【義妹SIDE】戦争始まる
「ディアンナ、どこに行っていたのよ!」
「は、はい! ただいま!」
メイド服を着たディアンナはリノアの元へと向かう。
三人は城からその情景を見ていた。多くの兵士が行進していく。目的地は勿論、植民地化する予定の敵国ルンデブルグである。
リノア王女、それから父親である帝王。それから召使い――もといリノアの玩具、あるいは所有物となったディアンナ。三人は城のテラスからその情景を見下ろしていた。
「お父様、ついに戦争が始まるのですね」
「ああ」
そう言ったリノア王女と帝王の目は輝いていた。爛々と。まるでサーカスを見る子供のような目だ。無邪気で、純粋に楽しみにしているような目だ。
サーカスを見ている子供はサーカスの団員がどれほど苦労しているかを知らない。例えばロープから落ちて、地面に激突して大怪我をしたとしても、観客には何の痛みもない。痛いのはその団員だけだ。
二人はそういう気分でその情景を見守っているのだ。決して自分たちが傷つかないことを知っているから。安全圏から楽しんでその情景を見ているのだ。
「楽しみですわ、お父様」
(楽しみ? 戦争を楽しみ? くるっていますわこの女。わかってはいたことですけど、相当に頭のネジがぶっとんでますわよ! そりゃもう、1本どころか100本くらい)
ディアンナは胸中で毒づく。お前が言うな、という感じではあったが、ディアンナをもってしても、リノア王女の異常さは際立っていたのだ。
無論、口には出さない。出した瞬間、銃殺刑か。テラスから放り投げられて赤いトマトのようなディアンナの出来上がりである。
「ああ。楽しみだな、リノア」
帝王も同じ様子であった。心底戦争を楽しんでいる。それで兵士が傷つくことなどお構いなしだ。兵士を自国民だとは思わず、代えの利く消耗品だとしか思っていない様子だ。
「ああ、早く、お父様! 私待ちきれませんわ! あのエル王子とレオ王子が私の玩具になるところを想像するだけで涎が出てきますわ! どうやって可愛がってあげましょうか! ゆっくりと爪をはぐのもいいし、犬のようにチンチンもさせてみたいですわ! お散歩も楽しみたいですの! ゆっくり、ゆっくりと私の色に染めて差し上げますわ」
リノアは恍惚とした表情で語る。なんと恐ろしいことか。いくらエル王子やレオ王子を逆恨みしているディアンナでも思わず引いてしまうような発言であった。
リノア王女の嗜虐性(サディスティック)にはドン引きしていた。
「もうすぐだぞ。リノア! 必ずお父さんがお前の玩具を手に入れるからな! そしてルンデブルグの民を踏みにじり、我に頭(こうべ)をたれさせてやろう! ルンデブルグを我ら帝国ビスマルクの植民地にしてやるのだ!」
「パパ! 大好き!」
リノアが帝王に抱き着いた。
「はは、なんと可愛い娘よ! リノア!」
まるで玩具のぬいぐるみを買ってもらったときの娘のような態度である。実際、その通りなのだろう。リノアにとってはエル王子もレオ王子も玩具のぬいぐるみと大差ないのである。
流石のディアンナも引いていた。だが、ディアンナは一人ほくそ笑む。
これであの義姉のアイリスの平和で幸福な日常は終わりを告げるのだ。
そう思えばざまぁみろ! という感じだった。アイリスの王宮での王子とのラブロマンスも、薬師として重宝されている夢のような生活も。
すべてはぶち壊しになる。アイリスは自分と同じめを味わうのだ。ある意味、ディアンナの望みが叶うのだ。
そう考えればこの帝王と王女の悪だくみには多少は感謝しなければならない。無論、彼らにそのような、ディアンナのためのような思惑は一切ない。己の欲求を満たしていく上で、偶然ディアンナと利害が一致したというだけだ。
(ふっふっふ! ざまぁみろですわ! あの根暗女! 無茶苦茶にされればいいんですわ!)
ディアンナは意地の悪い笑みを浮かべていた。
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