22話 高原(裏庭)のお嬢様

 テコテコと2人でテーブルを倉庫から運び出し、庭を見ると。


 はいっ見覚えのある絵面でーす!


 「にゃぁーーー」(つかまえるにゃあ)


 「きゃーーー」


 「にゃぁふうぅーー」(奪うにゃあれにゃー)


 「わわっーー」


 猫と淑女の大運動会がトラックにて絶賛開催中である。


 「嬉しそうな笑顔ですね、にっこにこです」


 「笑顔ですね」


 「とりあえず、ベンチまで机運んでしまいましょう」


 ベンチ前にテーブルを設置し、ガタつかない位置を調整したり、テーブルの足をよけて踏み固めたりしていると、マイヤさんがブライアンを上手に釣りながらこちらに戻ってきた。


 「うふふ、これ楽しいですね、手作りですか?」


 「そうですよ、キャットフィッシングロッド略してキャッシングロッドです」


 「猫さんと遊ぶのは久しぶりでした」


 「ブライアンおつかれー、ちょっと綺麗にするよ」


 「にゃー」(奪ってやったにゃ)


 「清浄」パワワァ


 マイヤさんが、満足そうな顔でタオルで汗を拭きとりながら聞いてくる。受け取った従者は控えるように後ろに移動した。今後の会話は主の領分ってことなんだろう。

 

 「清浄使えるんですね、回復系は教会でお布施しないとかけてもらえないんですよ」


 「そうなんですねー、これいいですよ肌綺麗になりますし、小さな傷なら消えちゃいます」


 「そうなんですか!!持ってる人が少ないスキルなので実体は知りませんでした」


 「時間ある時にレベル上げときます、女性垂涎の美白とスキンケアできちゃいますしね」


 「是非におねがいします」


 将来はスキンケアのお店をしてもいいかもしれない。リンパがリンパが言って、ぐへへへとかはじめてもいい、わけはない。捕まりそうな事は僕は考えない。絶対にだ。


 「さて、はじめちゃいましょうか。紙をお願いしていいですか?大枠の流れを説明しちゃいます」


 紙に先ほどのざっくり考えた像作成の流れを簡単なステップチャートで描きつつ説明する。


[1.下絵を先に書く]1日

   ↓

[2.骨組み作る]2日

   ↓

[3.粘土で荒い肉付けをして人型を作る]1日

   ↓

[4.人型を削って各像に近づける]3日

   ↓

[5.追加パーツの羽とランスを作る]2日

   ↓

[6.以降は鍛冶屋のヴァルカンさんに像をみせて仕上げを決めていく]


 基本はさっき考えた、こんな感じで行こうかなぁと思う。


 「今回作る像は、まずマイヤさんも教会で見た天使の3体を考えています、製作は数日に渡ると思っています」


 「わかりやすいですね、なにか学園で教わっているみたいだわ。ちなみに、この1日とか書いてあるのは所要日数であってるのかしら?」


 「そうです、だいたいこんなことをしてこれくらいかかりますよってのが先にわかると遊びに来る予定も立てやすいかなーって」


 従者さんは後ろでメモを取って書き写している。まあだいたいなので大体でいいですよーと思ったりしたけど真面目な顔なので任せておく。


 「今日は絵からはじめますね、紙と書くものをお願いしてましたけど出してもらっていいですか?」


 「はい、こちらになります」


 結構上質な紙である、製紙は発達してるんだ。ああ技術や機械がなくて魔法でまかなえるのか仕組み知らないけど。描くものは、見たことないクレヨンのようなパステルのようなものと、鉛筆だね。もうそのままだ、色も複数あるや。ベースは鉛筆っぽいものを使おう。


 「絵は最終的に立体にする元なので、正面から見た図と後ろから見た図と横からみた図の3枚を書こうとおもってます」


 「本格的なのね」


 「心を込めて作ってくださいね、とお願いされちゃいましたからね」


 「そうでしたね、ちなみに絵心はあるのですか?」


 「うーんどうなんでしょう、自分ではわかりません。じゃあ一枚書いてみましょうか」


 そういいつつ、ベンチで寝ているブライアンを描いてみる。うぉいDEX99やばいな写真みたいになってきたぞ。これどうすんだ。チラッと2人をみると固まっている。ふはは5才の人間国宝じゃよ。


・・・描くこと5分位


 「こんな感じでかけまーす」


 「これはすごいわね、言葉がないわ」


 「すばらしいです」


 ほほほ、もっと褒めていいんでゲスよ。。。すみません、さっきDEXあげたからです。いずれは上がるでしょうから先取りってことで許してください。従者さんは、控えているのを忘れて声を出してしまっているが、気にしないことにしよう。


 「この絵って、いただいても?」


 「もちろん、私が描いたのでよければ。というかせっかくだからお2人も描きましょうか?」


 「「是非に!」」


 「では、少々お待ちください。そういって、いそいそと2人で宿屋に向かっていった」


・・・・

・・・

 「にゃー」(お着換えしてくるに決まってるにゃ)


 「ですよねー」


 「あったかいね」


 「にゃー」(にゃー)


 ブライアンは返事が面倒になると、にゃーで終わりにする。もう寝るって事だろうほおっておこう。

・・

 2人が戻ってきたメイクはバッチリだ!


 「お2人ともお綺麗です。背景とかは別のを描きますので、そちらのベンチに座ってください」


 「お綺麗だなんて」「・・・どうしましょう」


 必殺の雪崩ショタ式お世辞ボムという、3カウント入らなそうな技を決めてから無心で描く。なぞのクレヨンもつかってみた。


・・・・・描くこと30分位


 「お疲れさまでした、描けました」


 マイヤさんは、すごく高い滝から水が落ちている山間の避暑地を背景にして、高台の滝が見える場所に立って、吹き上がった風に帽子が飛ばされないように押さえている絵を描いた。麗しいお嬢様が潤うなんてね。しかし我ながら髪の動きと水しぶきのきらめきが綺麗に表現されていると思う。


 従者さんは、舞踏会の会場で銀のトレイにワイングラスを持ってマイヤさんに給仕している姿を描いた、姿勢の良さとお嬢様への敬愛が距離と仕草で出ていると思う。少しだけ傾いたワイングラスの波が従者さんへ向いているのが、こだわりポイントだ。


 すこし距離をとって描いていたので作成中の絵は見えていなかったと思う。渡すまで見えないようにしておこう、ふたつとも背景がまるっきり違うことに驚いてくれる筈だ。


 「こちらですー」


 「まあまあまあ・・・」


 「どうぞー」


 「えっお庭が・・・」


 はははは、5才の人間国宝ここに爆誕じゃい。って喜んでくれたかな?言葉もないという感じだけど。


 「お友達になった記念につたない絵ですが、貰ってくれると嬉しいです」


 「わたしがいます・・・いったことの無い綺麗な風景に私がいます」

 「お嬢様と私がいます・・・側にいます」


 ずっといたりそばにいたりといすぎの歌のようです。まあ喜んでくれているみたいなので落ち着いたら戻ってくるだろう。とりあえず天使さんの絵をはじめよう。

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