30話 おめぇに食わす鍛錬はねぇ
像のお披露目から3日程たったある日、工人ギルドから少し細長い荷物が届いた。
僕宛てということで、母さんから渡されたのだが別段依頼もしておらず、像の付属品か何かと思って開けたら、竹で出来た刀が入っていた。いわゆる竹刀だ。お披露目会の時に話したことを覚えていて作ってくれったっぽい。
母さんに経緯を伝え、お礼をお願いしておいた。合わせて少し加工をするので、倉庫のカギを貰っておく。最近は製作について一定の信頼をもらっているようだけど、怪我だけは気を付けますと、久しぶりに敬礼で伝えておく。こういうのは初心を忘れないのだ。
庭に出た僕は、さっそく竹刀の様子を確認することにする。本当に5節の竹で作ってくれていて、ちょっと感動した。節の位置も絶妙だ。長さは僕の身長とかわらない。竹刀が120㎝ちょい短いくらいだからほぼ原寸だ。重心は持ち手についている、あんまり後ろすぎないくらいで丁度いい。
外観的には柄だけ作ってあって、先端と中結いと弦がなかったので皮と麻紐のようなもので作ることにした、ここはパパッとやってしまう。先端を覆う皮を作成して楕円をつくってそこに糸を通す、通した糸を中結いにする用の細長い皮に穴を空けて通していく。柄は出来あっているので穴を空けて、かます結びみたいな結びをして糸の張りをある程度確保できたら、最後に中結いを結んで完了。
正しいのは、もう覚えてないけど。これで多少の衝撃では壊れ無くなったと思うのでヨシ。心で黄色のヘルメットかぶった猫がポージングしてる。ヨシ。
さっそく素振りをしてみる。前方に摺り足で出ながらの正面素振り。軽い、良いしなり。後方に摺り足で戻りながらの正面素振り。同じ足の動作で振り下ろしを左右に分ける左右面素振り。
よしよしいえすいえす。これはいいわ。この体でも負担なく振れる。
最近の午後は、音楽の時間になっていたので剣もはじめますかね。
トレーニングメニュー考えなくちゃ。大事な事は、より早く正確な斬撃、これに尽きると思うので、正面素振りを何度も繰り返していこう。利き手側から斜めに斬るのは楽だけど、そうじゃない。斜めの斬撃は盾に直撃が多いのだ。それに体が出来るまでは、反動や衝撃に骨格と筋が耐えれないから打ち込みはしないのだ。
よし、とりあえずこんな方針で1年くらい頑張ってみますかね。あとはちょっと体動かしながらメニュー決めっと。
自分の体の真ん中に線をもって、それに沿って振り下ろし。
ゆっくり振り上げて、すばやく振り下ろす。
振っている腕が伸び切ったところで止める。
竹刀を止める時だけ力を込めて柄を絞る。
この正面素振りのセットを半年くらい毎日100って感じかなあ。様子みて増やす感じかな。
しばらくは、前後の移動にそって動く自分の真ん中の線すらおぼつかないだろう。
ふりおろす線が体の線からずれてしまうだろう。
竹刀もフラフラして止まることもないだろう。
柄をしぼって手もしびれるだろう。
頭の中と体がチグハグでムキ―ってなることが想像できる。でも、ここはきっちり鍛錬しておかないと、とっさにアホアホな斬撃だして剣をすっとばす羽目になる。
上手く出来ないだろうから、出来た時に1ってカウントして、それ以外は無効でもよいかもなあ。きつすぎるか、なんにせよ一回は一回でやっておくか。
早くと強くの違いを体に叩き込むのだ。怠ける事は無いだろうし。正中線は斬撃おわったら消す癖つけないと体の軸が固まって良い的だよな。おわったら消すなのかなこれ。まあ出来上がって振り切れるようになってから考えるか。
うん、これで強くなりたいって希望にもひとつ近づいたかな。ショーペンちゃんじゃないけど、僕は男の子なので獅子として引き裂く鉤爪と噛みつく歯が欲しいのです。
などと1人で満足していると、宿屋側からブライアンの鳴き声がした。
「にゃー」(あそぶにゃ)
「しー、ブライアン君、しー」
「・・・・領主様、見つかりました」
「・・・・」
どうやら、領主のようである。状況を見るに、隠れてこっちを見ていたらブライアンに発見されて絡まれたってとこかな。
「領主様、こんにちはー」
「こっこんにちは、精がでますねー?」
「「こんにちは」」
ちょっといじわるして先に大きな声で挨拶をしてみる、ぐへへ。
「別に覗いていたわけじゃないのよー」
言い訳が答えである。腹芸しよう?貴族なら。
「あはは、見られて困ることはないですよ」
最近、定番になっている領主、従者、メイドの3人が近くにやってくる。何か用事っぽいのでブライアンには遊ばないらしいと伝えておく。
「今日は遊ばないってさ」
「にゃーう」(なら出かけるにゃ)
ブライアンは領主を一瞥して、散歩に行った。どの辺まで出かけてるんだろう。どっかの調べでは100m前後は行動するらしいけど。まあ無事に過ごしてるみたいだし注意だけでいいかな。
「気を付けてねー」
「にゃうー」(わかったにゃ)
さて、領主なんだけど何用ですかね。
「領主様、本日はどうされました?」
「そうそう、像の護衛を決めましたって話と教会の像についての動きの報告ね」
「像の護衛ですか、護衛しなくても悪戯したら実際の天罰落ちそうですけどね」
「そうね、でも悪い事を考えることも無いようにするのも大事よ、はじめから無理だって思わせちゃうってことね」
「ああ、未然に防げることに越したことはないですよね」
「そうそう、それで私の家から1名を交代制で派遣することにしたわ。普段は宿のお手伝いって感じで戦闘可能な人員を出す形ね。騎士って感じの護衛にすると対外的にも面倒だから、ね」
いわゆるバトルメイドか!それはスカートの中に苦無とか短銃とか?って銃はない世界か。忍者も居ないか。知らないけど。
「父さんとは?」
「ウエルギリウス君のお父さんとは、詳細を詰め終わってるわ。事後連絡って形になっちゃったけど、それでいいかしら?」
「もちろん、異論はないよ。父さんが合意した上に領主様のご厚意だもん」
「そう、ありがとうね」
そっかそっか、宿に人増えるのかぁ。でも安全になるならいいかな。僕もいつかは家を出る身だしね。ってその頃はどうなるんだろうね。領主様に像を渡すって感じなのかなぁ。。。まだ先だし考えても意味ないか。
「あともういっこの話は、教会ね」
あーなんかゲンナリする話っぽいなあ、トーンが低い。
「えっとややこしい話だけどね、我が教会に降臨した天使の像は、わが教会の物という聖女派と使徒様の御心と進路は妨げるなの司祭派にわかれて騒いでるみたいよ」
「えっと、はぁ・・・としか言えないですね」
「想像出来てると思うけど、あの時の聖女と司祭が筆頭って感じね。いまのところ司祭派が断然有利というか聖女派が過激行動に出ようとすると小さな不幸が連続するらしいわ」
ぷっ、絶対天使さんズが、なんかしてるんだろうな。
「あー良い意味で気さくな天使ですもんね。絶対なんかしてますよ」
「えっええ、ここに諫言しに来ようとした者は、鳥に服を汚されたり、転んで服が破れたり、乗り込んだ馬車の車輪が乗った瞬間にはずれたり、書簡にまとめるとインク壺が倒れたりと・・・」
アレだ糞爆弾ですよね。そして大泥棒3世のCM前的な絵柄かな、他もコミカルだな。
「あー絶対止めてますね、それホウさんだと思います。対応がやさしいですもん」
「緑のドレスを着た天使様ですね」
「鎧を着たリリさんが手出しをする前の、これ以上はダメよー?くらいのやさしい対応だと思ってくれると嬉しいなあ、リリさんだったら、天啓を教会上層に出しそうだ」
「そうですね、そこは私から言っておきます。問題は起きないし起こしません」
フラグくさいーけど、まあここは他人の意思だからね、どうこうできるもんじゃない諦める。
「はい、お願いします。あくまで個人で利用する為に作成したものなので」
「そうですね、本当に困ったものです」
今日は像まわりのお話しをしに来たってことで、次の予定があるらしく領主は帰って行った。教会まわりが臭いけど、考えても仕方ないので事が起きるまでは、こちらから何かすることはやめた。あとのぞき見について問い詰めるの忘れてた。てへへ。
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