第2話

 な〜んか不思議な夢を見ていた。


 酔っ払って夜道を歩いていた。

 すると吸血鬼の女の子が倒れていたので、一夜の宿を恵んであげた。

 そんなストーリーだったと記憶している。


 あ〜あ。

 仕事のストレスが溜まっているのかな。


 今年で32歳になるが、深夜に女の子が1人きりなんてシチュエーション、出くわしたことがないぞ。

 そもそも吸血鬼ってフィクションの生き物だろうが。


 そういや、あの娘、空を飛んでいたよな。

 その気になれば、無人島でも、リゾート地でも、ひとっ飛びなのでは?

 ゆえに一夜の宿なんて必要ないはず。


 ピピピピッ! ピピピピッ!

 携帯のアラートが鳴ったので、止めるべく腕を伸ばしたとき、


 むにゅん!


 とサスケの手に触れるものがあった。


 心地のいい弾力。

 水風船とか水まんじゅうを思い出させる。


 手のひらにしっくりくる形。

 たとえるなら、お茶碗ちゃわんを伏せたようなフォルムだ。


 なんだっけ?

 こんなもん、家に置いていたっけ?


 モミモミ、モミモミモミ。

 不思議と指が止まらなくなってしまう。


 メッチャ気持ちいいな、おい。


 この中毒性、あれに似ている。

 リラックス用アイテムとして売られているゴム製のボール。


 柔らかくて、弾力があって。

 人肌みたいにヌクヌクしていて。

 これらの条件に合致するもの、グラマーなお姉さんの胸以外に思いつかないが……。


「なっ⁉︎」


 サスケの真横で金髪のレディが熟睡していた。

 男性物のTシャツをミニ丈のワンピースみたいに着ている。


 下は、たぶん、何も穿いていない。

 怖すぎて確かめられないけれども。


 誰だ⁉︎

 こいつ⁉︎

 サスケの心臓がバクバクして、寝起きの脳みそに酸素を送りまくる。


 身長は160cmから170cmくらい。

 巨乳といっても差し支えない胸のサイズ。

 なのに腰のあたりはシュッと引き締まっている。


 まさにモデル体型。

 完ぺきすぎる、ヴィーナス像かよ。

 骨までとろけそうな美少女とは、この子のためにある表現といえよう。


 うっそ〜ん⁉︎

 もしかして犯罪なのか⁉︎

 サスケの脳内でパトカーのサイレンが再生される。


 あるいは、そっち系のサービスを利用したのか⁉︎

 こんなSSS級美女、10万円くらい、下手したらそれ以上取られるんじゃね〜の⁉︎


 ふと思い出したのは、夢の中で出会ったソフィアという少女。


 ソフィアの外見は10歳くらいだった。

 もちろん、胸はぺったんこで、体重だって年相応という感じだった。


 なのにこの子はどうだ?

 少なく見積もっても17歳はないか?

 2人の共通点といえば、ツヤのある美肌と、まぶしい金髪くらい。


 まさか一晩で成長したというのか?

 自称ヴァンパイアだから、何が起こっても不思議はないが。


 やばい……。

 理解できないことが多すぎて、頭が割れちゃいそうだ。


「もしもし、お嬢さん、もしも〜し」

「…………」


 スースーと呼吸する口から、鋭くとがった犬歯のようなものが生えていたので、サスケは顔を近づけてみた。


 間違いない。

 ソフィアが吸血鬼のアイデンティティと呼んでいた牙だ。


 吸血鬼なのか?

 やっぱり、ソフィアなのか?

 とりあえず鳴りっぱなしのアラームを止めておいた。


 サスケが腕組みしていると、女の子がころんと寝返りを打ち、サラサラの金髪を押しつけてくる。


 ゾクリッ!

 シルクみたいな肌触りにびっくりする。

 女の子の髪って、いや、ソフィアの髪って、こんなに気持ちいいんだ。

 独身男には刺激が強すぎるよ……て、アホか。


「うぅ……んん?」


 血のように鮮やかなまなこがこっちを向く。

 そう、ソフィアの瞳はルビー色なのだ。


「起きたのか? 君、ソフィーなのか?」

「ねえねえ、サスケ、お腹すいた〜」

「て、おい、ちょっと」


 寝ぼけているのか、ソフィアは猫みたいに甘えてきた。


「こらこら、朝から心臓に悪いだろう」

「何なの? 私の体で興奮しているの? えっちぃ〜」

「あのね……からかうなよ」


 なんか調子が狂うな。


 とりあえずソフィアを座らせてみた。

 下半身が見えないよう、太ももの上にはけ布団をのせておいた。


「念のために確認だが、君はソフィーなのか?」

「そうだよ〜」

「にしては外見が変わりすぎているのだが……。昨夜の君は、もっとこう、小さくなかったか? 明らかに子どもの体格だったと記憶している」

「あれ? 説明しなかったっけ? あれは省エネモードの姿で、本来の私はこの姿なんだよ〜」


 説明を聞いたような、聞かなかったような。


 酔っていたから思い出せん。

 断言できるのは、サスケと美女が一夜を共にした、ということだけ。


「サスケのアレ、すごかったわよ」

「いきなり何なの⁉︎ アレって何なの⁉︎」

「ほら、アレよ。アレといったら一つしかないでしょう」

「えっ? もしかして、やっちゃったの、俺たち⁉︎」

「うん。とっても感動しちゃった」


 ドッカーン!

 サスケの羞恥心しゅうちしんが大噴火を起こす。


 そのリアクションを気に入ったのか、ソフィアはクスクスと色っぽく笑った。


「ケ・ツ・エ・キ」


 ああ……。

 血液ね。


「俺の血、飲んだんだ?」

「うん、サスケが一口ならあげる、て許可してくれたから」

「そうか、そうか、血液ね。それを聞いて安心したよ」

「え〜、なになに、エッチな想像しちゃった?」

「うるせえ……」

「さっき、私の胸を嬉しそうに揉んでいたもんね〜」

「なっ⁉︎ まさか⁉︎ 君はタヌキ寝入りしていたのか⁉︎」

「うふふ、別にいいのよ。宿と血を恵んでくれたお礼だから」

「えええっ⁉︎ 君には恥じらいってものがないのか⁉︎」

「別に触られて減るものじゃないしね〜」


 ソフィアは髪を耳にかけながら、アイドルみたいに小首をかしげた。

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