ロズワール様は変わり果ててしまっていました
「ど、どうしてなのです!? どうしてロズワール様がこんなことに!」
私は変わり果てたロズワール様を見て、驚いてしまいました。
「アイリスか……」
「……ん? アイリス、この汚いおっさんと知り合いなのか?」
「レオ、流石に失礼だろ」
「この方は私の婚約者だったロズワール様という方です。ディアンナに嘘をつかれ、婚約破棄をされてしまいましたが……」
今ではもう遠い思い出です。そんなに前ではない。せいぜい数か月くらい前の出来事なのですが、もう何年も経っている気がしました。
それだけ色々な出来事があったからに違いありません。
「アイリスはこんな浮浪者みたいなおっさんと婚約してたのか?」
「レオ! 口を慎め!」
エル王子は怒鳴ります。普段は温厚な方ですが、やはり肉親相手では態度が違います。良くも悪くもそれが近親者という事なのでしょう。
「いえ、ロズワール様は名家の嫡男のお方でした。身なりの整った素敵なお方で」
「それが一体、どうしてこんなことに?」
「私が聞きたいくらいです」
「アイリス? 知りたいか!? どうして僕がこんな事になったのかを!」
ロズワール様は語り始めます。
あれからロズワール様とディアンナの新たな婚約者であるアンナ。その二人及び肉親が件の伝染病にかかったそうです。その結果ロズワール様一家は私の処方した薬を購入するために多額の費用を捻出する必要がありました。
ディアンナと同じです。その結果としてロズワール様はありとあらゆる私財を失い、こうして路上生活者になってしまったそうです。
なんという転落劇でしょうか。流石に私も想像する事すらできませんでした。
「どうだ!? 惨めだろ! 今の僕は!?」
「そ、そんな惨めだなんて!」
「アイリス! 内心お前も僕を見下しているだろ!? 隣にいる美しい男達はなんだ!? お前の新しい婚約者か!」
「婚約者ではありません。隣国であるルンデブルグのエル王子とレオ王子です。私は王宮で薬師として働いているのです」
「へー……王子ね。随分違いだな。僕はこんなにも落ちぶれたのに、アイリス、君は随分と良い生活をしているようだね。アイリス、君、僕との婚約が破棄されてよかったと思っただろ? 今君は心の中で僕を笑っているだろ!?」
「そ、そんな事ないです」
「嘘だ」
ロズワール様は私に掴みかかってきます。目が怖いです。
「おっさん、被害妄想も大概にしろよ。アイリスが怖がってるだろ」
レオ王子がロズワール様を引きはがします。
「くっ。なあ! アイリス、元婚約者のよしみでお願いがあるんだ」
「お願いですか?」
「金だよ! 金を貸してくれないか! 今日の飯にも僕は困ってるんだよ!」
「貸すって……」
路上生活をしているロズワール様にとても返すアテがあるとは思えません。これではくれてあげるようなものです。
「ほらよ」
レオ王子は金貨を道に転がします。コロコロと金貨が転がっていくのです。
「わっ! 金貨だっ! 待て! 待てぇ!」
「おっさん、これ持って失せな。それでもう二度とアイリスには近づくな」
「拾うな! 拾うな! その金貨は僕のだぞ!」
ロズワール様は金貨を必死に追いかけ、そして覆いかぶさるのです。誰にも奪われないように。
「へへっ! これでしばらく生活できそうだ!」
目が血走っています。さらには食事を想像して唾液まで垂れ流しています。まるで別人です。
衣食住が保証されなくなることで、人間はここまで品性がなくなってしまうというのでしょうか。
とてもかつてのロズワール様と同一人物とは思えません。
「いくぞ……アイリス。あのおっさんに付き合っててもいい事なんてない。不愉快なだけだし、時間の無駄だ」
「はい……」
こうして私はロズワール様から離れていくのです。それから彼がどうなったのか、私には知る由もありませんでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます