33話 川遊び

 休憩所からしばらく道なりに歩いていると、道の側に生えている緑が大分濃くなってきた。少し水っぽい音も聞こえて来る、もうすぐ川なんだろうと思いながら進むと、馬車が列をなしていた。

 

 なんだろうと思いながら脇を歩いて行くと、どうやら橋を渡る順番待ちの馬車列が出来ているようだった。川は広いんだけど、橋自体は馬車2台分というわけにはいかないらしい。御者らしき人が旗を持って交互に合図をして渡っている。ほえー結構マナーがいいんだな。

 

 まあ、歩きの僕には関係ないので、脇を通って川の端までたどり着いた。馬車の待機列もあるので、渡るのは止めにして、川の上流へ向かうことにして、テクテクと歩いて行く。

 

 「ブライアン、橋は人が多いから川沿いに歩くね」

 

 「にゃー」(まかせるにゃ)

 

 「にゃーにゃ」(水がいっぱいにゃ、キラキラしててウズウズするにゃ)

 

 「人が少なくなって広い場所に出たら、あそぼうね」

 

 「にゃーう」(はやくいくにゃ)

 

 ブライアンに急かされつつも、川上へと進むと川と川の合流点にたどり着いた。山間から出ている川と平地を走ってる川が合流して、街の方に流れているみたいだ。山間側の方が自然が多そうなので、そちらに向かって歩いて行く。

 

 段々と道らしい道が無くなり、ほぼ獣道となったあたりで、木々が生える林という感じになってきた。そこかしこに鳥やリスなど小動物の姿が見え始めた。こういう文明による手がついてない風景ってのは、見ることがなかったから、思ったより感動する。

 

 僕が止まってしまえば、聞こえてくる音に雑音は一切入らないし、当たり前のように静寂に包まれる。音ってのは意外と時間を感じさせるもので無くなってしまうと、今がどれくらいの時間なのかがわからなくなってくる。帰る時間だけは木々の隙間の空で確認するようにしておこう。林か森か名称を悩む程進むと、水の音が強くなってきた、恐らく滝だろう。今日はそこを目指そう。

 

 やがて辿りついた場所は、小さな水の糸が何本も落ちているような綺麗な滝だった。滝の広さに合わせて、広く水が溜まるようになっている滝つぼの岸に降りた。過去に多めの水量だったこともあったのだろう、岸は結構幅があり玉砂利のように細かな石で敷き詰められていた。いい感じなので、今日はここで過ごすことにした。

 

 「ブライアーン、今日はここであそぼー」

 

 「にゃー、にゃうん」(わかったにゃ、好きにしていいかにゃ)

 

 「うん、でも水に流されないように気を付けてね」

 

 「にゃ」(わかったにゃ)

 

 岸辺にある水たまりかな?もしかしたら底でつながってるかもしれないけど、まあ少し水が見える所へ、ブライアンが行ったのを見送って、僕はバックから布を出して敷物にして、その上にブライアン用のミルクを木皿に入れておいた。少しだけ疲れたので、座ってパンと水筒を出して休憩しながらブライアンが遊んでる姿を眺めることにした。

 

 こうやって見ると、猫は結構無口だ、独り言を言う猫って見かけない気がする。今も水で泳ぐ稚魚とかを追いかけて遊んでいると思うのだけどシュッシュと手をだしているだけだ。

 

 意思疎通とかいうスキルで、声が聞こえるようになっても独り言は言ってない。もしかしたら人くらいなのかもしれないね。独り言を言うのは。例によって取り留めのないことを考えているとパンも食べ終わった。さて僕も遊びますかね。

 

 靴下を脱いで、ズボンをまくって、上着をぬいで、飛ばされないように布に重しをおいてっと。そしてバッグから本日の悪魔兵器ハンマーを取り出した。ぐへへ。

 

 「ブライアン、ちょっと大きな音でるかもだからねー」

 

 「にゃー」(きをつけるにゃー)

 

 川を見渡し、川の中に手ごろな大きさの岩を見つけて、そーっと近寄る。そして持ち手が折れないように気を付けながら、岩にハンマーを叩きつける!

 

 ガキィンという大きな音がした後に、岩の側でしばし待つと魚が数匹浮いて来た。釣り漫画で描かれていたけど禁止されていた漁法だ。ぐへへぐへへ。回収回収と。

 

 「にゃー」(そんなにうるさくなかったにゃ)

 

 「ブライアン、魚とれたよー」

 

 浮いて来た魚を捕まえて、ブライアンの近くの草の生えてる辺りに投げ込む。ブライアンが遊ぶのを止めて取りにいった。その後も数匹浮いてきたので捕まえて投げ込む。

 

 「それ大丈夫なら食べていいよー」

 

 「にゃー」(もう遅いにゃ)

 

 すでに食しておられましたか、まあそのつもりだったからいいんだけどね。

 

 さて、ここでちょいテストしますか、岸に戻って魚をアイテムボックスにしまってみるのだ。さっきは気絶してたけど、投げた衝撃で今は、ピチピチしてるだろうしね。

 

 「ブライアン1匹残しておいてね」

 

 「なうなうにゃ」(小さい奴だけにゃ)

 

 ちょっと魚でヌメッた手を洗いつつ岸に戻る。一応、魚に鑑定とかかけとくか。

--------------

[氏名]ヤマメ(サクラマス)

[レベル]2

[年齢] 2年1ヶ月

[食用]可

[薬効]特になし、ビタミンB、Dが豊富な為補助食として最適

-------------

 草と土まみれでわかんなかったけど、ヤマメじゃん!アマゴと区別つかないやつ。塩で焼くと旨い奴やー。海にいたらサクラマスで川にいたらヤマメ。もうこれ源氏名とかよね。まあいいやアイテムボックスに入れてみよう。

 

 どうやんだ?ステータスと一緒かな。・・・(アイテムボックスオープン)ほいほい、思うだけでいくやつね。


 あとは、って頭に入ってるものリストが浮かぶんだね。うんうん、この金と銀はなにかなぁ、神様と天使さんズのお詫びシリーズ?今はいいかな。よし(ヤマメ入れ)・・・入りましたねぇ。

 

 ちと整理しながら考えるか、僕はどうも蛇足気味な思考が多い。

 

 ・生き物は入るか→魚が入ったから入る。例外ケースあるか?わからん。

 ・時間は止まるか→止まるでしょう。スキル説明にあったし。今テストで検証中。

 ・どこまで入るか→ロープを入れてみる、3mくらい入って引き出しても変わんない。沢山入るって結論かな?

 

 それで、スキル説明に書いてあった空間固定ってなんだ、空間を固定ってパントマイムか?入れたもののサイズを保持する?もしくは入れ物そのもの話か、あああ!どんなサイズが入ってもバッグは小さいままってことか、ようするに小さいバッグに大きい物も入るよって話しな。それな。わかった。これやべえ。

 

 ・どこまで入るか→どんなサイズでもどこまでも。だろうな。

 

 よし、便利だなっと。例によって考えるの止め止め。今利用できるならするだけだ、ってことで、ヤマメ君を後で取り出して平気ならこれから活用しよ。あと生きてるもの入るけど人は入れない、なんかヤダ。

 

 それじゃ時間潰しがてらに、岸にいけす作って魚集めとこっと。アイテムボックスで移動が可能なら、おみやげにするのだ。ゴロゴロボチャボチャガッキイーン・・・・

 

ガッキイーンビチャビチャ・・・・

ガッキイーンビチャビチャ・・・・


 「にゃー」(そろそろかえるにゃ)

 

 「はーい、ありがとうブライアン」

 

 あぶない夢中になってた、たぶん軽く1時間くらいは遊んでたよ。たしか、山間の夜は足が速いんだよね。ちょっと夕暮れたなって思うと夜になってるらしいんだよね。じゃあ最後に、おいしいお魚いらっしゃーい(ヤマメ出ろ)、からの鑑定。

 

 ぽとっピチピチ・・・ピチピチ。

 

 鑑定の結果も一緒みたいだね、うんいけるっぽ。最終的には、宿で出した時にもっかい鑑定でいいでしょ。かたっぱしからしまえー。一緒にとった沢蟹も川海老もいっちゃうぞバカヤロー。

 

 「おまたせブライアン、かえろ」

 

 「にゃーなにゃ」(まんぞくにゃ)

 

 「帰る前に清浄かけとくねー、あとお腹いたかったりしたら言ってね」

 

 「にゃー」(大丈夫にゃ、痛くなる奴は食べるときにわかるにゃ)

 

 「はーい、じゃあ帰ろ」

 

 それから、ふたりで少しだけ急いで帰った。橋までついた時点で、なんかやっぱりホッとした気がしたりもした。帰りは休憩所で大きなイベントはなかったが、街近くまで来ると小高い丘から牧羊犬が走ってきた。

 

 「バウッ」(子供、もう遅い時間だぞ)

 

 「ごめんなさーい、今帰ります」

 

 「にゃー」(帰ってるにゃ)

 

 「バウ」(暗くなるまえに群れに戻るといい)

 

 「はーい、心配ありがとね」

 

 「ワオーン、ワオーン」(子供がかえるぞー、みまもってやれ)

 

 手を振りながら帰路につくと、また一声かけてくれた。でも、何が見守ってくれるんだろう。近くに居る鳥とか動物なのかな?野犬とか?分かんないけど、なんだろうすごくうれしいなって思った。

 

 そんなこんなで、周りが暗くなる前に街までついた。門番さんは違う人になっていたけどギルドカードと僕を見た後は、特に何も言わずに通してくれた。

 

 宿の前に着き、ふたりの体にもう一回清浄をかけて宿に入る、ブライアンはもう庭に向けて歩き出している。

 

 「ただいまー父さん、母さん、セレネ姉さん」

 

 宿に入ると、丁度近くを歩いていたセレネ姉さんが迎えてくれた。そのままフリースペースに移動しながら話をする。

 

 「おかえりなさいウェル君、楽しかった?」

 

 「うん、川まで行ってきたよ。楽しかった、今度お休みの日に行こうね」

 

 「うん!案内してね」

 

 「そうだ、父さんにお土産があるんだ」

 

 「あら?なにかしらバックスくーん今ちょっといいー?」

 

 話を聞いていた母さんが声をかけてくれて、父さんが料理場から出てきて、セレネ姉さんに声をかけていた。

 

 「セレネ、鍋の火をみててくれ。それと鍋をたまに少しだけ、かき混ぜてくれ具が崩れるからゆっくりだぞ」

 

 「はーい、わかりました」

 

 どうやら、鍋を任せられるくらい姉さんは頑張っているようだ。

 

 「ん、大丈夫だぞ。ああ、ウェルおかえり」

 

 「父さん、ただいま。そしておみやげがあるんだけど見てくれる?・・・その前にバケツか何かをくれるとうれしい」

 

 「バケツね、これでいいかしら?」

 

 母さんが受付の脇からバケツを出した、掃除用かな?んー清浄かけとこ。

 

 「清浄、からの(ヤマメ、川海老、沢蟹でろ)」

 

 スッとバケツに入ってくれた。落ちてボトボトなったらどうしよって思ったわ。まあ結果オーライ。


 「んおっ、ヤマメと海老と蟹か」

 

 「そう!川で取ってきたよ。魚は焼いたらおいしそうだし、父さん好きかなって」

 

 「ん、これは新鮮でいいな。好きだぞ。ウェルありがとうな」

 

 「あらーいいわね、海の魚は沢山売ってるけど、川の魚は街の側では取れないから高いのよね」

 

 「そ・れ・で、ウェル君、私へのおみやげは?」

 

 「いいいっしょに入ってる、川海老かな?油の中にいれて揚げるとおいしいよ!」

 

 「ふふふ、じゃあセレネちゃんは蟹なのかなぁー」

 

 「うううん!沢蟹も揚げるとおいしいしね!」

 

 「ん、ウェル。あげるってなんだ?」

 

 あれぇーそういえば、こっちで揚げ物食べたことないや。まあいいか、父さんだし。

 

 「うんと、胡麻や菜種から絞った油を高い温度にして、そこにいれて調理するんだよ?」

 

 「肉から出来る油とは違うのか?」

 

 あああ、ラードやタローっぽいのあるんだね。って父さんが突っ込んでくる。

 

 「味わいが違うだけだよ、同じ調理には使えるよ。植物から出来るやつは種を使うんだけど、その植物の香りがして料理に彩りが出るよ」

 

 「って、ちょっとまって父さん。魚が傷むから海老蟹とわけて水にいれない?」

 

 「ん、ああそうだそうだな。フォル頼む」

 

 はい、丸投げしてからの聴取です。

 

 「それは前に経験してるのか?」

 

 「うん、前にやったことあるから出来るよ。でも体が小さいから、見てて教えるのが楽だけど」

 

 「ウェル、それでやろう」

 

 「ふふふ、バックス君のその顔は、プロポーズの時とふたりが生まれた時以来かしらねー。逃げられないから大人しく捕まりなさいね」

 

 母さんが珍しい物を見た顔をしながら言っている。はい、なんだろう大男でイケメンなのにかわいいとか。これはなーズルいなー。

 

 「じゃあ父さん、一緒に揚げ物を少しやろー。小麦粉を溶いた水であげたりと色々あるんだよ」

 

 その後、いろいろな揚げ方を伝えて、やってみて過ごした。僕は、父さんにある程度の調理方法を伝えたりする。ってことも文化破壊しない程度にやっていこうかな、なんてことを思いながら今日を終えた。

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