32話 馬車道ウォーカー

 ででん、午前の鍛錬も終わり、これから街の外へおでかけです。先日銀ランクを取得したので父さんと母さんから外出許可をもらったのだ。


 昨日の冒険者登録を祝う会で聞いたところによると、街の右手に大きな川があるらしいので、そこまでお散歩です。街の近辺は冒険者が治安維持として魔物を退治している為に安全らしい。


 一応安全を考えて、厚手の服と木刀と秘密兵器の投擲武器を持っていくことにする。投擲武器については語ると長いのだが、ヴァルカンさんと共同で開発したダーツのような仕様になっている武器だ、投げ捨てになってもいいように、先端のとがった細い棒の後ろに薄い木で出来た羽がついてるだけである。


 出かける前に、自作のバッグに必要なものを詰める。布、ロープ、ハンマー、ナイフくらいかなぁ、バッグは腰にさげるシザーバックみたいなものを作った。色々入るようにしたら職人さんの腰袋みたいになっちゃったけどね。 そんなわけで、準備も出来たのでおでかけだ。


 「ブライアーンそろそろ行こう」


 「にゃー」(わかったにゃ)


 「昨日話してた通りに、川沿いまで遊びに行こー」

 

 「にゃにゃ」(忘れ物ないかにゃ)


 「ないよ、父さんと母さんに声かけたら行こう」


 「にゃー」(にゃー)


 宿屋の前につくと、丁度母さんが出て来たタイミングだった。


 「丁度よかった、これ持っててね」


 母さんが水筒二つと木皿1枚とパンを2個くれた。


 「ありがとう、気を付けていってくるよ」


 「はーい、無理はしないのよ。いってらっしゃい」


 母さんに見送られて、宿を後にする。少し歩くと、あっという間に街と外を隔てる壁と大き目の門が見える。門番の衛士みたいな騎士みたいな人が立っていて、出入りの管理と安全を確保してくれている。ちなみに今日のブライアンは肩に乗るのでは無く並んで歩いている。さんぽだからね。


 「こんにちはー、銀級冒険者です。街の外にでますー」


 「おおっバックス先輩とこのお子さんか、大きくなったな」


 「ん?先輩?」


 「昔、冒険者をしていてな、バックスさんには世話になったんだよ」


 「なるほど、こちらこそ父がお世話になりました」


 「ははは、どういたしまして。それで今日は外出かい?」


 「はい、近くの川まで行ってきます」


 「えっとウェルギリウス銀級っと。よし問題ないぞ」


 あれ?子供だし引っかかると思ったけど、いいのかな?まあギルドカードは偽造出来なそうだし信頼はあるのか。


 「ははは、領主様からもギルドからも通達が来てるよ。これから10才くらいの子が銀級のカード持って門の出入りしますが、それは正しいものですと」


 「なるほど、ありがたいです。では行ってきますね」


 「おう、気をつけてな―。危なかったら街の近くまで走って来て大声を出せよ」


 「はい、ありがとうございます」


 「じゃあ、ブライアンいこ」


 「にゃー」(はいはいにゃ)


 街を出た。すごいね。異世界だ。当然自然以外は見えない。ビルもない。見渡す範囲は草むらと道だけだ。道は馬車が2台横並びできる程度のサイズだ。その道は街から出てT字路になっており、 進んだ先に何があるのかを示す木製の看板が立っている。定期的に立て替えているのだろう、そんなに風雨にさらされている感じもしない。


正面は、何も無い草原となっているがチラホラ武装している人が奥に向かっていたり、戻ってきたりしているので奥は森か狩場にでもなっているのだろう。ちょっと視界には入ってこない。


まあ今日は、右手にあるという川へ向かうので、気にせずに道に沿って歩くことにした。


 「ブライアン、川は右だってさ。馬車に気を付けていこ」


 「にゃ」(わかったにゃ)


 街の右手にあるという川は、宿屋で地図を見た限りでは街を通る形になっているのだが、大きくカーブを描いて街にかするようになっていた。遥か昔に灌漑工事でもして流れを変えたのかもしれない。


 馬車道をしばらく道なりに歩いていると、ポツポツと民家だったり農家だったり畜産?酪農?なのかな?何かを飼っている家が見える。各家にはしっかりした塀や石垣みたいなものは一応存在しているけど、あんまり頑丈には見えない。この近辺は本当に平和なんだろうな。


 それから少し歩いたとこで、近くの民家から大きな犬が歩いて来た。

 

 「バウワウ」(なんだどこの子供だ)


 「街の子だよー」


 「バウバウ」(街の子か、おおぉ言葉がわかるぞ)


 「にゃーん」(ウェルは動物と話せるにゃ)


 「バウ」(不思議な子だな)


 「あはは、近くの家に住んでるの?」


 「バウ」(ああ、あそこで羊の番をしたりしてるぞ)


 「おー牧羊犬なんだね」


 「ワウ」 (そんな名前のことを言っていたな)


 「おかげでおいしいミルクやチーズが食べれるんだね。ありがとうね」


 「バウバウ」(買ってくれているのだろう、おかげでいいものを食べさせてもらっているぞ)


 「にゃー」(ミルクはうまいにゃ)

 

 「ふふふ、おたがい様だね」


 しばらく右に進みながらお話しをしていたが 、家から 離れすぎたのか牧羊犬は戻ることにしたらしい。


 「バウワウワウ」(では家に戻るぞ、子供もあまり群れから離れるなよ)


 「はーい、気を付けます。またねー」


 「にゃにゃ」(ばいばいにゃ)


 「ワオーン、ワオーン」(ここな子はわが知り合い、手出し無用ぞー)


 おおっ周りの動物に一声吠えてくれたのね、ありがたや。犬って仲間意識強いよねぇ。あの子は人の仲間で人の子供は守る範囲ってことなんだろうな。牧羊犬の父性?にちょっと感謝。


 「ありがとねー、まったねー」


 牧羊犬と別れて、しばらく歩くと左手に少し大きめの木と開けた場所が見えて来た。何台かの馬車と人が見える、たぶん休憩所的な場所なんだろう。水分補給も兼ねて少し寄ることにした。


 ほぇーここも一応、塀があって安全なのね。なんかキャンプ場みたいだ。 軽い煮炊き等をしている人もみかける、ふーん使用料とかはさすがにないのね。


 もしかしたら、領主が休憩所とかを作って開放してるとかなのかもしれないね。なんかの機会に聞いてみよ。にしても、あの領主はなんか距離が近いよなぁ。他の人の対応みると偉い感じなのにね。っととまた別な事考えだした。とりあえず休む場所っと。


 「少年なにしてるディスカ?」


 「ディスカ?えーとさんぽだよ」


 「こんな場所に1人でさんぽディスカ・・・」


 「違うよ、友達と一緒だよ」

 「にゃー」


 「猫と一緒ディスネ、そうディスカ」


 なんか不思議な語尾の女の人が話しかけてきた、日本語習いたての外人みたいなデスカ口調の亜種なんかなディーの発音が強すぎてちょっとディスカード(廃棄とか捨てる)と聞こえてしまう。まあいいんだけど。応対しながら腰を落ち着けるところを探していると。


 「休憩なら、こっちで一緒にどうディスカ?」


 ん?ちょっとだけ警戒しておくか。バッグのダーツの位置をさりげなく手で触れて再確認しておく。変に断って状況がわからないまま動くのもなぁ。話を受けとくか。


 「はい、お邪魔じゃなければ。座る場所探してたんです」


 「はい、こちらにどうぞディース」


 しばし着いていくと、キャラバンみたいなやつかな?荷物が積んでありそうな幌馬車が数台に、護衛してるだろう冒険者みたいな人と、声をかけて来た人にそっくりな女性が、お茶らしきものを飲みながら談笑していた。


 「おや?その子はどうしたんデスカ?」

 「ちょっと向こうに1人で居たのディス」

 「居たってあねさん、連れて来ちまったんですか?親が探してますでしょうに」


 幌の中身をチラッと確認し、奴隷運びの類じゃないことを確認だけしておこ。樽樽箱箱って感じかぁ。安全なのかなこれ。まあまだ分かんないから決めつけないでおこ。


 「こんにちはー」

 「にゃー」


 「それがさんぽしてたらしいディスヨ」

 「なぁ君?お父さんとお母さんは?」


 「街に居ます。僕はブライアンとこのへんを散歩してるだけです」


 「ブライアンってのは、そのツヤツヤの猫か?」

 

 「はい」

 「にゃー」(自慢の毛並みにゃ)


 「まあ、立ったままも何でしょうから座ってくだサイ」

 「そっそうだな」


 「じゃあ、おじゃましまーす」


 腰を落としながら、バッグに手を入れて木皿とブライアン用の水筒からミルクを出す。ミルクはあんまり持って歩くとダメになるからねぇ。早めに消費っと。


 「ブライアンどうぞー」

 「にゃにゃー」(ありがとにゃ)


 「それで、少年は猫とさんぽの最中に休憩所に入った所を、あねさんに捕まったってとこですかね」

 「捕まえてないディス」


 「そうです、不審なお姉さんに拉致されましたー。このまま監禁されて一生奴隷生活ですー笑」


 「はっはっははは、あねさんならやりかねぇな」

 「そんなことしないディスヨ」

 「でも気をつけなきゃダメデスヨ」

 

 みんなでしばし笑うと、護衛のおじさんが口を開いた。

 

 「その坊主はぬかりないぞ、後ろを歩きながら、俺たちの位置を確認して、武器から遠い位置に立って、腰をおろす前に幌の中身を目で確認してたぞ。今も手を近くに置いたままのバッグには、なにかしら武器があるんだろう?」


 ちょっと警戒。しておこ。おじさん強そうだし鋭い。口では逆を言うけどね。


 「なんか無駄に警戒してごめんなさい」


 「困ってるのかなって連れてきただけディス」

 「もう、警戒しちゃったじゃないデスカ」

「君?大丈夫だよ、この人達は行商をしていて僕らはその護衛だ」

 「まあ警戒心が高いのは悪い事じゃねぇ」


 うーんこの話は終わりが無いなぁ、悪い人じゃない証明なんて何を使ってもできないもん。


 「ところで、さんぽって何処へ行くんディスカ?」


 「少し先にある川まで行って遊んでくるだけですよ、まだ子供でお仕事もありませんしね」


 バッグから自分用の水筒を出して、水を飲み見つつ会話を続ける。


 「お姉さん達は何を売ってるんですか?」


 「今回は、お酒と布デスヨ」


 おーなんか行商人っぽい、地方特産の布織物とかをあちこちで売るんだろうな。


 「えへへ、僕が買えそうなものはないや」

 

 「好きそうなものを、次までに仕入れておきマスネ」

 

 「おねがいしますー」


 なんて、ほどほどに心の無い会話をいお互いにして、そろそろお暇して川へ向かうことにした。正直ね、妹商人さんも護衛さんも距離感に困ってたし、僕も困った。だが、連れて来た本人はマイペースという亜空間ね。まあリーダー気質の天然さんってことで。


 「それじゃ、そろそろ行ってきますねー」

 

 「はーい、気を付けるんディスヨ」

 「いってらっしゃい」

 「気を付けてな」「お気をつけて」


 「はーい、お姉さんたちありがと」

 「ブライアンいこー」

 「にゃ」(にゃー)

 

 休憩所を後にして、川に向けて歩き出すことにした。大分時間くっちゃったな、帰り遅くならないようにしなきゃ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る