36話 なんでもない、なんにもない雨の日

 今日は朝から雨が降っている、ザアザアと割りと強めだ。午前中の鍛錬もこれではままならないなぁ、雨の日に踊る人が居てもいい、なんて言ってたのはゲーテだっけか。こんな日に元気に活動するのもいいだろう、人は在り様に在るのだ。とかわけわからんことを考えてみた。

 

 さてさて今日は、というか今日も予定らしき予定は無いので、のんびり室内でと過ごそう。何をしようかなと考えながら、手元にあったライアーハープを奏でてみた。


 雨音に何気なしに音を合わせながら弾くと、結構勢いのある音になった。この雨は植物と土の栄養だもんな。 甘雨っていうんだっけか。こんな風に恵みのある音になるのもわからないでもないなあ。


 少し興が乗ったので、今日は音楽でのんびり楽しもうかな。ちなみにブライアンは朝から居ない、雨なのに何してんだろう。雨の日の猫ってなんか家で寝てるイメージがあったのになぁ、朝食を取って気づいたら居なかった。まあ居ないので一緒に遊べないから諦めよう。

 

 そうだねぇ音楽かぁ、家族に曲を作った後は、知ってる曲を雰囲気で弾いてみたりしてるだけだけど、これスキル化してるから何かしらの効果もあるんだろうなあ。そこらへん確認しておこっかな。

 

 とりあえず、鑑定してみますか。

------------------- 

[歌Lv5]

魅惑の歌(相手を魅了する歌、聞いたものは魅了状態になる)

癒しの歌(聞いたものの精神が安らぎ、憤怒、混乱、魅了等から回復する)

眠りの歌(聞いたものは眠くなる)

戦いの歌(攻撃と防御が元の値の1.5倍の効果を持つ)

-------------------

 あー特定の歌というか、曲を弾くと効果が出るスキルなのね。何を弾いても良いわけじゃないんだね。もう上がったから分かんないけど、低レベルだと効果が薄いとかだろうね。


 んで、こりゃバッファーですかね。戦闘支援用のスキルっぽい。歌おう弾こうと思うだけで、頭に音が流れるし指先が動く感じだ。これは便利。だがしかし、僕には音の表現がわかんない。楽典とかをしっかりやってもいないし、中学の音楽レベルの知識しかない。まあそれでもわかる範囲でまとめとこ。

 

 魅惑の歌は、長調いわゆるMajorで構成されている感じの明るめの音。

 癒しと眠りの歌は、短調でMinorで少し物悲しいって感じ。

 戦いの歌は、複雑でMajorとMainorがコロコロかわってる。変ト長調とかの明るい感じと変イ短調あたりの太い力強い感じが入れ違いになってる。

 

 たぶん、こんな表現であってるんだとおもう。ざっくり言うと、魅惑が明るくて、癒しと眠りが暗めで、戦いの歌は明るかったり暗かったりな曲調ってことだ。

 

 ハープで一通り歌って弾いてみたのだけど、歌はハミングになってた。固定の歌詞とかついてたら恥ずかしい感じとかになりそうだったから助かった。当然のように演者には効果が無い。あとで母さんとかに、お願いして癒しとか眠りとかを聞いてもらうことにしよう。

 

 ああっそういえば、昨日レベル上がった気がする。最近みてなかったし、ちょっと全部確認しますか、いっつもダラダラ表示されて見にくいから、コンパクトに見えないかなぁ。

 (ステータスオープンコンパクトに) 

 -----------

[氏名]ウェルギリウス

[レベル]5

[STR]32

[VIT]31

[AGI]31

[DEX]129

[LUK]129

[CAR] 50:善

ステータスポイント:224

[スキル]

魔法Lv1_魔法操作Lv1_鑑定Lv5_回復Lv5_錬金Lv1_工作Lv5_描画Lv5_剣道Lv3_歌Lv5

[パーソナルスキル]

生生世世_意思疎通_ステータス操作_アイテムボックス

[称号]

俊足_健康_器用_腕力_天運_アンシャルの加護

------------

 おーコンパクトになった。こっちのが良いね。どれどれっと、あーレベルあがっても、直接上がらずにステータスポイントに入って、自動で振られないって事か。一部称号で補正がついてるのがあるね。STRとAGIに10とDEXとLukに30かぁ、大きいねぇ。


 ステータス操作スキルの影響ね、これいいね。スキル系は増えたものも特に無しっと。まあ閃いてないですしおすし。ステータス周りに関しては今困ることも無いし、しばらくこのままポイント保持でいこうかな。10才とか15才の節目でもいっかい考えよう。

 

 っと、また脱線してた。効果だのスキルだの考えたからだ。元々今日は、音楽の日なんてことを考えてたんだった。でも楽器をつくるのもなぁ、ギターみたいなの作ったり、オカリナみたいなのを作ろうと思ったことも過去にあったんだけど挫折したんだよねえ。

 

 ギターだとフレットをどうやって分けていいかわかんないという罠にハマる。オカリナに至っては、どこに穴あけていいかわかんない。ソプラノ、アルト、バスで3種類あってCとかGとか種類があったような?無かったような?曖昧さ。要するにチューナーと調律師さんってのは、偉大だってことです。

 

 音階?音調?ムキキウキキですよ。そんな悲しい感じで、楽器作りは過去も今も諦めた。そこで終わってしまったのだ。今の所、慣れて来て雰囲気で鳴らせるライアーハープが愛機です。

 

 という具合に、新しい音楽が出来ない理由を並べていても仕方ないので、今日は作詞でもしておこうと思う。最後の砦だ。で、対象は?って言うと、僕に関わる人や環境への曲なんだろうなぁ。候補は家族と宿屋のみんな、それと領主とヴァルカンさん?天使さんズや神様へ歌をってのもなんだかおこがましいよねぇ。それは後々なんか起きそうで怖いという話もあるしね。

 

 家族はいったん作ったし、宿屋か領主かヴァルカンさんかなぁ。うーん、宿屋の人達って好きだけどなんかが違う気がする。領主?うーんちょっと作ってみたいな。ヴァルカンさん?カンカン鉄を叩くイメージが強すぎて音がイメージ出来ないや。うーんってことは領主の歌か。

 

 うーん領主さんかぁ、領の事と本人の事?街を語り、人を語り、生活を語り、街での営みを語るって・・・もうあれじゃん、バッハの農民カンタータじゃん。これはダメだ。あの喜劇しか浮かばなくなってしまった。作ったらむっちゃ怒られる。大人要素が強いあかんやつや。やめようこれは無し。作詞という方向が間違えているに違いない。別の事しましょ。

 

 しばらくなにしよっかなーとか、考えながら手慰みにハープを弾いていると、宿を借りている冒険者3人娘のマキスさんが家にやってきた。なんかあったかな?って思って聞くと昨日の鴉の代金を貰って来たから分配しがてらお茶でもしましょってことらしい。結局暇にしていたので、了解して一緒に宿に向かった。

 

 宿に着いてフリースペースに向かうと、アレサさんとレーテーさんがお茶を飲みながら待っていた。僕とマキスさんは同じテーブルについて座ることにした。

 

 「こんにちはー、今日はお休みですか?」

 

 「そう、雨は嫌い」

 「雨が降ってる上に、昨日見た限りでは良さげな依頼もないしな」

 

 「なるほどー、冒険者は天候に大きく左右されるんですね」

 

 「そうねー、そこはどうしても仕方ないわっ」

 

 席について、しばらく会話をはじめるとセレネ姉さんがやってきた。注文を取りに来たのかな?

 

 「ご注文ありますかー、ウェル君もなにか飲むぅ―?」

 

 「ちょっと冷えるから、あたたかいお茶でっ」

 「僕もおなじのでー」

 

 「はーい、ウェル君は今日はお客さんなのかな?お会計つけちゃおっと」

 

 最近ちょっと接客も慣れて来て、大分茶目っ気が出て来た気がする。結構無口な感じだったのに軽く冗談とかを入れて来るようになった。これはモテるよねぇ。11才にして無双開始の予感である。さすセレ。セレかわ。

 

 「さてさてー、昨日はお疲れさまでしたっと」

 

 「お疲れ様」

 「うむ」

 「お疲れ様でした」

 

 「クエストの報酬自体は、個別に受付から貰ったと思うんだけどっ、魔物の買い取り費用がまだ分配されてないので、今日はウェル君に来てもらいましたー」

 

 「そう、昨日は活躍してもらった」

 「見事な投擲だったな」

 「はーい、いえいえ・・・皆さんが周りに注意をしてくれたから出来たことです」

 

 「うふふっ謙虚ねー、それでね買い取り金をギルドまで取りに行ってきましたー。それをここで分配しちゃいます」


 あー雨の中わざわざ行ってくれたんだ。なんか申し訳ない。

 

 「雨の中わざわざありがとうございます」

 

 「いいのよー、一応ね、良い依頼があるかの確認もしたかったからー」

 

 なるほど、雨の日限定依頼とかありそうだよね。雨の日にしか出ない魔物とか、何とか蛙とか両生類は雨に出てきそう。

 

 「じゃじゃーん、結構高値でしたー。お肉が銀貨5枚で羽が銀貨2枚で嘴が銀貨1枚で合計銀貨8枚でしたっ」

 

 「おおー結構高いんだね、あの鳥」

 

 「鮮度がよければ、刺身でも食べれるものだぞ」

 「燻製が美味」

 

 日本でもたしか関東のどっかの県で生食文化があった筈だ、馬っぽいとかクジラっぽいとか所説を聞いたことがある。肉単体で卸値が5000円くらいって超高級だな。流通したら万近い?

 

 「銀貨8枚なので4人で割って2枚づつになりまーすっ」

 

 マキスさんがPT用の金貨袋かな?取り出して、1人1人に手渡しをしてくれる。僕を含む3人に渡し終えて、自分の懐から別の小さな袋を出して2枚の銀貨を入れた。なるほど、そりゃ自分の財布は別よね。しっかりしたリーダーなんだなぁと関心してしまった。

 

 「これで分配はおわりですっ、お疲れさまでした」

 

 「「「お疲れ様」でした」」

 

 報酬の分配も終えて、その後は雑雑と色々な話をした。やっぱり雨の日はみんなやることが無いらしく、他の泊まり客も交えてワイワイガヤガヤと会話を続けた。

 

 結局、この日はこんな感じで終わったんだけど、まあそんな日もあるよね。それから夕食を終えて、家に戻る時に忘れずにお茶代として、銅貨5枚のお会計もしておいた。


 セレネ姉さん、意外としっかり者なのかもしれない。仕事で集まって打合せしてるのだから家計とは別よね、うん正しいと思う。この手の判断をナチュラルに出来るって才能だと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る