4話 きちんと拍動していく
「おはようウェル君、ご機嫌はいかがかしら?」
「あーあー」
どうやら無事、健康体で転生出来たみたいだ。出産時は押し出される衝撃と、産道の狭さと暗さ、痛いし息苦しいで思わず意識を手放しちゃった。でもアレは仕方ない、無理いきなり死ぬかと思った。
今は出産からどれくらいしたのかもわからない。言葉は話せないし、母さんの姿もうっすら眩しいボヤボヤで、声はエコーが効きすぎてて聞きづらい。でもまあ生後半年位までは、こんな感じだろう。
とりあえず眠いから寝る、今は昼かも夜かもわからない。時々口に含まされる乳の温かさに安心してまた寝る、背中を叩かれてケプっとなりながら寝る。
何度も何度も寝て起きて、きっと数か月の月日がたったであろう頃、母さんに授乳されながらベッドのようなもので暮らしていると母さんに抱きかかえられた。そのまま布みたいなので包まれたら、大きな振動が来た、きっと移動してるんだろうと思う。
それにしても眠い。
すごく明るい場所に着いたかと思うと、少し騒々しい場所に辿りついた。ボワンボワンと反響気味だが、たぶん人の声だ。
「ウェルくーん、ここがママのお仕事する場所ですよ、今日から一緒にしましょうね」
「あーあ」
どうやら抱っこしながら仕事をするらしい、長い距離を移動してないから自宅がお店とかなのかな、状況がわからないまま、眠気でうつらうつらしていると声が聞こえた。
「赤ちゃんですかっ」
「もう連れて歩いて大丈夫なんですか」
「母性本能をくすぐる」
お店のお客さんだろうか、複数の声とぼやけた姿が見える、だいぶぼやけてるけど色っぽいのも判別できそう、目を凝らしてみると赤っぽいの一つとと青っぽいの二つだ、ちなみに母さんは青っぽい。
「そうよーもうすぐ4カ月になるから、近くにおいてお仕事しようと思ってね」
「かわいいですけど、男の子ですか?」
「お名前はなんて言うんですかー?」
「んふ、指を握ってくる」プニプニ
男の子と名前と言ったな?いいこと聞いた、それ大事だ、中身は男だ、体はどっちだ?
その間、会話を聞かずにマイペースで、いきなりお触りしてくる勇者が居る。君は清潔なのか不安だぞ僕は、だが握り返す。ニギニギ
「男の子よ、名前はウェル君ことウェルギリウスよ」
「わー、こんなかわいい子が男の子ですかっ」
「ウェルギリウス君か、いい名前ですね」
「将来が危険、ニギニギに捕まった」
まあ男だよね、ってか可愛いとか数か月位であるのか?まあお世辞だよね。名前はウェルギリウスかぁ、すれ違いが続いた好きな人を探し求めて地獄の扉を開けそうだな。あとニギニギに捕まった子、チョロイン力高めだから気を付けるように。
「さっ貴女たちはこれからお仕事でしょ、のんびりしてないで行ってらっしゃい」
「はーい、じゃあ鍵を預けていきますね」チャリ
「行ってきます」
「ウェル君頑張って来るからね」
母さんは、そのまま鍵を預かると、どこかカチャカチャ音のするところに置いたみたいだ。どうやら家は、下宿か宿をやってるんだと思う。そしてそのまま近くの柔らかい布に置かれたようだ、また眠くなって来た、本当に子どもは寝るのが仕事なんだな…
母さんの仕事に連れられて、一緒に仕事(僕は寝るだけ)をしていたある日、僕を抱いている母さんの足元から幼い声が聞こえてきた。
「おかーさん」
「なぁにーセレちゃん」
「ウェル君もう寝ない?」
あれぇーお姉ちゃん居るの?そしてお姉ちゃんは僕を知ってるの?…あれか寝てる間に顔見せか、そうだよねこの数か月寝てるか授乳かだもんね、しかも授乳されながら寝てたりするしね。
「そうねぇ、これから少しづつ起きてる時間長くなってくるわよ、今は起きてるわ」
「お顔見ていい?」
「はい、どーぞ」
うすらぼんやりと小さめの青い何かが近づいてくる。これが姉か、まだ顔は分からないけど、きっと美幼女だろう。青い美幼女が僕に迫る―げっちゅ。
それから、何度でも繰り返す。なんてホムい幻聴を聞きそうな程、毎日を繰り返していると、体が成長している事を体感出来るようになってきた。
目が見えてきて、唇を閉じて発声できるようになり、簡単な言葉なら繰り返し言えるようになった。母音を主体に話せるので、母さんと少しながら意思疎通が出来るようになってきた。母さんと姉さんの顔もしっかりと見ておいた。まごうことなき美人と美幼女だった家族の顔面偏差値高杉。
このあたりの頃、以前より気になっていた父さんをはじめて見つけた。母さんが僕を抱いて立っていた近くの扉が開いていて、その奥に見えたのだ。会計カウンター脇のドアって感じだと思う。
「あーん?」(だーれ?のつもり)
「あれがパパよ、普段はずっとお仕事する場所に居るのよ」
父さん、家庭内ではあるけど職場に張り付きらしい、なにしてるんだろ。
「パパはみんなのごはんを作ってるんですよー」
「うーん」(ふーんのつもり)
ずっと火の番?鍛冶屋じゃあるまいし、ってか理由あんだろうな。しかしデカイな父は、母の乳もデカイけど生後半年位からみたら、もう山だ父マウンテンだ。
「ん、ウェルか、汚れてるからこっちに連れて来るなよ」
「はいはい、わかってますよ」
ひどいそんな!とか永遠に、はいを選ばなきゃいけないRPGの事を思ってみたけど。まともに考えると、料理に使う水や、血や、調味料が幼児に悪かったり、刺激が強いから、僕に近づかないし近づけないんだろうな、道理で姿を見ないと思った、仕事終わりとかに、清潔にして寝てる僕を見ていたパターンだろうな。
これで家族全員なのかな?料理人の父、管理人の母、美幼女の姉。なんか癖のある家族でも無く、悪い環境でも無いようだ、父さんを見ることによって、やっと転生が完了したかなって気持ちになった。
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