28話 髭撫祭
歌騒動から約3週間が過ぎた。毎日のトレーニングは変わらず行っていて、大分汗の量も減って来た。ジワジワと体力がついてきたみたいだ、それに合わせて一部のスキルと称号も変化していた。
回復がレベル3になった清浄の回数が増えたせいだと思う、追加魔法の解毒を覚えていた。あと工作と描画Lv5で新たに発生していた。最近の製作活動の影響だと思うけど、一気に5はなんか申し訳ない。それと俊足の称号がついてた、これは足腰の強化が影響あったのかと思うと結構うれしい。
午後の時間は自由のまま変わらないので手持ちのハープを弾きながら、のんびりと過ごしている。2度領主が顔を出しに来たが、像作成は終わっていた為、ブライアンと遊んでハープを聞いて帰っていった。ここはヒーリングスポットかな?とか思ったけど、まあ激務だろうし、少しでも癒されて帰れるなら。どうぞおいでやす。ちなみに歌は歌ってない、曲だけです。歌は家族に向けてのものなので家族以外には歌ってません。
像ができるまで退屈だなーなんて考えていると、宿屋方向がガヤガヤとしてきた。
「うぉーい坊主、出来たぞー!」
おおっヴァルカンさんが来た。というかドワーフ軍団が現れた!!のが正確だ。ヴァルカンさんを先頭にドワオドワオドワ子ドワジイドワオと、もうモジャモジャである。
「この坊主が依頼者か」「おやっさん絵を描いたのはこいつでさぁ」「まだ子供」「ドワワドワワ・・・」
ドワーフ軍団に若干の戸惑いが見れるが、軍団は僕が手に持っているライアーハープに目を付けた。
「おうっそのヘンテコなやつはお前が作ったのか?」
「はい、音を鳴らす楽器って道具です」
♪・・♪♪♪・・♪
少し音を鳴らしてみせると、ドワーフ軍団は目をギラつかせて楽器を見はじめたので、近くに居る人に手渡しをした。
「おう、鉄線が反響してるのか」「こいつで鉄線を持ち上げてるのか溝があるな」「ドワワドワワ・・・」
しばらくみんなであーでもないこーでもないと調べていると、少し年配のドワーフが本来の目的を語りだした。
「その道具も魅力的じゃが、今日は天使像じゃ」
「おっおう!そうだった、すまねえ坊主」
ヴァルカンさんの謝罪に、首を横に振って否定する。ちょっとドワ圧に圧倒されて声が出ないわけじゃない、像に緊張しているのだ。ドワワ・・
「で、像なんだけどな、ちょっとデカくなっちまってな。そのなんだ、今は作ってた工人ギルドにあるんだがどうする?ここへ運ぶか?」
デカくなった?サイズが?大きくなったって話か、そのサイズにもよるなぁ。できれば持ってきて欲しいけど。どっかに飾られると、そこに通う羽目になる。
「ちなみにどれくらいの大きさです?」
「おぅ!坊主の身長と同じくらいだぞ」
おおう、120㎝くらいか。えっと100㎝増えてますけど?なんなら1m増えてますけど?材料費かかっただろうに。
「大きくなりましたねー置き場所もあるんで、母さんに聞かないダメかなぁ」
「すまねぇ、指まで稼働するようにしたら、銀がすり減るから緩衝入れたりしたら、デカくなっちまった」
ああっ雑々と可動の話をしたときに、蝶番の様に棒を通す方式や穴の開いた玉を使って内部で引っ張る方式とか色々話したわ・・・そりゃ可動凝るよね。これは僕も悪い。
「あやまらないでください、試みが成功したんですよね?」
「おぅ!完璧にできたぞ」
「なら、像の適切なサイズは120㎝だということですよ」
「わかってるじゃねぇか」「坊主おめぇドワーフか?」「ドワワドワワ・・・」
とりあえず、ここには置けないので納入計画を相談しに宿屋に居る母さんの所まで全員で移動する事にした。
「母さーん、ちょっといいかな?」
「あら、ちょっと待ってね。手を洗ってくるわ」
しばらく待つと母さんがやってきて、僕とドワ軍団をフリースペースへ誘導した。
「今、お茶だしますからね、セレネちゃんお茶を7つ頂戴」
「はーい、おじちゃんたち冷たいのでいい?」
「「「おうよ」」」「はい」「そうじゃな」
パタパタとセレネ姉さんが去っていった。いつの間に御用聞きの出来る範囲に居たのだろう、これも接客スキルなのか。やるなセレネ姉さん。
「僕から説明するね」
「おうっ頼むわ!」
「母さん、ドワーフの皆さんに像の作成をお願いしてたと思うんだけど」
「うんうん、そうね。ヴァルカンさんとこへお願いしてたわね」
「うん、出来上がった像が結構大きくなってさ、僕と同じ位の大きさなんだ。ドワーフの皆さんは置き場所とか、持ってくる日を事前に相談に来てくれたって感じ、母さんどっかに置ける場所ってないかな?」
ドワーフの人数が多いのは、下絵を描いた作成依頼者を見てみたいという気持ちもあるっぽいけど。
「うーん、ウェル君が3人分かぁ」
「はーい、お茶どうぞ。もう一回持ってくるね」
「はい、ありがとね」「ありがとよっ」「かまわんのじゃよ」「ありがとう」
「わが家に置くには少し大きいし、しばらくこのスペースに置くしかないわね。このスペースを空けて、ここに置いてもらいましょう」
「バックスくーん、フリースペースを少しもらっていい?」
「ん、いいぞ。聞こえていた」
「はーい、お茶どうぞ。遅くなってごめんなさい」
「「ありがとよっ」」「ありがとう姉さん」
青髪の少女はパタパタと去っていった、ここで一緒に話を聞いたりしないんだな。もうプロなんだなぁと思う。さすセレ。
「じゃあ、搬入可能な日を教えてくださいね、それまでにスペース空けちゃいますから」
「おぅ!いつでも持ってこれるぞ」
「あら、じゃあ今日には空けときますね」
「儂らも空けるのを手伝うのじゃよ」「「「「おうよっ」」」「手伝う」
宿を入って左手にあるフリースペースの更に左奥に配置を決めて、そのスペースを確保した。防犯上扉前と大通り沿いは避けることにした。天使像を盗むバチあたりは居ないと思うけどね。
「よしっ終わりっと、みなさんありがとうございました、じゃあ何時でも持ってきてくださいと言いたいところですが、明日の午後一番でいいですか?」
母さんが搬入予定を決めていく、明日の午後かぁ時間を少し取ったね。なんで今じゃないんだろ?聞いてみるか
「母さん、なんですぐじゃないの?」
「んふふ、すぐに見たいんでしょ?でも領主様もお手伝いに来てたよね?せっかくだから宿のスペースを貸し切りにしてお披露目しましょ、ドワーフの皆さんにもお礼したいし」
ああっさすが。お披露目パーティみたいにしてお礼も兼ねるのね。
「バックスくーん、明日お料理とお酒を出してくれるー?」
「もちろんだ、というか後ろで聞いてるぞ?」
「「「「「「ははは」」」」」」
大きいのに気配がしない父さん、やっぱり隠密スキル持ちの忍者説が濃厚である。そして小さい笑いを取ってくる。
「えっと、じゃあ領主さんへ明日だって教えないとね、予定大丈夫かな」
「気にしてもしょうがないわ、声だけはかけましょうね」
「それじゃあ、儂のところから若い者を領主邸まで使いにだそう」
「親方さんお願いします、それじゃささっと招待状作りますね、ちょっと待っててください」
家から、紙と書くものを持ってきてフリースペースに戻る。
「ささっと作って、書いちゃうね・・・」
もうイメージは頭にあるのだ、まずは封筒っと、自分から見てダイヤ型に置いて4隅を三角に折って手紙を入れる部分の長方形を確保して完了。そして表になる部分に文字と絵を描く。
なににしよーかな、桜にしよ桜。右上と左下に咲いている桜を描いて、上側と下側に花びら舞ってる感じで、ふぁさぁーって文字枠をおぼろげに囲う感じでいこう。
「ふふふーん、こんな感じかなぁ。で、天使像完成記念パーティ 招待状と書いとけばいいかな」
「母さん、こんな感じで失礼じゃない?」
「ええ大丈夫よ、綺麗な花ね、今度私も何か描いてもらおうかしら」
「なっいったろ?この坊主があの絵を描いたんだぜ!!」
ヴァルカンさんが何故かドヤである、いや身内認定で誇られるの嬉しいけどね。
「多才じゃのう」「すげえ坊主だな」「ドワワドワワ・・・」
あとは手紙なんだけど、これ僕が書いた方がいいのかな?まあ封筒作ってるしいいか。形式ばった話じゃない。上司や取引先の偉いさんへ宛てた会合の出席依頼みたいな感じで書けばきっと外れないだろう。
「薫風の折、領主様におかれましては、ますますご健勝のことと拝察いたしております。さて先般より尽力をいただいておりました天使像が、この度完成の喜びと相成りました。差し迫ってのご連絡となり恐縮ですが、明日の午後より記念の会を開催したく存じます。つきましては・・・」
「ウェルくーーーーん!まってーまつまつ!」
「坊主よぅ、そりゃなんだ」
「・・・ウェル」
「学も嗜んでおるのじゃな」
「えっと・・・偉い人への急な出席を希望する文章?」
「ウェル君、5才児はそんな風に書かないわ」
「じゃな」
「「「「だな」」」」
「・・・そこじゃない」
なんか書いちゃった。これ大和魂だよ恐らく、昭和以降は大和魂と書いてサラリーマンと読み、平成からは社畜と読むのです。溢れ出す庶民力。新橋にあるSLの機関室に日本の魂があると思います。
「まぁ書いちゃったからいいよね!!母さん封して来てーお願い」
「そっそうね、封しちゃうわね」
パタパタ、母さんが受付カウンターの所に移動した。ふふふ、むっちゃゴリゴリ。
「坊主・・・ごり押しでうやむやにしたな」
「へへへー、そんな力技も時には必要だと思います」
「くっくっくちげぇねぇ、坊主は規格外だからいちいち躓いてたら話がすすまねぇもんな」
「さっ封もしてきたわよ、それではこちら領主様までお願いします」
「うむ、任せておくのじゃ」
明日の納入と完成記念パーティの段取りが粗方ついたところで今日は解散となった。帰り際に母さんがおじいちゃんドワーフに対価相談していたが、今回は試作ということもあり無料で落ち着いたようだ、そのかわりに美味しいお酒を頼むと言われて2人で笑っていた。ほんと有難うございます。
・・・その日の夜、一枚の招待状を眺めながら、わずかに恍惚とした顔をしながら優雅にワインを飲む貴族が居たとか居ないとか。
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