24話 荷物運搬を頼んじゃおうぜの回

 馬車が見えなくなった所で、一緒に見送りをしてくれた母さんに声をかけられた。


 「今日はどうだった?仲良くなれた?」


 「敵対視されていた従者の人とも仲良くなれたと思うよ」


 「そう、良かったわね」


 優しく頭を撫でてくれる。こうやって実は気にしてるとこを見逃さないのは、さすが母さんだと思う。その後は絵を描いたことなんかを話しながら宿屋に2人で入り、母さんは仕事に戻った。僕はフリースペースのテーブルで一息をつくことにした。ちかれた。


 父さんがお茶を入れてテーブルへとやってきた。夕食の仕込みも終わったらしい、母さんと同じように仲良くなれたか?って言ったのには思わず吹き出しちゃった。そこで明日の予定を伝えて、ついでにお願い事をすることにした。


 「父さん、明日なんだけど、今日書いた下絵をヴァルカンさんへ持っていきたいんだ」


 「そうか、ん?なんだ手伝いが必要か?」


 「うん、書いてみたら結構多くなっちゃった。ちょっと1人じゃ運べないなって」


 「んー、人手か。どれくらいある?」

 

 「これくらい(手をひろげて30cm×30㎝)が10枚くらい」


 「そんなに描いたのか、確かに1人では無理だな。フォル、明日の予定はどうだ?」


 「んー何々?明日?いつも通りで予定はないわよ」


 「ウェルの書いた絵を鍛冶屋まで運ぼうと思ってな、額に入って10枚ほどあるらしい」


 「沢山描いたわねぇー。大事なやつなのよね?・・・宿を休む?・・ううん、せっかくだし、ギルドにお願いしちゃおうか!ウェル君に色々な人と交流もしてもらいたいし」


 「客もいるしな、そうするか。手配は任せる」


 「はぁーい、明日よね?絵画の運搬で家から鍛冶屋さんまでね。ウェル君も一緒に行くんだよね?」


 「うん、ヴァルカンさんに絵の説明と今後の話も少ししたいし、それとブライアンも一緒だよ」


 「そうね、ごめんなさいブライアンもよね。じゃあ明日の午後からかしらね、午前中はお庭でなんかするんでしょ?」


 「うん、体づくりをするよ」


 「明日の午後、絵画の運搬、鍛冶屋まで、5才の男児と猫が同伴っとおーぼえた」


 一言毎に人差し指を右に回して、最後に人差し指を外向きに左回しながらの記憶術だ。動作と記憶をセットにした方法だ。昔、本で読んだことがある。ふむ母さんはかわいい、父さんの一目ぼれも頷ける。こういう細かい仕草がきゃわわである。


 「じゃあ依頼に行ってくるねー」


 「フォル!待った。ウェルも連れて行くといい」


 おぉ、ついに行っちゃいますか。伝説の冒険者ギルドへ!ん?冒険者かな?商業かもしれないな、まあ着いて行こう。


 「そうね、いらっしゃいウェル君」


 母さんがエプロンみたいなものを脱いで、手をひろげてる。とびこめー、かわいい母さんにとびこめー。ははは、家族が大好きである。


 母さんと手を繋いで、夕方の街中をはじめて見る。異世界に着た筈なのに、時代が違うのに、昭和の気分を夕暮れの建物で伸びる影に味わいながら歩いた。


 「母さん、ギルドってどこに行くの?」


 「んっふふー、さぁどこでしょうかー、すぐに着くから楽しみにしておきなさい」


 目的であろう場所に近づいた時に、煙が立ち込めていた。火事かと焦って母さんを見ると、笑顔で頷かれた。どゆこと?燃やしとけ?


 「うんうん、びっくりした?あれはね、虫よけの煙よ」


 近くになってきたので、よく見ると草花を燃やしていた。ああ!あれは菊か、たしか除虫菊ってあったよな。蚊取り線香のやつ。あれだ、あれを燃やしてるんだ。


 「除虫菊?を燃やしてる」


 「そう!よく知ってるわね、かわいい花なんだけど、燃やすと煙で虫が来ないのよ。冒険者って色々な所にいくでしょ?だからね、持ってきちゃうのよ色々とね」

 

 ダニ、ノミ、シラミとかもかぁ、煙の近くで革製の防具を煙で燻している人もいるね。大変なんだなぁ。

 

 「母さん、あれ清浄でなんとかなるのかな?」


 「なると思うわよ、たしか。そういう意味ではウェル君は苦労しないかもね、お仕事になるかもよ?」


 「ぇー虫取り屋、1回いくらで商売しちゃうの?やだよーなんか」


 「「あははは」」


 ギルドに着いた、通気性と搬入時の不都合を考えたのか、入口に扉は着いていなかった。意外と綺麗な作りで、広さは家の宿屋の倍?もうちょっとあるかもしれない。普通の民家の8倍以上ある広さだ、かなり広い。


 打合せとかに使うであろう、テーブルと椅子が数セットと、郵便局とか銀行みたいな待ち受けカウンターがあるだけだった。こう飲み屋とか食事処も併設されてない。そりゃそうか、血なまぐさいもの持ってくることもあるんだもんな。


 「こんばんはー」


 母さんが馴染みの様子であちこちに挨拶しながら受付に進む。


 「こんばんは」「おっフォルトナさん依頼かい?」「こんばんはー」「あれが銀の天才児」「あらぁ食べちゃいたいわぁ」「私が受けざるをえない」「こんこん」


 返事が飛び交う、釣られて僕もペコリとしておく。一部こわい低音ボイスがあったが気にしないようにしよう。例の子は此処にもいたブレない。ちょっと驚きと戸惑いと怯えの中で固まっていると、母さんが手を引いて受付まで引っ張ってくれた。


 「こんばんは。明日の午後に実行してもらいたい街中での依頼を出したいんだけど、大丈夫かしら?」


 「こんばんは。はい、大人数を要する依頼で無い限り大丈夫ですよ」


 「良かった。じゃあ、お願いをするわ」


 「はい、内容をお願いします」


 受付のお姉さんは、メモらしきものをカウンターの下でゴソゴソ出している。それを待ってから母さんが依頼を語りだした。


 「依頼をどうぞ」


 「依頼内容は、絵画の運搬で、場所は宿屋から鍛冶屋まで、絵画の枚数は10枚で5才の男の子と猫が同伴します。その為、子供と猫の安全な移動も依頼に含みます。よね?ウェル君」


 「うん、絵画一枚はこれくらい(手をひろげて30cm×30cm)で額縁に入ってるよ」


 母さんがなでなでしてくれた、ふぁーぷるすこふぁー。


 「はい、承りました。鍛冶屋までの絵画の運搬で護衛つきですね」


 「失敗条件は絵画の破損、紛失、同伴者の怪我や誘拐としますが、よろしいですか?」


 「そうね、それでお願い」


 「それでは、依頼金は・・っとここだ・・・金貨2枚とします」


 「はい、こちらでお願いします」


 「母さん、ありがとう」


 母さんが金貨2枚を出したので、お礼をいっておく。金銭価値については、ホウ先生に以前教わったな、金貨1枚で1万くらいの感じだった。ってことは2万円くらいか、運搬と護衛としては妥当なのかな?急な話だし、そこそこ割高でも仕方ない。


 「気にしなくていいのよー」


 と、にっこり笑ってくれる。うーん、母である。抱き着いておこう。


 などと、2人でやりとりしていると、受付さんが紙にまとめた依頼をコルクボードっぽい大きな板に張り付けに行った。パタパタ音がしそうな走り方の人だ。


 「明日の午後に実行する依頼が入りましたー。ご都合の良い方は検討くださいー」


 やや大き目の声がギルド内に響いたタイミングで、母さんと一緒にギルドを出ることにした。後の処理はプロにお任せしよう。あっそうだ、運搬なら生はダメだね。帰りに絵に巻く布を買ってもらおう。


 「母さん、ごめん、絵を巻く布を忘れてたよ」


 「あらーそうね、額に入った絵だもんね。母さんも忘れてたわ、じゃあ大き目の布を買って帰りましょう」


 「何度もありがとう、母さん」


 「もう、手間もお金もかからない子だったら、バックス君も母さんも困っちゃうわ。そんなに遠慮しないでいいのよ」


 訂正しよう、母さんはきゃわわで母なだけじゃないのだ、海なのだ。


 「帰ったら絵を布で包んでおきましょうね」


 「うん、上手に描けたから父さんと母さんと姉さんにも見て欲しいんだ」


 「ぉー、うちの子てんさーい。期待しちゃうね」


 ・・・なんて話をしながら、ふたりでのんびりとお家に帰った。

 

 「ウェル君、ギルドの依頼も宿屋からにしたし、絵をここにもってきちゃおうか?」


 宿についたその足で、そのまま絵の移動をするらしい、まあ異論はないのです。


 「そうだね、家の玄関脇に置いてあるよー持ってくるね」


 「10枚あるんでしょ?私たちも運ぶわよ、バックスくーんただいま。そのまま絵を取りに家に行ってくるね」


 父さんが、調理場の奥から顔を出した。

 

 「ん、わかった。置く場所の確保と布を切れるようにしておこう」


 「よろしくねー、じゃあセレちゃんも一緒に取りにいこっか」


 「お母さんウェル君、おかえり。うんわかった、残りのお片づけは後でする」


 「ただいま。セレちゃんはしっかりものね」


 「姉さん、ただいま、お手伝いお願いします」


 ちゃんと挨拶から入るセレネ姉さんは、いつも安定稼働である。そして母さんに褒められて照れている仕草も抜群にかわいい。さすセレ。


 3人で移動してると、ブライアンが歩いて来た。


 「にゃー?」(ごはんかにゃ)


 「母さん、ブライアンがご飯なの?って聞いてる」


 「ごはんはまだよー、もう少し暗くなってからね」


 「もう少し暗くなってからだってさ」


 「にゃーうん」(わかったにゃ)


 ご飯ではないと判明したら離れていった、なんという現金な子。最近バタバタしてかまってないなぁ、でも猫ってかまわないほうが幸せな風にも見えるな。後で聞いてみようと心のメモに書いておいた。


 「どっかいっちゃった」

 

 「ごはんじゃないってわかったから散歩なのかもね、さってこの辺にあるのかな」


 「うん、そこのところにあるよ」


 玄関入ってすぐの所に、縦横と交互に重ねて5枚づつ2山で置いてある所を指さして教える。


 「うんうん、ってなにこれ豪華な額縁じゃないってすごい・・・・なにこの絵」


 「うわぁあああ綺麗。ウェル君が描いたの?すごいすごい」


 「えへへーがんばりました!」


 「頑張って描けるものなのね、うちの子てんさーいとか冗談言ってる場合じゃなかったわ」


 「この人達みたことあるー教会でみた人達だよねー」


 「そうそう天使のホウさんとリリさんとアミさんだよ」


 呆けてる母さんと驚きで若干幼児化している姉さんがいる。宿屋の手伝いをはじめて、お姉さんらしさに磨きがかかってきた、昨今で幼児化は割と強めのかわいいです。


 まあぶっちゃけステータス頼りのチートで描いたので、驚いても仕方ない。日々、画家として努力してる方々には申し訳ない気分だけど、これは手を抜く代物じゃないしねぇ。チート頼りの非実力派という謎ポジションでなんとも言えない。


 「母さん、運ぼう?」


 「そっそうね、慎重にね。慎重に運びましょう」


 「額縁が頑丈だから、怖がらなくていいと思うよ」


 それから10枚を3人で3往復かけて運んだ、1枚は色見本だからと2枚同時に運んでもらった。母さんは渋ったが、ささっと運んで、くるくるーって巻きましょう。まさに巻きでいきましょう。


 宿に続々と届く絵を見て父さんは、運搬を雇って正解だったなと言っていた。僕もそう思う、正直これは1人では無理だった。後は絵を布で一回巻いた後に風呂敷つつみのように四方から伸びた布を結んで明日の準備は完了だ。


 描いた絵について、父さんと母さんとセレネ姉さんなにかしらの密談が行われていたが、僕の「あとで家族の絵も描くね、宿屋に飾ってね」の一言で密談は終了となった。


 別にストレートに頼んでくれれば描くのにね。家族の絵は数年に一度や大きな祝い事の度に書いてアルバムみたいにしたらちょっと楽しいのかもしれないね。

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