国王に援軍を頼みます

 翌日の事でした。宿屋で一泊した私達は王城へと向かいます。国王と面会する手はずになっていたのです。


「ここが王城……」


 見た事はありましたが、中に入ったことはありませんでした。


「入ったことないのか? アイリスは」


「ええ。私は王城の関係者でも何でもありませんでしたから、見た事はあっても、入ったことはありませんでした」


「……そうか。まあ、入ろうぜ。入り口で止まってても何にもならねぇし」


「ええ」


 私達は王城に入っていきます。



「お待ちしておりました。私は王国アーガスの執事。セバスと申します」


 執事のお爺さんが私達を出迎えます。


「国王陛下がお待ちです。こちらにいらしてください」


 私はセバスさんに導かれ、国王陛下のところへと向かうのでした。


 ◇


「国王陛下。隣国ルンデブルグからの客人をお連れしました」


「全く……何の用じゃ?」


 国王はそっけない態度で聞いてきました。あまりこちらの事をよく思っていない様子です。


「この度は面会の機会を頂き誠にありがとうございます。私は隣国ルンデブルグの第一王子のエルドリッヒと申します」


「第二王子のレオハルトです」


 私も二人に倣って名乗ります。


「薬師のアイリスと申します」


「そうか。そなたが薬師のアイリスか。噂には聞いておる。全くギルバルト侯爵家よ。侯爵家という身分でありながら国益を損ねおって」


 どうやら国王陛下は私の事を知っていた様子でした。ギルバルト侯爵家とも何かしらの関係があったのかもしれません。私の知る由ではありませんが。


「諸君等が何を言いに来たのかはある程度理解している。諸君等はあの帝国ビスマルクと戦争を行うつもりなのだろう? 大方その援軍の協力でも打診に来たのであろう?」


「その通りであります。ルンデブルグとしても戦争は極力回避したい。そして再三の和平交渉もしてきました。ですが帝国ビスマルクは一切の妥協をしない連中です。我がルンデブルグの植民地化を望んでいるのです。我々も否応なく、戦争という選択肢を取らざるを得なかったのです」


 エル王子は事情を説明します。


「……そうか。貴国と帝国が戦争を行う分に関しては我らには何の関係もない。好きにやるがよい。だが、援軍の協力となると話は別だ。自国の兵士を貸し出す。つまりは自国の兵士を他国の戦争に連れて行くという事だ。当然そこで多くの人命が失われる可能性がある」


「それはおっしゃる通りであります。無論ただで援軍の協力をして欲しいというわけではありません。我が国は現在貿易収支で大きく潤っています。その為、貴国にそれなりの援助金を支払う事ができます。さらには隣にいる薬師のアイリスです」


 私に話が振られます。


「彼女は現在流行している、流行り病に有効な治療薬を調薬する事ができます。彼女の治療薬も優先して貴国に提供する事を誓いましょう」


「ふむ……そうか」


「ご検討頂けないでしょうか? 国王陛下」


「うむ……結論は」


 しばらく間を置かれます。私達の間に緊張が走るのです。


「貴殿等の申し出を棄却する」


 申し出は受け入れられなかったようです。


「……くっ。そうですか」


「申訳ないの。貴殿等の提案は勿論魅力的だ。だが、やはり自国の兵士の命を危険に晒すわけにもいかないのだ。わかってはくれぬか?」


「わかりました……この度はお話を聞いてくださり誠にありがとうございました」


「こちらこそ、遠路はるばる足を運んでくれたこのような結論となり、誠に申し訳ない。気を付けて帰ってくれ」


 こうして私達は援軍の打診を断られたのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る