29話 像のお披露目をしてみよう
翌日になり、午前中のトレーニング中に領主と従者とメイドが庭にやってきた。んんー?かなり早いな、今日は予定無かったのかな。
「おはようございます、ウェルギリウス君」
「「おはようございます」」
やや離れた位置から挨拶をしてくれたので、柔軟をやめて立ち上がって挨拶を返した。
「領主様、おはようございます。従者さんもメイドさんもおはようございます」
「少し、早く来てしまいました」
キョロキョロと周りをみている、ああブライアンを探してるのね。何度か息抜きに来ているので割とお互いに自由である。そして領主はブライアンを気に入ってるっぽい。
「ちょっと待ってくださいね。ブライアーン、お客さん」
「にゃー」(誰にゃ)
ブライアンが家から走ってきたので、すれ違いながら領主であることを伝えて、家のリビングにおいてあるキャッシングロッドを取りに行く。
「にゃー」(なんにゃ)
「おはよう、ブライアン君」
「領主様、持って来ましたよー」
キャッシングロッドを領主様へ手渡しする、すこし照れくさそうにしながら受け取ってくれた。
「ブライアン、遊んでくれるって」
「にゃーにゃう」(やったにゃ、今日も奪うにゃ)
さっそく遊びはじめたので、柔軟を再開する。左の関節の途中だったので、そこから再開だ。腿の持ち上げが終わったあたりで、従者が声をかけて来た。メイドさんが領主について従者はこっちらしい。
「なにをなさっているのですか?」
「体を鍛える為に走ったりするんだけど、その前に怪我しないように柔らかくしてたんだ」
「体を鍛えているんですか?」
「うん!僕は宿屋を継ぐわけじゃないしね、何をするかは決めてないけど、元気でいる事は一番の基本でしょ?でもまだ小さいから、そんなに沢山は走ったりしないで殆ど歩いているけどね」
「ご一緒してもいいですか?」
「どうぞー、そんなに大変な事はしないつもりだよ。まずはしっかりした歩幅でここを5週」
トラックを回りながら会話していく。なんか従者の心の距離が近いなあ、まあいいんだけどさ。
「毎日、これを?」
「そうだよー小さな事からコツコツだね」
「この歩くのは何か目的があって?」
「肩幅と同じ歩幅をどんな時でも出来るようにって練習だよ」
「どうして肩幅なんですか?」
「あわてて走った時に大きく歩幅とったら足の筋とか怪我しちゃうでしょ」
「なるほど・・・それを5才から体に教え込ませて・・・」
「少しスピードあげるね、ちょっとだけでそれを5週」
「早くなりましたが、急いで歩くくらいですね」
「そうですね、それでもさっきと同じ形を崩さないようにって」
「意外と難しいですね」
「じっくり意識してやると難しいよね」
「もうちょっとスピードあげるね、それを5週で終わり」
「結構早いですね、何か気にしてる事はあるんですか?」
「足を速く動かす、腿を振るではなくて、足の裏で地面を強く蹴るですかね」
「これは結構、負担が来ますね」
「そうかな?慣れだよー。僕は一ヵ月近くしてるしね」
「お疲れさまでした、これで終わりです。ちょっとタオル持ってくるね」
従者用のタオルと柔軟用の敷物を持ってこなきゃね、さすがにパンツスーツを草むらに座らせるのは無理だ。家に入るついでに領主とブライアンを見ると、追いかけっこを終えてベンチでまったりしてる。近くに控えているメイドが給仕をしていた。
「はい、これどーぞ、なんだけど。その前に敷くものを持ってきたので、動かした足を少しほぐしてくださいね」
従者の近くに敷物を敷く、僕はその側でいつもの柔軟セットこなして、今日のトレーニングを終える。うーん、柔軟ってしたことないのかな?ちょっと戸惑ってるっぽいな。
「同じように、ほぐします?」
「ええ、お願いします」
「じゃあ仰向けに寝てください、そこで片方の膝をたてて・・・」
「はいっ最後に清浄とタオルです」パワアァ
従者の柔軟もしっかりやっておいた。途中で息が荒れていたけど、まあ気のせいだ。
片づけをして、領主と昨日の招待状の事やトレーニングの事、そしてブライアンの事などをベンチで話していると宿屋方向が騒がしくなってきた。どうやら届いたようだ。
「来たみたい」
「天使像が届いたみたいですね」
「行きましょうか?」
「「「はい」」」
庭から宿屋に出ると、そこはもう三社祭だった。布のかかって正体不明の像を神輿の様に担いだドワーフさん達が集まっていた。呆けたまま見ていると、布がはずれないようにテキパキと運んで行き、撤収していった。なんという絵面、ドワい彗星。とか斬新すぎてわけわからん。
「とりあえず、入りましょうか?」
なんとか再起動して、領主と従者とメイドさんを促して宿屋に入った。そっち、もてーとか落とすなよ!とか運搬中にありがちな声と共に、おいしそうな料理の匂いがする。もう準備は万端のようだ。受付を見ると母さんのかわりにセレネ姉さんが居る。目線が合うと相変わらずニコニコしてる。もう、可愛いなうちの姉は。
「おっウェル君きたねー、運ばれて来たよ」
「ん、料理もこれで最後だ」
「セレちゃん玄関に営業お休みの看板を立てておいて」
「はーい」
トテトテいって、看板立てて、扉をカチャっと閉めて戻ってくる。その間にフリースペースを見渡すとドワーフ軍団、領主組、宿の常連組、家族というメンバーだ20人程度って感じだろうか。
「じゃあ、じゃあはじめちゃいましょうか!!」
「「「おうっ!」」」「「「「はい」」」」「「「はーい」」」
「では領主様から、はじまりの挨拶と除幕の合図お願いします。ウェル君は像の前に行ってね」
白い布で覆われた天使像の前に行く、天使像の後ろは布が屏風みたいになっていて、像が目立つようになっている。
「こほん僭越ながら、本日は天使像の完成記念パーティということで、お集まりいただいた皆様ですが、色々な立場やお仕事の方がいらっしゃると思います。それでも私たちは一つの縁の元に集まることが出来ました。ウェルギルス君、彼との良き縁です。色々なはじまりがあったかと思いますが、今ここに彼の願いの一つである天使像の完成が達成されたことを共に喜び、祝いましょう。それでは除幕を!!!」
勢いよく布を取り外す。天使像の全貌が見える!!!銀色に輝く姿に、絵と変わらない衣装をまとった天使像が3体姿を見せた。これはすごい・・・服も別途縫製で鎧も作り込みしたんだ、彫り込みかと思った。って可動式に拘っていたから彫り込みは選択肢に最初から無かったのか。
「すげぇ」「素敵」「こんなの見たことない」「素晴らしい」「うむ」「完璧じゃ」
賛辞の声が飛ぶ、これは確かにレベルが違う。細部をみると何か所可動だこれ。オプションパーツの翼も可変する。ランスもそのまま武器になる勢いだ。一応さすまたみたいに体を後方からアームで支えてるけど、これいらないよね。たぶん自立する。
「すごい、絵のままだ!ありがとうございます!!」
「おうよ!それで絵なんだがな、一緒に持って来てある。像の後ろの布も取って見ろ、対になるように飾ってあるぞ」
像の後ろの布も取ると、領主様が手配した額縁に入った絵が、像と対応するように飾ってある。これもう美術館じゃないですかー。すごいな。もう言葉がないわ。ギラギラじゃなくてキラキラだ。
「さぁ皆さん、お食事も用意してるので今日は楽しんでくださいね」
母さんの声がすると、各々が料理を小皿に取り席に着いたり、像の近くにいったりと行動しはじめた。僕はさっきまで領主といたのもあり、ヴァルカンさんへお礼を言いに席に近づいた。
「ヴァルカンさん、今回はありがとうございました」
「おぅいいってことよ!こんな仕事は一生に一度出来るかどうかだ。こっちこそ感謝してるぜ」
「儂らも像づくりができて楽しかったぞい」
「「「「そうだそうだ」」」
「また面白いもん考え付いたら、ウチに来いっカカアに内緒で作ってやる」
「汚ねぇぞヴァルカン!坊主うちにも来い、こわいカカアはいねぇからいつでもやってやる」
「そんなに沢山思いつきませんよーーー」
「儂でもよいんじゃぞ?」
「「「「「「ガハハハハハ」」」」」
それからすごく、ドワった。ハープの事や、作ろうとしていた竹刀の話をした。5節ある竹を4つ割って組み合わせて練習用の刀にするって言ったら、木刀つかえばいいじゃねぇかと言われたりしたが、お爺さんドワーフは、体が小さいから動きを先に正確にしたいんじゃろう?とわかってくれた。そこでまた俺が俺がのドワムーブがあったりもした。
ヴァルカンさんのとこから離れて、宿の常連組に顔を出す。教会と領主まわりのゴタゴタには巻き込んだけど、この天使像に関しては知らないと思うので、まあ大事なものだよーって説明をしにきた感じだ。
「皆さん今日はお付き合いありがとうございます」
「水臭いな、一緒に祝わせてくれよ」
「いいんだよ」
「フォルトナさんとこの息子は俺らの息子も一緒ってなもんだよ」
「あの絵もウェルギルス君が描いたのかい?」
「ウェルギリウスですよー、言いにくいならウェルでいいですよ2回目ですし笑」
「ウェル君を祝う為なら、財産を差し出すこともやぶさかではない」
「あんたねぇ、にしてもすごい像ねステータスにあった加護関連よね」
「そうです、僕の守護担当の天使さん達です」
「3体ついてんのか、もう勇者でいいだろう」
「私もついているから4体で大丈夫」
「大丈夫じゃないし、アンタ天使じゃないでしょっ」
「ほんとコイツ、ウェル好きすぎだろ。だれか監視しとけよー」
「「「「「「あははは」」」」」
常連さんへの挨拶も済ませて、改めて家族の所に戻り今回のお礼をしていると、領主と従者がこちらに歩いてきた。父さんが先に声をかける。
「領主様、今回はたくさんのご厚意を賜りありがとうございました」
「いいえ、良いのですよ。先ほども話しましたが、ウェルギリウス君がつないだ縁です。みんな楽しそうではないですか。領民の幸せは私の幸せです」
「「「「「ありがとうございます」」」」
・・・うーん、さっきから像の光り方がおかしい、あれ降臨しようとしてるよね。収集つかなくなるから、絶対食事を供えたり祈ったりしちゃダメだな。ん?光増えてるな、放置でも降臨しそうだ。先んじてこのメンバーに声を出しておく。
「ねぇ。ちょっとチラ見で像みてもらっていい?」
「ん」「なになに?」「んー?」「どうしたの?」「なんですか?」
「チラチラ後ろの翼が光ってるでしょ、あれ降臨してこようとしてると思うんだけど、来たら絶対収集つかなくなるよね、像の可動パーツ細かくしてるから受肉して動き出す可能性もあると思うんだけど」
「ほんとね、これはどうしようかしらね」
「ん、止めることは出来ないのか」
「動く天使像とか奇跡の類です」
「楽しいならいいんじゃないー?」
セレネ姉さんは安定稼働であるが、これほっといても来るよね。もうそういう事だとして、こっちで誘導しちゃったらどうかと母さんに話して段取りを決めた。
「はーい皆さん注目!ウェル君からお話しがあります」
みんなが静まり返ったタイミングで話はじめる。
「今日はありがとうございます。僕がこの天使像を作成したのは、僕の守護を担当してくれる天使様へ祈りを捧げる為でした。ですがドワーフの皆さんの協力により出来上がった像は、ただの祈りの対象ではなくなったようです」
「ホウさん、リリさん、アミさん、降りて来れるんだよね?作成にかかわった人に一言いい?」
・・・・場に静寂が漂い、教会の時より強い光が発生する!!!
光はやがて天使の型をなぞり、各像に重なっていく。像の銀色が白く透き通った肌色になり、純白の翼が羽ばたき出す。
「ウェルくーん」
「主殿」
「やっほー」
絵の時の降臨と同じセリフです、それは固定ですか。村人Aじゃないんだから、変化を求めます。とか冷静を装って言ってみるが、あきらかに混乱中である。うーん同じ背丈の癒し系セクシー系って不思議な感じがする。なんか倒錯的な魅力。これは予想していたけどパニクる。
「今回の像作成にあたり、協力をいただいた皆さんです。作成を請け負ってくれたドワーフさん、イメージ画を手伝ってくれた領主様、見守り支援してくれた家族と宿を定宿にしているお客さんです」
あらためて、天使さんズに紹介をする、ここに居るのは大事な人達だ。
「あらあら、皆さんありがとうございますー、ウェル君を今後も見守ってねー」
「主殿の側に来れるのは、各々方の尽力によるものだ誇っていい」
「うふふ、素敵につくってくれたわねぇ。ありがとねぇ」
泣きだす人、祈りだす人、呆ける人、凛として見守る人、様々な反応だ。もう適当に仕切っちゃっていいよね。こういうのは自由であるべきだ。混乱暴走どうにでもなーれ系男子なのだ。
「それじゃ一言もらえたので、各自で自由行動!不遜、不敬、破壊、泥酔、等々問題行動が無いようにお願いします」
ドヨドヨドワドワ・・・とするなかヴァルカンさんがリリさんの前に出て声をかけた。
「今回、像作成させてもらったヴァルカンと申すです。像の具合はどうだですかい?」
「この世界に類は無く、細かい部分も稼働し、限りなく人型であった為に受肉できた。感謝するぞ、今後も精進するがよい」
「「「「「おおおおおぉぉぉ」」」」
ドワーフ達の歓喜の重低音が聞こえる、すごいもん作ったもん。天使から認められる職人、それは誉れなんだろうな。リリさんのトークポジションが、人と、人あらざる者の正しい接し方なんだなと、あらためて思う。僕は気を付けないとね。彼女らは天上におわす方々なのだ。
ホウさんは父さんの作った食事を小皿に取りながら、笑顔で父さんと母さんそしてセレネ姉さんに話しかけている。父さんは恐縮しながら照れるという特殊ムーブをしている。きっと食事を褒められたんだろう。
アミさんは椅子に座って、家を定宿にしてる僕の名前を間違えるさんに給仕をさせている。2人ともその立ち位置がむっちゃ似合うと思います。
まあ、お披露目パーティ開催が決定した時点で知ってた。考えないようにしてたって話だよね、こうやって降臨するだろうって事は。
しばらくして天使さんズが戻ってきた。もう満足したのかな?像の取り扱いとかを聞いておかなきゃね。
「楽しかったですー」
「中々しない経験をしました」
「うふふ、下界もいいわねぇ」
「今後は、この像をどう扱っていくべきですか?」
「そうねー、ウェル君の近くにあって大事にしてくれれば問題ないわよー」
「もう少し、像に力が溜まると負担なく降臨できます」
「お買い物とかしてみたいわねぇ」
ってことは、ここに設置で毎日お祈りとお供えしておけばいいかな。やっぱ降臨に力を食うんだ。像に力が溜まるってのは祈りパワーとか信仰心みたいなもんか。買い物は違うとおもいます、買ってもらうだけですよねソレ。
「じゃあ、ここに置いてお祈りとお供えしておけばいいですかね」
「そうねーそれでおねがいするわー。あとあんまりむやみに降臨しちゃダメって前回の絵の時に怒られたから、特別なタイミングで来るわねー」
「主殿の危険は別です」
あはは、怒られちゃったんだ。まあ誰か言ってたけど奇跡の類だもんね。
「わかりました。ってことは、今日はこれくらいで?」
「そうですー、また会いましょうー」
「はい、側使え出来る時まで修練しておきます」
「またねぇ~」
・・・ちょっと無理して来たのかな?ちょっぱやで戻って行ったのは良いんだけど、バイバイの手のままで像が固まっててちょいウケる。
「皆さん、天使様は帰りました。今後、像は此処に置きますので、お祈りやお供えは各自の裁量でお願いします」
「おぅよ!」「はーい」「ここに護衛がいるわね」「はいっ」「わかったぜ」「アミさんの為なら」
今回の降臨で色々思うとこが出来た人も居るようだ、大事にしてくれると嬉しいな。
・・・
・・
・
昼過ぎにはじまったパーティも夕刻が近づきお開きとなった。ステータスの話や上手すぎる絵で緘口令を引いていたのだけど、その意味がもっと重くなったという複数人の感想をもらった。
ちょっと色々ありすぎて、話しても誰も信じてくれねえだろうと、みんな笑っていた。そこは前回の結論と一緒でウェル君は天才児―というおバカな結論でいいのだと思うって言ったら、また笑われた。天才児って言われるのもすげえことなんだけどなぁとのこと。そりゃそうか。
自分として自然に生きると、どうしても目立ってしまうものは仕方ないので、そこで隠れて陰湿に事を進める事は無いだろうと、みんなにあらためて伝えておいた。ようするに振り回すけどよろしくってやつだ。ははは子供特権フル活用なのだ。
それから、この像の場所に領主が護衛を派遣することを父さんと話し合っていた。教会の横やりを防止したいという思惑もあったり、宿屋に物々しさとか悩むとこなので、父さんの判断に任せることにした。
後はパーティに出たみんなで片づけと掃除をして、本日のお披露目会は無事?終了となった。
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