤさんとティアンヌさん、そして護衛の騎士がこちらにやって来た。

 

 ・・・そか、まあ挨拶するよね。 8歳児を預かって王都まで貴族サイドの都合半分で連れ回したって言えば、まあそうとも取れるもんな。

 

 ちなみに物事は相手の立場に立って、想像できる一番最悪な捉え方をされた場合を想定しておけって、昔お世話になった京都方面の大学を出ている信じられない位に賢い先輩が言ってたわ。

 

 「ウェル君、お疲れさまでした」

 

 「マイヤさんこそお疲れさまでした」

 

 「こちら返すわね、ちなみにこれってどうするの?」

 

 マイヤさんに内容を確認してもらっていた生活道具本を返して貰いつつ、どうするかを聞かれちゃったんだけど、・・・まあ考えてないんだよね。勢いで書いちゃったとこもあるしさ。

 

 「正直な所、深くは考えて無いです。自分の身の周りの物を便利にして行きたいな程度ですね」

 

 「そうなのね、なにか便利な物があったら教えてもらってもいいかしら?」

 

 まあ、閉じた環境で使ってもらう分にはいいよね、意図だけわかって貰えばいいや。

 

 「はい、街の特産にしたりとか大々的に製造しなければ大丈夫ですよ。作る物によっては一気に工業が発展する事もありますので、注意したいなぁとは思ってます」

 

 「わかったわ。そうなのね、便利なだけじゃ無いこともあるわよね」

 

 「そうですね、意外な物が物騒な物になったりしますからね」

 

 生活道具についてまとめた本を返してもらいつつ雑談をしていたら、父さんと母さんが宿から出て来た。

 

 「領主様、この度送迎までしていただいてありがとうございます」

 

 「領主様、ありがとうございます。ウェルはご迷惑をかけませんでしたか?」

 

 「はい、大丈夫でしたよ。それと行きのお食事ありがとうございました」

 

 「いえ、お口にあったなら良かったです」

 

 うーん、饒舌で丁寧な父さんに違和感があるな、とか言ったら怒られそうだから言わない。僕は迷惑なぞかけてないぞ!多分・・・。

 

 「領主様、どうします?少し休まれていきますか?」

 

 「うふふ、ウェル君をいっぱいお借りしちゃったし。今日は帰るわ」

 

 「はい、わかりました。今回はお世話になりました」

 

 父さんと母さんが挨拶をしてる間に、僕とブライアンは馬車の近くに降りていた今回の王都ツアーでお世話になった皆さんへ挨拶をしてまわった。

 

 ブライアン、必ずひと撫でされるのね、何人かのメイドさんとまた遊ぶ約束をしてるみたい。かわいがってもらってるようでなにより。

 

 くやしくなどないぞ!メイドさんは、僕にだってオムレツにハート書いてくれてラブズッキュンしてくれるんや。・・・お金払えばね、うんウェルは負けた。

 

 「さて、そろそろ行きますね。ウェル君またね」

 

 「はい、マイヤさん。今回は色々ありがとうございました!」

 

 「はい、こちらこそありがとうね」

 

 マイヤさん達が馬車に乗り込み、お貴族様ご一行は領主邸へと向かって走っていった。ガタンゴトンオトンオカンオニンネン。

 

 マイヤさん一行を見送った後、父さん達と一緒に宿屋に戻ることにした。たった一月程度なのに、やっぱここが家だなと思う安心するね。

 

 「さっ、あらためてウェル君おかえり」

 「ん、おかえり」

 

 「父さん、母さんただいま」

 

 3人でフリースペースでお茶をしながら、旅の間にあったことなどを話すことにした。

 

 「・・・ってわけで、王様達とは仲良くなってきたよ」

 

 「すごいわね、私はお顔を拝見した事も無いわよ」

 

 「ウェル、失礼はなかったか?」

 

 「大丈夫だよ、ちゃんと友好の品も渡したしね。あっそうだお土産!姉さんを呼んでもいい?」

 

 「いいわよっ、セレちゃーん」

 「はーい、なーに?お母さん」

 

 セレネ姉さんは、こういう話合いの時は席を外して宿の仕事をしてくれている事が多い。もうほとんど任せられるんだろうな。セレネは儂が育てた!

 

 「姉さん、お土産買ってきたよ」

 

 アイテムボックスから仕立ててもらった服を一式出して、テーブルの上に置いた。

 

 「ありがとうウェル君」

 「新しいお洋服?」

 「ん、俺にもか」

 

 「うん、お仕事で着る用に僕がデザインして、王都の仕立て屋さんに作って貰ってきたよ」

 

 3人は服を広げて、形や手触りを確認している。母さんとセレネ姉さんの分は、どことなく見た事があるかもしれないけど、父さんの奴は着てる人を見たことが無い。

 

 「お母さん、これ着て来ていーい?」

 

 「いいわよ、バックス君も一緒に着てみましょう?」

 

 「ん、わかった」

 

 ・・・しばらくして、3人が着替えて戻って来た。

 

 おおっ父さんが一流シェフみたいでかっこいい、まあ実際に腕前は一流だと思うけど。

 

 「父さんの服は料理人用の服で、汚れたらすぐ分かる色と分かりづらい色の2種類を用意したよ」

 

 「ん、どうしてだ?」

 

 「生ものを扱う時とか、汚れが分かった方がいいでしょ。そのままで居るとお腹いたくなるし」

 

 「なるほどな、たしかにそうだな。ウェルありがとうな」

 

 母さんとセレネ姉さんは2人とも青髪だからアンデスっぽい原色の刺繍が良く似合っている。

 

 母さんにいたっては小悪魔的な魅力が増加した。この人、本当に魅力に10才を超える子供持ちなのかな?笑セレネ姉さんは、うんかわいい。しばらくぶりのセレかわ。

 

 「ウェル君私たちのは?」

 

 「基本的には給仕や宿屋の通常業務を意識してデザインしたよ。スカートの裾もそんなに広がって無いから歩いても、なんなら少しくらい走っても平気だと思うよ」

 

 母さんが謎の速度で移動した。いや、少しくらいだって・・・・まあいいけど。

 

 なにげに母さんってAGI高いよね、壁のように大きな戦士と小さくて早い遊撃かぁ、なにげに強そうなパーティ構成だね。

 

 「結構、派手に動いても平気みたいね」

 

 「うん、そこらへんは王都の仕立て屋さんの腕だよね」

 

 「ウェル君、私の分が沢山あるんだけどー」

 

 「うん、姉さんはこれから大きくなるでしょ?同じデザインでこっちで作ってもいいんだろうけど、せっかくだから同じ仕立て屋さんでって思って。大分先の分まで作っちゃった」

 

 「そっかー、ウェル君ありがとうね」

 

 「にゃーー(ウェルそろそろ街へ挨拶してくるにゃ)」

 

 「「ブライアンがしゃべった?!!!」」

 「ん!」

 

 「にゃー(ウェルに話してもらえるようにしてもらったにゃ)」

 

 「そっそうなのね・・・」

 

 母さんが、少しゆっくり目にこちらを見た。ほほーこれが漫画的なギ・ギギ見ですか。

 

 「そうだよ、王都で安全に魔法使えるようになったから、ブライアンと話せるようにしちゃった」

 

 「んんっ、そうか・・・すごいな」

 

 「やったー!ウェル君だけ話せてて、いいなーって思ってたんだよ」

 

 「にゃー(セレネとも話せるにゃ)」

 

 「ほんとだーわかるわかる」

 

 セレネ姉さんが幼児化してしまった。もうどっかのフレンズ状態でブライアンに抱き着いてキャーキャーにゃーにゃ言い合ってる。

 

 「バックス君、魔法ってそんなこと出来たかしら?」

 「わからん、動物を使役したりしてる奴は居たから、出来るんじゃないか?」

 ・・・

 ・・

 ・

 父さんと母さんが話し込んで、セレネ姉さんはブライアンと話し込んでる。やがてその輪にセレネ姉さんとブライアンが加わった。

 

 なにこれーせっかく帰って来たのに、もっと甘やかしてよ!!!

 

 とりあえず、帰って来て早々に放置プレイされているけど、僕はお家に帰って来た。

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