26話 依り代の行方

 「こんにちはー」


 鍛冶屋の中に入り、声をかけると前回と同じように狐の店員さんがやってきた。


 「こんにちは、あらいらっしゃい。今日はどうしたの?」


 像の下絵が出来た事、冒険者を使ってそれを持って来た事を伝え、店内に入れていいか許可を取った。


 「あらあら、出来たのなら取りに行きましたのに。どうぞ運んでください」


 外で待機してる冒険者に搬入をお願いする、搬入の最中に完了確認を求められたので自分の名前を書いておいた。


 「冒険者さん、ありがとうございました」


 「こちらこそ、ありがとう。また依頼してね」


 冒険者が引き上げたので、狐の店員さんにお願いしてヴァルカンさんに絵を見てもらうことにした。店員さんが奥に行きヴァルカンさんを連れて来る。あいかわらず髭が恰好いい。


 「おう!坊主、今日はどうした?」


 「はい、像の下絵が出来たので持ってきました。最終的にどうなるかが同じだと楽かなって思って」


 「たしかにそうだけどよ、坊主は絵なんか描けたのか?」


 「今回にあわせて、がんばって描いてみました。素人の下手な絵ですけど。」


 「がっはは、その年でプロなら俺はメシも食えねえよ」


 「ということで、ここに持って来ました。見てみてください」


 「ぉう!じゃああれだ時間かかっちまうだろうから、飲み物でもだしてやれ」


 「はーい、ウェル君はお茶でいい?」

 「コンコン?」(猫さんはミルクでいい?)


 「はいっお願いします」

 「にゃー」(ありがとにゃ)


 ヴァルカンさんが布をほどいていく。そして途中で手が止まったかと思うと、すごい勢いでほどきだした。


 「おい!なんだこりゃ」


 「なんだこりゃ、こんなもの・・・」


 ヴァルカンさん驚いてる、どやぁああ、結構描けてるでしょ。にしても語彙が少なくなってるドワーフとか、新たな萌え枠かな。


 「前と後ろと横からか、こりゃダメだ」


 ダメ?結構気合入れて描いたんだけどなぁ、ドワーフの品質管理は厳しい。


 「はーい、お茶とミルクどうぞー」


 「あらすごい絵ね、これ坊やが描いたの?」


 「そうだよ、でもダメだって今ヴァルカンさんが言って・・・」


 「ちげー!!!こいつはすげえ。ダメなのは俺だ!この仕事は俺だけじゃこなせねぇ」


 「親方と工人ギルドに連絡だ!!」


 「すまねぇ坊主、この仕事は預からせてくれっ!!!」


 ヴァルカンさんが頭を下げてる。親方?工人ギルド?預かる?どうゆうこと?


 「ほらほら、坊やが困ってるわ、ちゃんと説明してあげて」


 「そっそうだな!坊主の絵をみたら出来上がりが想像できたんだ。だがな!こいつは俺1人じゃ絶対つくれねえってのも同時にわかっちまったんだよ!!」


 うん?ダメだってのはそういう意味ね。わかった。ここまで理解した。そして圧すごい。


 「だから俺の親方、そう今は引退気味でたまに偉いさんの依頼で作り物するだけなんだが、すげぇ人なんだ、その人と工人ギルドから知り合いの腕利きを呼んで最高の物を作らせて欲しいっ」


 おおう、モノづくり魂みたいなものに触れたのかな・・・圧すごい。


 「うっうん、いいんだけど。僕子供だからすごい人達に支払うお金なんてないよ?」


 「それは大丈夫だ、誰にも金の話なんかさせねぇ」


 「わっ頭を上げてください、わかりました。ただ像はお祈りに使うので渡せませんがいいですか?」


 「おう!当り前よ、お前さんのものだ」


 うん、それならいいや。作るのは任せちゃおう。って像のモデルからかな?そこは聞いとくか、にしても、さっきから後ろでは狐の店員さんとブライアンが傍観者トークをしている。おのれ傍観勢め。


 「コンコン」(またはじまっちゃいましたね)

 

 「にゃーん」(ウェルはいっつもこうにゃ)


 「コン」(そうなんですね)


 「にゃー」(なんか眩しいのとか出てくるにゃ)


 「にゃー」(騒々しいやつにゃ)

 

 「にゃー」(お昼寝の邪魔ばっかりにゃ)

 

 「コンコン」(ふふふ、楽しそうでいいじゃないですか)


 「にゃんにゃーにゃ」(悪い奴じゃにゃいから許してやってるにゃ)


 この2人は平和なのな、なのな。背中にネジがついてるくらい平和なのな。まあそれは良いとして像作成の分担範囲だけ聞いておこう。


 「で、像を大規模?に作成するのはわかりましたが、僕は何をしましょう?」


 「おぅ!この絵までで後は全部任せてくれ」


 「残りは作り上げちゃうってことですか?」


 「そうだ!頼むぜ」


 「わっわかりました!こちらこそお願いします」


 結局、像は全部作ってくれることになったとさ。これ関わった人の間で噂になったりするのかな?一緒に作って噂されたら恥ずかしいし、みたいな事を言う鬼畜幼馴染が心に住んでいる僕は、一応緘口令をお願いしておく。


 「一応、僕が依頼であることは明かしてもらっていいのですが、吹聴だけはしないようにお願いしますね」


 「おう?なんでだ」


 「絵を描いてくれって人が出てきたり、怖い人に攫われたりとかあったら困るので」


 「ああ、坊主はまだ5才だよな、そうかそうだな。そこは気を付ける」


 急転で像に関しては手離れしちゃったな。お願いした手前だけど、ざっくりとでもいいから完成予想を聞いておこう。


 「ちなみに正確じゃなくていいんですが、完成までどれくらいかかると思います?」


 「そうだな、早くて2週間おそくて1か月ってとこだな」


 「わかりました、急ぐものではないので納得いくものをお願いします」


 それから、また絵について語ったり、像の仕様や目的などを再確認して宿屋に帰った。今度は送ってもらわなくていいように、時間をちゃんと気にしたのだ。

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