第17話

「いってらっしゃいませ、ご主人様」

「おう、何かあったら携帯に連絡をくれ」


 けっきょく、ソフィアとの同棲がスタートしてしまった。

 以前よりもラブラブというおまけ付き。


 心なしか会社へ向かうサスケの足取りは軽い。


 2時間しか寝ていないのだが……。

 頭はピンピンしており、食欲もガンガン湧いてくる。


 これが愛のパワーか。

 一夜にして若返りすぎだろう。


「おはよ〜す」

「サスケさ〜ん!」


 会社につくと青い顔した若手社員が出迎えてくれた。


「ん? どうした? 顧客のトラブルか?」

「そうです! 私一人じゃ死んじゃいそうです!」

「安心しろ。人間、そう簡単に死なない」


 助けを求められたので一緒に調べてあげることにした。


 こりゃ、データベース周りが原因だな。

 アプリケーションの担当者では手が出せない部分。


「お客さんに電話して、データベースを担当しているベンダーを動かしてもらえよ。アプリケーションの復旧はそれからだな」

「えぇ〜、サスケさんが電話してくださいよ〜」

「はぁ、お前、小学生かよ」


 そりゃね。

 電話したくない気持ちは理解できるけれども。


「だって、このお客さん、いつも喧嘩腰だから怖くて」

「それはお前がごにょごにょ話すからだよ。しっかりと事実だけを伝えりゃいいんだよ」


 たとえば、先にメールを送るとか。

 で、そのメールを読んでもらいながら会話するとか。


「でしたら、サスケさんが一回お手本を見せてください」

「こいつ……」


 サスケの時代だったら、頭をぶん殴られていたな。


 う〜ん。

 この後輩には成長してほしいのだが……。


「いつもお世話になっております。xxxシステムズの支倉と申します。社内システムを担当している、xxx様は出社しておりますでしょうか?」


 代わりに電話しちゃった。

 くぅ〜、甘い、甘すぎるぜ。

 まあ、いっか、この子、入社1年目だし。


 率先垂範そっせんすいはんというのかな。

 先輩たちが手本を示さないと、後輩は安心してついてこない。

 サスケの時代とは違うのだ、と割り切っておく。


「……はい……はい……よろしくお願いします」


 ぷち。

 電話を切ってから、ジト目を向ける。


「お客さん、別に怖い人じゃなかったぜ。むしろ優しい部類だぜ」

「えぇ⁉︎」

「たぶん、お前が怖いと思うから怖いんだ。勝手なイメージだよ」

「はぁ? そうですか?」

「まあ、俺が1年目の時も、お客さんは怖いと思ったけどな。けっきょく、気持ちの持ちようなんだ。自信がないから、怖いと思うんだ。お前は場数を踏んで、とりあえずスキルを身につけろ」

「はい!」


 後輩が椅子から立ち上がる。


「サスケさん、ありがとうございます! とても勉強になりました!」


 なんだよ。

 素直でいい子じゃねえか。


 この日、他にトラブルは起きることなく定時を迎えた。


 こっから先は残業タイム。

 サスケは買ってきた缶コーヒーを一気飲みして、疲れた脳みそにかつを入れる。


 なるべく早く終わらせないと。

 家で待っているソフィアが退屈しているかもしれない。

 あと、サスケもいやされたい。


 一部の社員がザワザワしていた。


「なんでしょうか?」

「さあ? 気になるな」


 情報を仕入れた後輩が戻ってくる。


「サスケさん、特大ニュースです」

「どうした? 次のボーナスは増額なのか?」

「そうじゃなくて……このビルの入り口のところに、すごい美人が立っているそうです」

「ほう」


 まさかソフィアか?

 いや、そんなバカな。


「そんで、うちの社員の彼女じゃないかって噂です」

「マジかよ。噂するほどの美人なの? はじめての現象だな」

「なんでも金髪で、胸が大きくて、スタイルもいい超絶美人だそうです」


 ゲホッ! ゲホッ!

 サスケは胃が飛び出そうなくらいむせた。


「えっ⁉︎ えっ⁉︎ どうしたのですか?」

「いや……なんでも……」

「まさか、誰の恋人か知っているのですか?」

「いや、そういうわけでは……」

「あっ! わかった! サスケさんの恋人でしょう!」


 ギクッ!

 サスケは嘘が下手だから、つい表情に出てしまう。


「ええっ⁉︎ やっぱり彼女がいるじゃないですか⁉︎」

「おい、落ち着けよ。声がデカいって」

「昨日、俺に嘘をついたってことですか⁉︎」

「いや、そうじゃない。それは誤解だ」

「どこが違うのか、教えてくださいよ」

「まあ、待て。本当に俺の知り合いなのか、一回見てくるから」


 ひえぇぇぇ!

 会社の人間にソフィアの存在がバレるとか。


 サスケは手元の携帯をポチポチしながら、大慌てでオフィスを抜け出した。

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