第4話
「ふう……少々、疲れましたね。というわけで殿下、甘いものなどいかがですか?」
アリス嬢が急に振り向いてそう言うと、何故かジュリアンがさっと包みを取り出した。
「これは公爵家の料理人が腕によりをかけて作り、ユージェニー様とご友人のお茶会に供されたものの一部をとりわけ厳重に箱に詰めて王宮へ運び毒味をすませたものをボックセル様に持ってきていただいたクッキーです!」
「くっ……手作りのクッキーで殿下の御心を掴み、わたくしが「殿下に怪しいものを食べさせないで!」と乱入したら「アリスが私のために作ってくれたクッキーを怪しいとは何事だ!? お前のような心の醜い者を王妃にする訳にはいかない! 婚約は破棄する!」と殿下に言わせてわたくしを断罪するおつもりね!?」
落ち着けユージェニー。今の聞いてたか? このクッキーが私の元に至る経路にアリス嬢はいっさい関わっていないぞ。
というか、そもそも私のために作られていない。聞いた限りでは、ユージェニーのお茶会の為に作られた残り物じゃないか。別にいいけど。
「殿下が食べるものに私のような男爵令嬢が触れられませんからね! ボックセル様に持ってきていただきました!」
「ふっ。俺とアリス嬢の仲だ。これぐらいお安いご用さ」
名前間違えて覚えられているけど、そんな仲でいいのか。それとも改名したのかボックセルに。
「法廷で会いましょう!」
お前はもう一人で法廷へ行ってこい。
「わたくしは……誰からも信じてもらえずに、殿下からも皆様からも蔑まれて……断罪されて婚約破棄される運命なのね……」
何故か打ちひしがれた様子でユージェニーが言う。
一連の流れでなんでそんな結論に至ったのか本当にわからない。
婚約破棄なんてする訳がないし、そもそも出来る訳がない。
よしんば、ユージェニーが本当に誰かに嫌がらせをしていたり階段から突き落としたりしていたとしても、それくらいで失うような地位ではない。
「ユージェニー様、落ち着いてください。筆頭公爵家のご令嬢である貴女様が下位貴族である私に嫌がらせをしたり階段から突き落としたところで、婚約破棄などされるはずがございません。筆頭公爵家であり王太子殿下の婚約者であらせられる地位とは下位貴族の命の一つや二つくらいで脅かされるものでないことは、貴族であれば誰もが承知のことです」
なんでアリス嬢がユージェニーを説得しているのかは本当に理解できないが、言っていることはその通りだ。
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