27話 歌で世界を救うとか思ってるタイプ
昨日帰ってから、父さんと母さんに像作成をヴァルカンさんが行ってくれる旨の話を伝えた。こういうのは伝えないと大人同士の付き合いもあるかと思うのです。
そして今は午前のトレーニング中に考え事、足腰の強化を行いながら午後の予定を考えている。少し前に決めたやりたい事を思い出してみると、依り代と世界の勉強と音楽と強くなりたいだったと思う。依り代はお願いして世界の勉強は徐々にということなので、今トレーニング中って思うと、手がついて無いのは音楽だ。
ふむ、音楽かぁこの世界に来てまだ触れていない。転生直前にホウ先生に教わった内容だと祝詞とかの宗教系でしか、音楽が無いっぽいので楽器とかの発達もして無いのだろう。
よし、作ろう。簡単な楽器なら、木と鉄の糸があれば出来るはずだ。午後の予定も決まったので、とりあえずしっかり足腰の強化を行って午後に備える。
「母さん、像作りが無くなったから、午後は少しおもちゃを作ってみようと思うんだけど」
「なあにぃ?またブライアンのおもちゃ作るの?キャッシングロッドだっけ、あれいいわよね」
「ううん、今度は僕のおもちゃなんだ」
「ウェル君のおもちゃ?なにを作るのかしら」
「へへへー、できるまでは内緒。失敗しちゃうかもだしね」
「そ・れ・で、今後は何が欲しいの?高いのはダメよー」
「鉄の線と結構厚めの木の板が欲しいよ!」
「木は倉庫にあると思うわよ、あとは鉄の線だっけ?ドレス直し用のワイヤーが余ってると思うけど、それでいいかしらね」
鉄線ないかとおもったけど、そうかドレスの中にある鳥かごみたいなやつで使うんだ。庶民は鳥かご程じゃなくて服に入れたりもするって感じかな。
「うん!それでおねがいします」
「ふふふ、現金な子」
母さんから倉庫のカギと鉄線をもらい、工具を使う時の注意を受けて裏庭に向かう。今回の作業は若干行き当たりばったりだ。イメージとしてはライアーハープを想像している。手で持つタイプの小型のハープで立体構造も無くてさくっと行けそうな気がしたのだ。
木は頑丈すぎても歪みそうなので、程良く固くて乾燥してるのを倉庫から探した。ちょっとズルして鑑定を使ってアカシア系を選んだ。たしかハワイアンマホガニーとかはその種類だったような。曖昧な記憶頼りだ。
倉庫近くに作業台を引き出して作業開始だ。遠くまで出すのは疲れるからしないのだ。
早速、四角い木材に切断用の線を引いていく。
四角い板に少し歪んだ卵型みたいな線を描いていく、歪んでる部分は足の指さきみたいな感じだ。
卵の上部側に鉄弦を弾くスペースとして穴をあける予定の場所を丸く描いていく。
底に近い部分に鉄弦を持ち上げる為に平たい定規みたいなものを刺す場所を描いていく。
大きな加工はこんな感じだろう、なにせ思い付きで作ってるから正解なぞ知らぬのだ。
大きな形を見てみるとモヒカンをしている生卵である。モヒタマ。モヒタマ名前かわいいな。
下書きとイメージ通りに作成していく、穴をあけるときに苦労するかなって思ったけど、小刀で削り込んで内側を削っていったらすんなり出来た。弦を持ち上げる定規みたいなのも弦を仮合わせしながら溝を掘っていく。鋲に鉄線を巻き込んで打ち込んだら出来ちゃった。おほほほ出来ちゃった。どうかな、これどうかな。
弦を指で弾いて音を出してみる、か細く儚げな音が出る、なんという出来の良さ。強めに弾いても外れないし強度も十分ある。
よし!できた。後は木で怪我をしないように、布でこすってトゲトゲ無くしとこ。
ははは、所用時間2時間くらいだと思う。あっという間にできましたー。
あとは雰囲気で鳴らして、音を覚えて弾けば、楽器として成り立つね。しばらく手慰みに弾いておこう。練習しながらついでに詞でも考えておくか、楽器のお披露目と一緒に軽く歌ったら、父さんも母さんもセレネ姉さんも喜ぶかもしれない。ならば次は作詞活動だ。ここは家族への歌を一曲つくろう。ふふふーん。家族を愛する男ウェルギリウス5才なのだ。
と、そんなこんなで歌が出来た。こういうのは素直な気持ちを書き連ねるだけなのだ。きっと。たぶん。
(最初は、アダージョで60くらいを目指して穏やかな曲調)
おはよう そう言って 微笑む顔に見守られ
すこやかに えがおで 育っていく
おおきく ゆるがない 愛情に支えられ
ぼくは きょうも おとなになっていく
(ここからは、モデラートかアレグロで120くらいを目指して軽快な曲調)
いつか知る 愛を育む 大事さ
いつか知る 世界の 大きな愛情
いつか知る 父と母の 大きな愛情
(ここからは、アダージョで60くらいを目指して穏やかな曲調)
いまは ただただ 育っていこう
いまは ただただ 感じよう
大きな 父と母の 愛情を
おやすみ 今日も ありがとう
どどどうだろう、これは恥ずかしいかもしれない。闇に葬るか?まてまて試しに歌ってみよう・・・評価が変わるかもしれない。
♪・・♪♪♪・・♪
あれ?結構イケるんじゃない?(気恥ずかしさで混乱中)
うおおおお、タイトル決めるしかない。紙に書き写してっと、タイトルねえ。家族愛に名前なんて付けれるかって話だよな。ってそれでいいじゃん。
「愛の名前」これで行こう。
・・・
・・
・
ウェルギリウスは知らない、これが後に子から親へ歌うものとして定着し、親からの旅立ち際に定番で歌われる歌となり、布団の上で枕に顔をうずめて転がり回る未来が長くやって来ることを。みたいな事にならないよね?うんならない筈だ。
よし今晩ご飯が終わったら父さんと母さんとセレネ姉さんに聴いてもらおう。そして闇へ行くかを決めよう。
――――
はいご飯の時間が終わりました、父さんの美味しいご飯も今日は味を感じませんでした。
「ウェルどうした?」
「ウェルくーん?」
「ウェル君おなかいたい?」
家族に心配をかけている、これは本意じゃない。ええい南無三っ。
「実はね、こんなものを作ったんだ」
そういってお手製のライアーハープを出す。
「なになに?お昼に言ってたおもちゃ?」
「ん、それがどうしたんだ?」
「これは楽器といって音を鳴らすものなんだけど・・・」
「わー変な形」
セレネ姉さんの驚くと幼児退行ムーブが出ているが、愛でる余裕が無いのだ。ドキドキなのだ。
「こうやって音を鳴らして楽しむものなんだ」
♪♪♪♪♪~
ハープっぽく一気に音を鳴らしてみる。
「すごいわね、素敵な音がなるわ」
「すごいすごいね、ウェル君」
「ん、そんな顔をする必要はないぞ」
「それでね、楽器も出来たから、せっかくだからと曲を作ってみたんだ」
「曲ね?それが。どういうものかわからないけど・・・」
「言葉と一緒に音楽を鳴らすやつだよ、そう教会とかで聞いたことあるかもしれない」
「ああ、あるな」
「うんうん」
「すごいねー」
「それで日ごろの感謝を込めて、家族に向けて曲を作ったんだけど。受け入れてもらえるか不安でちょっと落ち着かなかったんだ」
「んーよくわからないけど、私たちへの曲?なのよね。別に不安に思うことは無いわよ?家族でしょ」
そっかそうだね、それを想って作ったんだからおかしいことないや。
「よし、そうだね。聴いてもらっていいかな?」
「ん、わかった」
「うんうん」
「へへーなんだろう」
落ち着いて、さっきまで練習してた気楽な気分で・・・よしっ!
♪・・♪♪♪・・♪
おはよう そう言って・・・♪
・・・♪今日も ありがとう
♪・・♪♪♪・・♪
どっどうかな?うわっいつの間にか宿の常連さん達も聴きにきてた。これはどうなんだろ。何人かは下を向いて震えてる。うーどっちだ。
「ウェル君・・」「素敵」「・・・ウェル」「すごい」「言葉と音が折り重なって」「不思議」「フォルトナさんの子供になった気がした」「愛と感謝を聴いた」「私ここの子になる」「銀の詩人」「これは誰に伝えればいい?」「素敵だわ」
大丈夫なのかな?父さんと母さんを見ると、照れくさそうな笑顔だ。瞳が少し揺れてる、セレネ姉さんはキラッキラッの瞳を向けてる。よし、たぶん大丈夫だ。聞いてみよう。
「どうかな?」
「もうっ言葉もないわよっ!」
そんな母さんの言葉をきっかけに、後はもう大混乱だった。抱き着いてきた母さんと、頭を撫でる父さんに、楽器を試すセレネ姉さん。
宿の常連さんにいたっては、良い物を見たとか面白い物を見たとかでチップを出そうとしたり、詞の中身を聞き出して意味を聞かれたりと嬉しいやら恥ずかしいやらで、もうわけわかんなかった。あっチップはお断りして宿を贔屓にしてねって終わりにしました。
・・・歌は愛といった緑の子。あなた正解。わたし痛感。
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