21話 改心の一撃
庭にやってきた領主は、コルセット一体型の少し黒っぽいワンピースである。肩から袖口へ向けて白いレースで模様が入っていて手首で飾りが大きくなっている。美人やなって思ったりする。
袖口は広がっており素敵なお召し物である。汚しちゃっていいのかな?ん?なんかニュアンスまずいな。汚れてもいいのかな?
あっ従者は変わらず執事服です。地球感覚が抜けないので、女性でスーツを着てるのはカジノとかの給仕係イメージです。まあ護衛も兼ねてるんだろうから、ドレスは無いだろうというのは分かるのです。
「こんにちは、というか。おかえりなさい」
「おかえりなさい。いいですね、普段と違って新鮮です」
ああっ普段は、おかえりなさいお嬢様やご主人様なんですね。気安い家族挨拶が無いって少し寂しいだろうな、タイミングがあったら言っておこう。
「はじめに断っておきますけど、友達として結構軽い感じで話しかけるつもりなのでご理解くださいね、あっもちろん公的な場とかがあれば弁えますが」
「はい、それでいいです。そっちがうれしいです」
「では、呼び方候補からです」
近くにあった、いい感じの
ガリガリ・・・
1.今まで通りの領主様。
2.少しくだけてマイヤさん。
3.慕ってマイヤ姉さん。
4.かなり慕ってマイヤ姉。
5.同い年?マイヤちゃん。
いい感じの
「候補とニュアンスはこんな感じで考えましたけど、どれか気に入ったのありました?」
ブライアンに少し心を奪われていた領主は、地面をみて輝かんばかりの目で呼び名の案を見ている。結構かわいいとこありますねお嬢さん。
「んんんーー、これ悩ましいわね、試し呼びとかあり?」
「もちろん!っていかがわしいお店の交渉みたいな話し方はやめてくださいよ笑」
ということで、1から順に名前を呼んでいった。マイヤ姉さんでグッと来てたみたいなので、ショタショタフェイス全開で、純朴な顔してマイヤ姉さんと言って抱き着いてみた。効果は抜群だった。だがコルセットは痛かった。母さんの庶民コルセットは痛くないのに。
「ぐぐぐぐ、色々外で会話もあるでしょうから、マイヤさんでお願いします」ギュー
「ぬふぁーい、ふぁいあさん」
子供の頃は自然と出来て簡単だったけど、大人になると、そうは行かないシリーズの定番である名前の呼び方決めをこなして、無邪気な子供からのボディタッチで距離感縮めて、さっきのストレス緩和がある程度終わった。女性に抱きしめられるのは好きだけど、そろそろはなしてくれないと進まないのだ。背中をポンポンして離れる。
よし、ここらで製作開始だ。ちなみに姉さん呼びは兄弟が居ないと食事の時に聞いたのであえていれたのだ。こういう気遣いって大人になると大事だぞー覚えてねマイヤさんとか偉そうに思ったりするのだ。
「倉庫から作業用のテーブルを出すところからです」
「では、私が参りましょう」
「ここのベンチで、待ってるわね」
はいブライアンに行った。近寄った。行きたかったんやろ。うちのブライアンはどうや?ええんかええのんか?鶴〇師匠も真っ青の脳内セクハラをしつつ、従者さんと雑談しながら倉庫に向かう。
「紙持ってきてくれたんですよね?」
「はい、少し多めに持ってきたので多少失敗しても大丈夫ですよ」
「はーい、じゃあなるべくデコボコの無いテーブルを作業机にしましょう」
カチャカチャとカギを開けて薄暗い倉庫でテーブルを探す。入口付近で執事が立ち止まっているので、どうしたのかと声をかけてみる。
「埃っぽかったですか?出すだけなら僕が出しますので外で待ってていいですよ」
「いえ大丈夫です。それより少し伺ってもいいですか?」
「ウェルギリウス様は、複数人の前でステータス開示などという辛い事を強いたのに、どうして私どもにやさしいのでしょう?先ほどの名前の呼び方や意図的な抱き着きは領主様を思ってですよね」
伺ってもいいですか?からの連続質問、もう聞きたい魂全開ですね。
・・・あらら、名前の件あからさますぎたかな?ぐぬぬ、偉そうに思ってたけどバレてたか。理由ねぇ、あたりまえの話なんだけど一応しておくかなぁ、変な勘ぐりも面倒だし。
「教会にいらっしゃいましたよね?」
「はい天使様が降臨されて、天使様に慕われておりました」
「天使の降臨、普通じゃありえない事です。なのに教会は普通の子供と同じように考えた。相手は5才児だから制御できる支配できると信じて、普通の子供と同じ対応した。それで歯車が少し狂っただけです」
「それと一緒です。領主様は、僕が知らない街の偉い人で居てはいけなかったんだと思います。普通は5才まで家に匿われてますけど、普通じゃない5才は別にいいんじゃないですか?」
「領主様は天使の愛しい子として活躍を期待をされていたのであれば、もっと家の両親と綿密に連絡をとるべきだった。5才前の私と顔通しもしておくべきだった。これはやりすぎかもですが、昨日の私の予定を把握しておく位はしていても良かったはずです、昨日は天使との約束を果たす為に行動していた日です、というと仰々しいですが実際に今も含めてそうですね天使との約束です」
「なんかややこしく言いましたが、簡単な話です。すごく悪い事をした人に普通の刑罰をしますかってことです。だから意地悪な僕は事あるごとに、ただの宿屋の息子ですって強調したんですけどね」
従者は静かに涙を流している、泣かすつもりはなかったんだけどなぁ。過去対応のガチ後悔も混ざってらっしゃるのかな、悪い奴を雇うことはなかったか。うーん地球文明みたいにヒューマンドラマなんて少ないだろうから感情への刺激耐性低い?とか割と冷静な事考えてたりして。
「私は、あの方の学園時代の学友でした10才から存じあげております。貴族令嬢として頑張っておられる姿も記憶にございます。幸いな事に目をかけていただき学園卒業後もお付き合いを持ちました。そして恋をし訃報により領に戻る為に悲恋となり、その後の苦労と努力を見てまいりました」
「供に長い時間を過ごして来たのです。それでも私はウェルギリウス様が先ほど地面に呼び方の案を描かれた時にお嬢様が見せた、あの嬉しそうな笑顔を久しく見ておりませんでした。どうかこれからも仲良くお付き合いをお願いします」
「はい、分かりました。・・・・もちろんそこに従者さんも居てくださいね」
従者は激しく涙を流している、鼻水も見える。これは戻ったらバレる。
「ヴぁい・・ずび・」
「さぁテーブルを探してしまいましょう、お嬢様がお待ちです」
「そして目元が埃だけじゃ言い訳になりそうありませんね、ちょっとだけ魔法使いましょう」
「回復!清浄!」パワワァ
それからガサゴソゴトゴト・・・・とあちこちを探して、いい感じのテーブルを見つけて2人で庭へテコテコと運んだ。
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